第20話 包囲監視

 話は一か月ほど前にさかのぼる。


「私と翔太さまが結婚できるように応援して」

 そう菫≪すみれ≫姫から打ち明けられた翌日、私、愛≪めぐみ≫姫は、ぬいぐるみに盗聴器を仕込み、これを翔太兄さまのべッドに置いてもらうようにと菫姫に渡した。


 盗聴器からの情報で、早速、星姫が三日と空けずに彼の部屋にお泊りを繰り返している事実を突き止めた。


 さらに盗聴開始から約二週間後、兄さまは雅姫と関係を持った。何ともお盛んなことだ。

 朝っぱらから雅姉さまの昨夜の醜態の謝罪と、あられもない嬌声を散々聴かされて辟易≪へきえき≫とした後、二人の狼狽したやり取りが耳に飛び込んできた。兄さまったら、避妊に失敗して中出しをしてしまったらしい。

 

 雅姫の次の生理予定日は十日後、もし生理が遅れたら二人は冴島さんに相談するという。

 これは一大事である。

 私はすぐさま星≪あかり≫姫を呼び出して情報を共有し、菫姫と三人でこの事態に立ち向かうことを提案した。星姫も嫌はない。私たち三人は、二人の行動を徹底マークすべく厳戒態勢を敷いた。


 二週間後、冴島さんの部屋へ向かう二人を目視確認、この様子だとやはり生理はまだ来ていないようだ。


 30分後、消沈した様子で部屋から出てくる二人、おそらく冴島が妊娠の事実を確認し、彼らに伝えたのだろう。

 でもおかしい。兄さまが中出ししてからまだ二週間、妊娠検査薬を使ったとしても、陽性反応が出るには期間が短か過ぎはしないか?

 

 冴島は嘘をついている。私はそう直感した。


 二人が翔太兄さまの部屋に入ったのを確認すると、菫姫に兄さまの部屋の盗聴をするように指示をし、私は星姫と二人で冴島の部屋に乗り込んだ。


 チャイムを乱打すると、冴島がドアを開けた。

「これは、星姫様に愛姫様、この冴島になにか御用でしょうか」

「とぼけないで、冴島! あなた、あの二人に嘘ついたでしょ」

 

 有無を言わさず彼女の部屋に押し入ると、リビングのテーブルの上に検査薬、一つは陽性、もう一つは陰性を示している。

「冴島、あなた、あらかじめ陽性の検査薬を用意して、二人をだましたのね」


「さすが愛姫様、ご明察です」

 あっさり嘘を認めた冴島、その時菫姫から電話が入った。


「大変! 翔太さまが雅姉さまにプロポーズして、それでエッチも始めちゃったよ」


「冴島、合い鍵!」

 星姫が冴島から翔太兄さまの部屋の合い鍵を取り上げると、私たちは階下の兄さまの部屋に向かってダッシュした。


 チャイムを乱打したが、中からの反応はなし、星姫が躊躇なく合い鍵を使ってドアを開けると、私たちは部屋の中に押しいった。


 やはり二人は愛の交歓の真っ最中だった。


「そこまで!」

 星姫の言葉に、全裸で抱き合ったまま、唖然とする二人、星姫が雅姫の上から翔太兄さまを力づくで引きはがした。

 案の定、兄さまは避妊具は装着していなかった。


「陽性の検査薬は冴島が用意した偽物だったんだよ」

 星姫は、そう言うと、 慌てて下着をつけた二人をベッドから引きずり下ろし、リビングに引き立てた。

 遅れて駆け付けて来た菫姫が加わり、私たち三姉妹は、半裸の雅姉さまと翔太兄さまと対峙した。

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