第4話「かまきりが出る家」
今日も今日とて訳あり物件ばかり回される。
「田中は平気だろ」
とか言って、みんな面倒を押しつける。
今回も例によって奇妙な依頼だ。「かまきりがやたらと出る家」って話だが、たかが虫だろと軽く考えて、その物件に向かった。
家は見た目は普通の一軒家。玄関を開けて中に入ると、特に目立った異常はない。俺はリビングやキッチンを回りながら、手早くチェックを済ませたが、虫一匹見当たらなかった。
どうせどこかで見間違えたか誇張されてるだけだろう、そんな風に考えつつ、二階に向かうことにした。
階段を上りきった廊下の突き当たりに、妙に存在感のある一匹のかまきりがいた。緑色の体がじっと動かず、まるで待っていたかのように、俺を見つめていた。
普段の俺ならこんな虫、気にも止めないんだが、何故かそのかまきりの視線が異様に重く感じた。
「邪魔だな」
とつぶやきながら、かまきりを追い払おうと手を伸ばした瞬間、そのかまきりがさっと俺の動きに反応して飛び上がった。ふと気づくと、かまきりは俺の肩にとまり、じっと動かない。
まるで「俺がここを案内してやる」とでも言うかのように、俺にくっついて離れなかった。
「ま、いいか」
と仕方なくそのまま進むことにしたが、どの部屋に入っても、そのかまきりは俺の肩から降りることなく、じっと同じ方向を見ていた。気味が悪いが、いちいち気にしてられない。
最後に物置部屋を確認した時、ふと肩のかまきりがわずかに震えた。俺が見ている方とは逆の壁の一点をじっと見つめたまま、動かない。妙な胸騒ぎがして、その視線の先を見てみると、壁に何か古い血のような染みが浮かんでいた。触ると、少しだけ冷たかった。気味悪いことに、その瞬間、かまきりが静かに俺の肩から飛び去っていった。
「何だったんだ、あのかまきりは」と思いつつ、俺は調査を終えて家を出た。
社長には
「害虫駆除業者を入れる必要はないでしょう」と伝えた。
あの一匹のかまきりの視線は今も鮮明に残っている。
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