ローズ

 全てはモノクロだった。

手に持った一本の赤い薔薇だけが、この世界の色だ。

この薔薇の意味をお前に渡す時を待っている。

世界に一着だけのオーダースーツも、磨き上げた革靴も、お前が来ないのなら無駄になってしまう。


 背景が色づくこともない。

動き出すこともない。

モノクロの遊園地。

お前がいなければ、世界は止まったままだろう。


 約束したはずだ。

永遠を信じていたはずだ。

俺らは確かに指を絡ませ、サイズ違いのお揃いの指輪を光らせていたはずだ。

銀色に光るそれを、愛しく見つめていたはずだ。


 言葉なんてうるさいほどの、言葉なんていらないほどの、激しい静寂の中にいたはずだ。

二人だけの世界が存在するかのように、呼吸を認め合ったはずだ。

微かな甘い香りに名前を付け、抱きしめ合った夜があったはずだ。

残り香に狂おしく滲む、二人の跡があったはずだ。


 ここに現れ、一本の薔薇を受け取ってくれ。

そうすれば世界は色を取り戻す。

染まった背景が、寂しさを紛らわせてくれるだろう。

二人の関係を表すかのように、全ての乗り物が動き出すだろう。


 刻む秒針の中で、幸せになれると証明させてくれ。

全てを超越したような、愛を俺に与えてくれ。

棘よりも鋭い愛で、生きていると叫んでくれ。

一本の赤い薔薇の意味を、お前の意味へと変えてくれ。

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