剣聖修行編
ミナ 剣聖修行編:第一章 “資質と重圧”
王都の東、王立武芸院・特別訓練区画。
「Sランク適性者」だけが集められるこの場所に、ミナはいた。
広大な石造りの訓練場、天井が高く陽が差し込み、どこか神聖な気配すら漂っている。だが、その空気とは裏腹に、ミナの心は落ち着かないままだった。
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「……あれが新入りの“剣聖候補”か」
「へぇ、見た目は普通の田舎娘じゃん」
訓練生たちの冷ややかな視線が、ミナの背に突き刺さる。
彼女たちもまた全員、A〜Sランクの資質を持つ者たち。
戦場の血を浴びてきた者もいれば、王族の直属部隊出身の者もいる。
その中に、突然「剣聖」の資質を持つと告げられた田舎娘――ミナが放り込まれたのだ。
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(……やっぱり、場違いだったかな)
アレンとの別れの日。あんなにも強く誓ったはずなのに、胸の奥には消えない不安があった。
――そんなとき。
「おい、そこの剣聖候補」
鋭い声が飛んだ。
振り向けば、短く刈り上げた黒髪の少女が立っていた。年はミナより少し上に見える。凛とした目元と、確かな自信に満ちた立ち姿。
「私、ユイ=カルナ。王国騎士団の次期副団長候補よ。ちょっと、手合わせしてみない?」
挑発ではない。純粋な実力確認――だが、断る理由などない。
ミナは小さくうなずくと、木剣を握った。
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「はじめッ!」
木剣が火花のようにぶつかる。
一撃目で、ミナはユイの体勢の重さに驚いた。
(速い……っ! でも――)
ミナは自分の中心に「剣聖の力」が流れているのを感じた。
意識の奥、心の深い場所で“何か”が剣を導いている。
「やるじゃん!」
何度か打ち合った末、ユイがふっと距離を取った。
「アンタ、本当に初心者? 動きが粗いけど、感覚が鋭すぎる。これが“資質”ってやつか……」
初日の戦績は引き分けだった。
だがその日から、ユイはミナに毎日のように手合わせを申し込んでくるようになる。
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▽夜の独白(ミナの日記より)
> 剣聖なんて、まだ名乗れるような自分じゃない。
> でも、確かに“剣が教えてくれる”感覚はある。
> 剣を握るたびに、心が澄んでいく。
>
> アレンに恥じない自分になれるように、負けたくない。
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数週間が経ち、ミナはその実力を急速に伸ばしていった。
次第に、周囲の見る目も変わりはじめる。
「ミナ=エルグレイン、次の模擬戦――Sランク騎士教官との一対一に出場を命ずる」
訓練所の掲示板に貼り出された命令書を見て、ざわめきが広がった。
そして、運命の模擬戦当日――
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