第14話 心機一転

 とある真夏の夜、冴島さんのハニートラップにからめとられてから早や三週間が経過、環境の激変に戸惑うばかりの毎日だ。


まだまだ暑い日が続いてはいるものの、慌ただしい中で季節は徐々に秋へと移り変わっていく。


 王位継承者などというとんでもない重責を背負うことになってしまったが、ここは

 心機一転、今の状況の中で、自分のできる最善を尽くそうと気持ちを切り替えた。

 

 王位継承権所有者であることを告げられたその週末、早速荷物をまとめて王宮の敷地内にある職員寮に引っ越しをした。

 俺の住んでいたのと同じ二階建て、各階四部屋ずつのアパートメントタイプだが、部屋の広さ、豪華さは全然違う。

 部屋は1LDKながら、ベッドルームがリビングと同じくらい広くて、単身者には不釣り合いなダブルベッドが置かれ、風呂場も不必要に豪華だ。こんな部屋を俺にあてがう人の魂胆が透けて見えるようだ。


 自分は1階の左端の部屋、2階のに右端の部屋に冴島さんが住んでいるが、それ以外に住民の気配はしない。多分空き室なのだろう。


 今はまだ大学が夏休み期間中なので、午前中は瓜生さんの王室の歴史のレクチャーを受けている。採用前研修、インターンシップということになるのだろうか。これがなかなかに興味深い。


 例えば俺のように国王のひ孫の孫が王位を継ぐことは前例のないことではなくて、大和国第26代のケータイ王は、第15代のオージン王の五世の孫で、25代のブレツ王に跡継ぎがいなかったため、ブレツの妹君と結婚して王位を継いだそうだ。

 なるほど、まるでほぼそのまま今の俺の状況だ。ま、もっともこれは今から1500年以上前の話なんだけどね。

 

 大学では、バレーボール同好会に所属していたが、練習にも、夏合宿にも行けそうにないし、残念だけど退会せざるを得ないだろう。


 毎年夏休みには二週間程度、京都の祖父母の元へ帰省していたが、これも延期せざるを得なかった。二人には今回のことはまだ話していない。いずれ帰省してゆっくり事情を説明しないと。


 冴島さんからは姫様たち五人全員と冴島さん、瓜生さんの連絡先が登録されたスマホを受け取っている。

 これを使って姫様たちと個人的な連絡を取ることは全くの自由だ。


 葵≪あおい≫姫は、どうやら俺を避けているようだ。

 毎日メッセージを送っているのだが、既読は秒でつくものの返事が全くない。いわゆる既読スルー状態だ。


 あの日以来、星≪あかり≫姫との関係は続いていて、三日と空けずに俺の部屋に泊まっていく。

 菫姫にプロポーズした経緯を正直に話し(彼女には一笑に付された)、とにかく菫姫だけにはこの関係がばれないようにと、くれぐれもお願いをした。


 その菫≪すみれ≫姫だが、これはもう、相思相愛の婚約者ということになる。

 なにせ小学生なので、もちろんプラトニック、指一本触れていない。部屋に呼ぶのもはばかられるので、毎日何度もメッセージアプリでやり取りをしている。

 絵文字だらけのかわいいメッセージを読むと、ほんわかした気分になってくる。


 菫姫からぬいぐるみを貰った。猫っぽい動物のぬいぐるみで、「私だと思ってかわいがってね。夜は抱いて寝てね」とのことだった。かわいいなー、菫姫。


 姫君たちとの状況は、ほぼ愛≪めぐみ≫姫には打ち明け、相談もしている。何しろ彼女は王室内における戦略的パートナーだからな。


 初対面の日に地雷を踏んでしまったかと心配した雅≪みやび≫姫だが、先方から連絡があって、「彼のことで相談に乗ってほしい」とのこと。今晩、俺の部屋に訪ねてくることになった。

 彼女との距離を縮めるために、ここはちゃんと聞いてあげようと思ったのだが、それが、あのような、思いもよらない事態に発展するとは…




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