第15編 ドーナツ

1 再点火


炭渡るコンロに息を吹きかけて身を焦がさんとする勢いも、叶わずただ灰の舞踊に飲まれていく。



2 動画


洞穴を恐る恐る覗き込む。色とりどりに輝けばどれかにいつしか目を引かれ、いつの間にか一歩ずつ。



3 平日


朝早く電車に揺られ疲れ果て、昼を過ぎ他人の手綱に首引かれ、夜も更けて瞼の重みに耐えきれず。



4 アナログ時計


走り去る時計の針に大慌て。針を逆に回しても時は先へ進むのみ。



5 雨上がり


花びらに雫一つ見つければ、むし寄る空気に汗ばむ背中。



6 残光


見上げてもただ青く黒いだけ空。どんよりと不思議な不安に身を駆られ、瞼を閉じれば光の線。



7 焼き過ぎ


網の上、油落ちる肉の色、どこか赤みが消えなくて裏と表を行き来する。引き上げて、たれの風呂に入れど黒々と。



8 ドーナツ


手に取った初めのドーナツ頬緩み、いつの間にか手が伸びて三つ目跡形もなくなって。ふと思い、手が止まった四つ目のCの字過ぎ去る秋の味。



9 始末書


書き綴る文字の羅列に憤り、背もたれに預ける我が身のかわいさよ。つらつらと浮かび上がる頭下の葉々。



10 秋分


空空気、さらした腕に吹き付けて、多少の心地よさあってしばしの三季に身を浸す。

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