処刑された元勇者は、復讐よりも愛を知りたい──。
@ikkyu33
愛は復讐を凌駕する
裏切りと復讐の誓い
月明かりが、森の木々の隙間から静かに地面を照らしていた。風もなく、虫の音さえも遠く感じる、異様な静けさ。その中に、ひとりの男が立ち尽くしていた。
彼の名はアレン。
かつて世界を救った英雄であり、人々の希望そのものだった。魔物の脅威に立ち向かい、数々の戦いを勝ち抜いてきた。誰よりも仲間を信じ、誰よりも国を愛した男――そのはずだった。
だが今、彼を包むのは、嘲笑と冷たい視線だった。
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「お前は裏切り者だ! 処刑する!」
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鋭い声が森に響き渡る。
それは、かつて隣で共に戦った者の声だった。
アレンは抵抗することなく、ただ立っていた。縛られた腕、地面に膝をつくでもなく、真っ直ぐ前を見つめて。
信じていた仲間たちが、彼を糾弾する者へと変わっていた。その瞳には、もはや友情の影すらない。王国の兵たちは、まるで汚物を見るような目で彼を睨みつけていた。
――なぜだ。
俺は、何も裏切ってなんかいない。
心の奥で叫んでいた。だが、その声は誰にも届かない。
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「信じてくれ…! 俺は何も悪くない!」
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声を振り絞って訴えた。喉が枯れるほど、命を懸けるように。
けれど、それでも周囲の空気は冷たく、重く、変わることはなかった。
アレンは理解した。これは陰謀だ。
自分は利用され、そして捨てられたのだと。
裏で操っていたのは、最も信じていたはずの者――かつての戦友たち。
目の前の男、ライナスもその一人だった。
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「許してくれ…!」
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ライナスは心の中で叫んだ。叫びながら、拳を握りしめ、唇を噛みしめていた。けれど、口を開くことはできなかった。
言葉にしてしまえば、全てが崩れてしまう気がした。
自分が間違っていたと認めてしまえば、戻れなくなってしまう。
それが恐ろしかった。
(これは…仕方なかったんだ。国のためには、これしかなかった…)
自分にそう言い聞かせながら、ライナスの視線は次第にアレンから逸れていった。
裏切りの罪悪感が、じわじわと彼の胸を蝕んでいく。
それでも、彼は何も言わず、何も止めず、ただその場に立ち尽くしていた。
そして――
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「絶対に許さない…。お前たちを、必ず復讐してやる!」
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その言葉を最後に、刃がアレンの首元をかすめ、意識は闇に沈んだ。
――そして、次に目を開けた時。
彼は、見知らぬ天井の下にいた。
息苦しさはない。痛みも、傷もない。
身体は軽く、立ち上がろうとすればすぐにでも動けそうだった。
周囲を見渡すと、どこか懐かしさを覚える村の風景が広がっている。
柔らかな日差し、麦畑の香り。小さな子どもたちの笑い声。そして家族のような温かい人々の笑顔。
かつて、彼が守りたかった「日常」が、そこにはあった。
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「これは……夢、なのか?」
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呆然とつぶやいた。現実味がなかった。だが、手を握り、胸に手を当てるたびに、確かに感じる心臓の鼓動が、これが現実であることを告げていた。
アレンは理解する。自分は“再び”この世界に存在しているのだと。
しかも――**15歳ほどの若い肉体に転生して。**
神のような力によって。
だからこそ彼は、誓った。
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「今度こそ、俺は強くなる。そして…お前たちに復讐してやる」
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復讐の炎が、彼の胸で静かに、だが確かに燃え上がる。
この命は、もはや世界のためではない。
あの偽りの正義に従うためでもない。
――すべては、自分を裏切った者たちにその罪を償わせるために。
アレンの新たな人生が、ここに始まる。
それは、再び英雄となるための旅ではない。
真実を暴き、信じていた者たちを裁く、復讐の物語だった。
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