第5話 ムーンストーン

 森を出て街を歩いていたら知っているところに出た。ここまで来たらもう家に帰ることができる。でもこの楽しい時間が終わってしまうのは寂しかった。家の近くを歩いているときに彼が


 「今日の事は黙ってよう。」


 と言うので、


 「なんで?」


 と聞き返した。


 「だって、こんなに遅くなったらもうお前と遊べなくなるかもしれないから、黙っていてくれ。俺はお前とまだ遊びたい。」


 そう言うので黙ることにした。


 曲がり角を曲がったら家が見えた。その玄関には二人の両親が立っていた。

私はパパとママに抱きつかれ唖然としていた。彼はおばさんに無理やり頭を下げさせられて怒られている。しばらくして家に連れて行かれた彼はさらに怒られているようだ。


 私も両親と家に入ったとたん涙が出てきた。ほっとしたせいかもしれない。それを見たママが


 「どうしたの?どこか痛いの?」


 と聞いてきた。私が首を振ると膝を巻いていたハンカチが彼のだということに気がついた。


 「膝ケガしたのね。」


 「彼に引っ張り回されて転んだ?」


 「違うよママ。これは私が転んだのを巻いてくれたんだよ。」


 「そう、優しいわね。」


 「怒られてるの?」


 「そうね。ちゃんと約束を守らなかったら怒られちゃうわよね。」


 「約束?」


 「ちゃんと時間に帰ってくるって言う約束を破っちゃったじゃない?だから怒られちゃうのは仕方ないかな。」


 「でも守ってくれたんだよ。」


 「何を?」


 ママがそう言ったとき、彼との約束を思い出した。この事は内緒にしようってことにしておいたんだ。


 ママは察したのか


 「今日何があったかを話してくれたら、怒られるのをやめさせられるかもしれないわよ。」


そう言われたので、迷ったが全部話した。その方が怒られずに済むかもしれないから。


 パパとママの顔がみるみる変わっていき、パパがお隣へ飛び出して行った。ご飯を食べてほっとしたらもう直ぐ眠くなってしまったので寝てしまった。



 次の日の朝、土曜日だったので学校はなかった。朝ごはんを食べながらママが


 「昨日のスカートのポケットから真っ白な石が出てきたんだけれどこれなあに?」


 「”しんこんりょこう”でもらった月の石。」


 「それじゃああなたはムーンストーンをもらって彼と”新婚旅行”してきたの。」


 そう言うとママは微笑むだけだった。


 「これからもいっしょに遊んでいい?」


 約束を破って話してしまったので心配になって聞いてしまった。


 「いいわよ、彼は本当に強くて賢くて行動力があるわね。」


 私はほっとすると今度は何をするか考えていた。



 こんな昔のことをこの白いムーンストーンを見ながら思い出していた。本物のムーンストーンではないけれど、石言葉に「恋の予感」があるのは後になって知った。


 外を見るとあいつの部屋はまだ暗い。一体どこに行っているんだろう。また知らない間に誰かに告りに行っているのだろうか。最近彼とのすれ違いにため息しか出ない。

 

 頭を冷やすために、窓を開けて外を眺めた。冬の大三角形の一つのシリウスが煌々と輝いていた。全天で一番明るい星だそうだが、私の心は照らしてはもらえない。彼の暗い部屋をまた見てますます気持ちが落ちていく。そのとき流星が流れて落ちた。まるで私の心のシリウスが、落ちてしまったようだ。


 一つ一つ希望の星の光が落ち、心の中は真っ暗だ。あの夜も真っ暗だったしとても怖い思いをした。でも彼のおかげで怖くなかった。本当に楽しい思い出に変わるぐらい嬉しかった。もう一度あの夜に連れて行って欲しいぐらいだ。


 見上げた星空で流星が流れ落ちる瞬間、自分の涙も落ちていたのは気づかなかった。

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ふられて! 風月(ふげつ) @hugetu2

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