第6話「13チャンネルだけ映らない家」
ある日の朝、俺がデスクで資料を整理していると、社長から内線がかかった。「田中、次の物件だが、ちょっと変わった問題があってな」
――正直、また心理的瑕疵の話かと身構えてしまったが、話を聞くと少し違った。
依頼内容は、「家のテレビがなぜか13チャンネルだけ映らない」らしい。新築の家で他のチャンネルは全部映るのに、13だけは砂嵐になるということだった。
これが本当に不動産屋の仕事なのか、俺の中で疑問が渦巻いたが、調査に向かうことになった。
元々は古い昭和の街並みが残されていた場所で、再開発が進められている地域だ。次々と昔ながらの狭い道路と古い家屋が整理され、問題の家は一足先に生まれ変わった区画にある新築だった。
俺は部屋に入るなり、テレビに向かった。ちょうどリビングの壁に壁掛けで設置されている。
「他のチャンネルは普通に映るんですよね?」と尋ねると、依頼主は頷いた。
「そうなんです、13だけが何をしても映らなくて」
実際に確認してみると、他のチャンネルは問題がなく、13チャンネルを選ぶと一瞬映像がちらついた後、すぐに砂嵐に変わった。
「うちでできる範囲で試してみたんですが、アンテナも大丈夫でした。念のため、リセットも試したんですが……」と依頼主が説明する。
俺も、リモコンを手にいくつかの操作を試みたが、状況は変わらない。テレビの問題かとも思ったが、13だけが映らない理由はどこか引っかかる。とはいえ、俺は家電の修理屋ではないし、不動産屋にこの手の依頼が来るのも妙な話だ。
ならば不動産屋らしく登記と古地図を確認すると、この場所は明治から昭和まで地域の寄合をする集会所の跡地であることが分かった。
「そういえば、お祭りの会議や夜の集まりは、この集会所でやっていたそうです」
そう話している間も、13チャンネルを試してみたくて、俺はリモコンを手にしてボタンを押した。
再び13チャンネルの画面は砂嵐に変わったが、次の瞬間、何かがちらついて映った。画面に映ったのは、区画整理で片付けられたはずの街並みとぼんやりした人物の影。画面の向こうで、男が誰かに手を振っているようだった。次に、かすれた映像が切り替わり、古いポスターのようなものが映し出された。そのポスターには「祭りのお知らせ」と書かれ、地元の行事の案内が並んでいる。ぼやけているが、背景には昭和の古びた町並みが見えた。
「な、なんですかこれ……」依頼主が驚いて声を上げる。
俺も、思わず息をのんだ。ちらつく映像は、まるで過去の断片を見せているようだった。しかし、映像はほんの数秒で消え、再び砂嵐に戻ってしまった。依頼主と俺はしばらく無言でテレビを見つめ、ただその現象が偶然の故障であると信じるしかなかった。
一応の調査を終え、依頼主と別れを告げて会社に戻ると、俺はこの話を社長に報告した。社長は目を細めて興味深そうに言った。
「過去が一瞬だけ映る13チャンネル、か。テレビの中では昭和がまだ続いてるんだろうね」
社長は気軽にそう笑っていたが、俺としては不思議な気持ちが残ったままだ。
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