第16話 《配信》質問来てた

「……えーっと、じゃあ自己紹介も終わったことだし、質問受け付けていくよ。前からちょっとやってみたかった、マシュマロです。この配信が始まった時ぐらいから募集始めたからそんな数じゃないはず。皆も何かあったら随時入れってて」


 よみのの声が、いつもよりもどこか浮ついていた。質問箱を開くという行為が予想以上にドキドキするからだろう。


『おお、ついにきたか』

『匿名で送れるやつな』

『俺もう入れた』

『入れた』


「そうそう、匿名でも送れるやつね! だからもう、なんかね、すでに怖いんだけど……でも勇気出して、開けていきたいと思います。変なの入れてないよね?」


『やばい』

『あれ〜(知らん顔)』

『心当りがあるような』


 クリックひとつ。質問の一覧が、画面の横にずらりと現れる。その数、膨大。


「うわー、いっぱい来てる。え、これ、全部読むの無理じゃない? やば……」


 リスナーのコメントがすかさず煽ってくる。


『逃げるな』

『全部読むまで終われません配信』

『腹くくれ』


「やめてよ、そういう企画じゃないから。第一君たちのせいだ、我のせいではないはずだが。えーっと……じゃあ、一番上からいきますね。」


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 朝ごはん派ですか? 夜更かし派ですか?

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「ん?比べるものおかしくない?これは、両立するものではないんだけどなあ。」


『夜更かししすぎて朝ごはん食えないやつw』

『つまり昼ごはん派』

『俺と同じ』

『1日2食な』

『いや、俺は1食』


「ちょっと! わたしそんな生活してないから!ちゃんと、従者が朝ご飯つくってくれるもん。……たまに抜くけど。はい。健康に悪いのはわかってるんだけれとね。つい……

 それよりも、1食の者君が心配だよ」


 苦笑混じりの答えにコメント欄が「正直でよろしい」と盛り上がる。


「じゃあ次!」

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 好きな飲み物はなんですか?

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「……んー、これは難しいな。紅茶もココアも好きなんだけど……あ、最近のブームは緑茶です。茶葉からじっくりだすのがいい」


『緑茶w』

『また、珍しい』

『コーヒーのまない?』


「我は、コーヒーあんまり好まない。従者は好きで飲んでるけどね。ブラックとかカフェオレとか。我は無理。」


『かわいい』

『子供っぽい』

『私も無理』

『親近感沸くw』


「え、我子供じゃないし。皆より味覚が違うだけだもん」


『設定使って逃げた』

『味覚w』

『違わんわ!』


 そんなやりとりをしながら、次の質問に目をやる。


「えーっと……あ、これちょっと面白い。」

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『従者はどこに行ったんですか?』

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「……って、なんでみんな従者の存在気にしてるんだ!我だけじゃ不満ですか」


『従者出せ!』

『幻の従者』

『従者面白い』


「幻のって今日だけじゃないですか。あの者がおると、すぐいじられるから。今日は、質問対応なので休暇!」


《従者、配信休暇w》

《裏で雑務してる》

《設定がどんどん勝手に広がるな》


「みんなで勝手にストーリー作らないで!……まあ、気が向いたらまた呼びます。まぁ、今日は出かけてるから無理かな。あこれ本当です。」


 笑いながら、次の質問を読む。コメント欄も和やかに流れていく。


「じゃあ最後にしましょうか。お、これいいな。」


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 配信初めて一番うれしかったことは?

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 一瞬、画面を見つめて、言葉を選ぶ。


「……んー、やっぱり、リスナーさんから『元気出た』とか『楽しかった』って言ってくれたことかな。我自身、正直ここまでの人に見てもらえるとは思ってなかった。だから、もすごく救われてるし、だからこそ、もっとがんばろうって思えてる。しかも、従者と一緒にできてるのが何よりいいかな。」


 コメントが一斉に流れた。


『こちらこそありがとう』

『ごち』

『推します』


「……ありがとう。ほんとに。これからも、従者とゆるーく頑張るので今日はおやすみなさい。良い夜を」


 配信は温かい雰囲気のまま終わりを迎えた。


 配信を切ったあと、ゆづは大きく背伸びをする。


「はー……楽しかったな……」


 部屋は静かで、先ほどまでのにぎやかさが嘘のようだ。机の上には飲みかけの麦茶。ふとスマホを手に取ると、通知がひとつ光っていた。


「ゆづコラボする気ある?」


「え……?」


 メールの送り主は、朔だった。今日は、知り合いと出かけているはずだったのに。急だ。


 一瞬、思考が止まる。コラボは、確かに嬉しい。でも、相手が知りたい。相手によっては、絶対固まる自身があるし、話すとかできるわけがない。


「……誰と?」


 嫌な予感がする。


「星名ルミだよ」


 「無理!」


 ゆづは、即答するのだった。

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