第19話 化かす事は騙すこと?

「ごっしゅじんとデート♪ごっしゅじんとデートぉ♪」


「えらい嬉しそうだな。今日は晴れてるし、絶好のデート日和だ!」


まだ冷たい風が吹く中、俺達はまた街中でデートをしていた。


「今年は雪積もるかなぁ」


「積もったらかまくら作ろ!3メートルくらいのやつっ」


他愛ない話をしながら角を曲がると、メスのたぬき獣人とぶつかってしまった。


「ひゃっ」


「あっすみません!大丈夫ですか?」


たぬき獣人はおどおどしながら眼鏡を直す。見たところ制服を着てるので学生のようだ。後ろに背負ってるのは…ギターか?


「あっあのあの、こちらこそしゅみませっ痛!舌噛んだぁ…」


「落ち着きなよ、スカートとか汚れてない?」


「だ、大丈夫でひゅっ…す///」


この子ずっとおどおどしてるな。さっきから目が合わないし、人慣れしてないのか?


「急いでたみたいだけど、行った方が良いんじゃない?」


「あっそそそうでした!ごめんなしゃい、また今度お礼、じゃないっ謝罪するのでっ!」


というと急に立ち上がり、俺達の来た道の方に走っていってしまった。


「行っちゃった…」


「なんか凄いこだったな。学校遅刻しちゃう~系だったのか?」


「ご主人あのこに興味あるのぉ?ぽっちゃり体型でご主人好きそうだったもんね~」


「か、からかうなって」


コミュニケーションが苦手そうなこだったな。前の俺を見てるみたいで少し感慨深い。


もう会うことは無いだろうが、なんか頑張ってほしいな。


「ん、ご主人見て!近くのライブハウスでバンド演奏だって!」


「どれどれ…へぇ、学生達が集まって楽しい演奏をします、かぁ」


「有名曲のカバーもするみたいだよっ、ねぇこれ行こう!」


バンド演奏か。そういえば曲を聴くのは好きだが生演奏を聴いたことは無かったな。


「よし、行ってみるか!」


「やったぁ♪」


それからしばらく日が経ち、演奏当日。俺達はライブハウスに来ていた。


「結構こじんまりしてるねぇ、でもなんかこういう雰囲気好きかも!」


「俺もそう思うなぁ、ジュース高かったのはちょっと想定外だが…」


始まる時間まで待っていると、だんだんとお客さんが集まって来た。


「…あんまり人来ないね」


「あんまりそう言うこと言うもんじゃないぞ、きっとみんなまだ駆け出しなんだよ」


話してると最初に演奏するバンドメンバー達がステージ上に姿を表した。


各々音だし、チューニングをしているみたいだ。見てみるとみんな背は低く、本当に学生のようだった。


「なんか良いねぇこういうの。というかこのバンドは神様バンドみたいだね」


「確かに、人がメンバーにいないよな」


左から右へメンバーを見ていくと、なんだか見覚えのある尻尾を発見した。


「ん?あのこは…」


キーーーーーン―――――――


マイクの高音が会場内に響く。


「す、すすすみません。えと、今日は来てくれてありがとうございましゅ…ギターボーカルの田沼です」


―――やっぱり!あの時ぶつかったたぬきのこだ。


ギターなんて珍しいなと思ってたけど、まさかバンドやってたなんて。


「そっそれでは聴いて下しゃい、前前前前世」


それから2曲ほど、そのバンドはカバー曲を披露してくれた。


ギターボーカルの、あのこ田沼ちゃんとか言ったか?歌声は綺麗だしピッチも合ってるけど、ずっと声が震えてるな…


ギターの音も正確だけど、少し音が小さいような。


「あっあありがとう、ございましたゃ…朝に駆けるでした」


良いバンドだけど、これは確かにお客さんが少ないのも納得してしまうかも…


「さっ、最後はオリジナル曲でで、「神の宴」でひゅ」


そう言うと田沼ちゃんは一瞬ステージ裏に行き、戻ってくる田沼ちゃんの頭上には葉っぱが乗っていた。


ドラムがスティックを叩いて合図をした。すると曲が始まった途端、田沼ちゃんは豹変した。


「…っっっ!」


きっとその場にいた誰もが驚いたことだろう。さっきまでの田沼ちゃんは、もういなかった。


感情的かつテクニカルなギター。表現力の高い自信に満ちた歌声…


「うぉぉぉおおおっ!」


会場内が一気に盛り上がる。凄い熱気だ。


なんだこの田沼ちゃんて子…ものすごく惹かれるっ!


最後の曲が終わり休憩時間になる。


「すっごかったねご主人!ストローク?カッティング?よく分かんないけど凄かったぁ」


「だな…ホントに」


俺は音の余韻にしばらく浸っていた。


田沼ちゃんがイスを並べていたので、思わず声をかけてしまった。


「手伝おうか?」


「ひゃっ!え、あっええとえとあの…あっ、あの時のお兄さん…」


さっきの豹変ぶりが嘘のようだ。出会ったときのようにまたおどおどしている。


「覚えてたのか。いやっ、それよりあの演奏!めっちゃ凄かったよ!」


「ふぇっ、ぇえ?///」


「うんうんっ!ボクも知識は何もないけど凄いことは分かったよぉ」


2人で褒めてると、田沼ちゃんは耳を赤くしながら話し始めた。


「あっありがとうございましゅ…わ私、オリジナル曲になると熱が、入っちゃって…」


「なるほどな!頭に葉っぱ乗っけてからは別人だったしな。あれは何でなんだ?」


「ぇぅ…えと、内気な自分を化かす、と言うか…私化け狸なので…」


こりゃまた個性的な子に出会ったもんだ。自分を化かす、か。中々のセンスの持ち主だな(上から目線)


「ぁあの、これ良かったら…どどうぞ」


そう言う田沼ちゃんの手にはパンフレットが握られていた。


「これは?」


「う、うちの学校の文化祭なんですけど…体育館ステージで、演奏しゅるんです」


「そうなんだぁ!もしかして、学校関係者以外でも行って良いってこと?」


「ひゃ、はい…」


文化祭かぁ。学生時代は俺にはあって無かったようなものだから、結構楽しみだ。


「もちろん行くよ!田沼ちゃんの凄い演奏期待しちゃうぜ☆」


「はうぅ…///」


こうして俺達は、知らない学校の文化祭に行くことになった。


「いやぁ青春だねぇ。文化祭なんて人間界の良さ凝縮したようなものだからボクも楽しみだよぉ」


「だな。若菜高校か、ん?名前が書いてあるぞ。田沼心持…あのこ自分のをくれたのか!」


「健気で良い子だねぇ、こりゃますます行ってあげなきゃ!」


パンフレットには4人までなら団体も受け入れてると書いてあった。


「4人か、なら丁度黒夜と蒼も誘えるな」


「んぅ、ご主人…」


「どした?」


「今回は、その…2人きりが良いなぁ、えへ♡」


全くこいつはどこまで可愛いんだ。なんかもう耳を齧りたくなるぐらい可愛いな。


「よし、じゃあ今回は2人で行こう!2人ならじっくり楽しめるしな」


「やったぁ!んへへぇご主人~」


いなりがぎゅっとハグをしてくる。…あの一件以来、たまにいなりに抱き締められるのが怖く感じることもあるが、まぁ俺の考えすぎだよな。


「…いててっいなり爪、爪出てるって!」


「あっごめん!おかしいな、いつも引っ込めてるのに…」


その時はそんなに深く考えなかったが、家に帰り自分の背中を見ると、爪痕から血が垂れているのを知った。


いなりの俺への想いはただ純粋な愛なのか、もしくは歪に歪んだ異形の愛なのか。


まだ俺には、それを知る勇気がない。






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