第15話 《配信》自己紹介
静かなる金曜日。
明日から土日というこの夜にゆづは、今日も今日とて配信していた。
画面には、いつもの背景とは違うものが映る。奇麗な上弦の月が輝き、濃紺の空を背に星屑のような光がきらめいているやわらかな夜。その中央で、少し緊張したように、けれどどこか楽しげによみのは立っていた。
「……こんばんは。我は月守よみです。今宵も来てくれてありがとう。聞こえてますか……?」
小さく息を吐いてから、彼女は軽く自己紹介を結んだ。
コメント欄が、すぐににぎやかに波打つ。
『わああ!』
『こんばんは』
『今日は背景が違う』
光る文字を追いながら、彼女はくすっと微笑んだ。もう、夜語り衆の中には、背景が違うことに気づいた人もいる。
「皆よく気づいたね。この背景いいよね。我の初配信を観てくれたママがわざわざ書いてくれたんだよ。あ、一応ママって、この衣装を作ってくれた人のことね。」
そう。ママは、わざわざ初配信を見てくれていたらしく、初配信が成功?したからと送ってくれたのだった。まぁ、背景が自己紹介動画と同じというのもよくないと思ってくれたのかもしれない。
ママとは、直接的に話したことは、ないけれど間違いなく、いい人なんだと思う。
『いいな』
『ママって誰なの?誰先生?』
『今日は何する?』
『従者も一緒ですか』
姿勢を整え、真剣に画面を見つめる。今日やる配信は、自己紹介配信だ。
「…今日はねぇ。改めて、我のことをもっと知ってもらうために自己紹介配信をしようと思います。初配信の時に、まぁコンセプトとかは言ったと思うだけれど、従者が出てきて色々あったからさ…。因みに今日は従者はいません」
ということで、今日は朔は一緒じゃなかった。なんか、知り合いに呼び出されたとかで出かけていた。だから配信始まって、初めて1人での配信になる。なにかあったらすぐ電話してきてとは言われたけど、今日はいつもより緊張していた。
マウスを持つ手が震えてくる。
「じゃあまず改めて我とはから話しますね。我、“月守よみの”は、神界からきた神族。夜を統べる月読命さま、そのお弟子として修行きている、神様見習いです。この名前は、夜を照らす月を守る存在になれたら……って思ってつけてもらった名前で、我自身立派な神族になれるように、いつか人の心をやさしく照らせるように日々こうして人間界で修行の一貫で活動しているんだ。」
視聴者のコメントがふたたび流れる。
『うわ……神話っぽい!』
『弟子って設定かっこよすぎ』
『よみちゃんに夜を守られたい』
「そう言ってもらえるとうれしい。……でも、ほんとにまだ“見習い”だからね。まだ夜を全部きれいに守れるわけじゃない。たまに、まぶしい朝のほうがうらやましくなっちゃったりもするしね」
少しだけ照れくさそうに肩をすくめる。
「でもね、夜って悪いことばかりじゃないんだよ。静かに落ち着いて、心をリセットできる時間。星を見上げると、悩んでたことがちっぽけに見えたりするんだ。……わたしは、そういう夜が好きだ」
言葉を重ねる彼女の表情は、夜空の月明かりに似て、やわらかく温かかった。
コメントがまたあふれる。
『夜が好きになりそう』
『そういう視点、いいな』
『なんか元気でるわ』
「ふふ……ありがとう。……えっと、まだ新人で不器用だから、配信もたどたどしいかもしれないけど…従者と頑張るから」
『そういや、従者もいるんだもんね』
『従者かっこいい』
『誰なの?』
「そう、もう一つ言うなら従者だね。従者は、我の昔からの知り合いで言うなら幼馴染というやつで、今では我の従者をしてくれているんだ。名前は、本人にまた聞くとして、普段から2人で配信できたらと思ってます」
『え、幼馴染?』
『これまじで』
『リアル?』
「本当だよ。まぁ、詳しくは従者がいるときにでも話しますよ。」
『なにそれめっちゃ気になる』
『面白い』
『ガチか、リアルであるんだな』
意外にコメント欄は温かかった。もっと、なにか言われるのかと身構えていた。もしかしたら、朔といるときになにか言われるのかもしれないが…
とにかく炎上みたいな感じにならなくて良かったと、前々から安心した
「じゃあ、ここからは質問コーナにしましょう。強いて言ってしまうなら、我は個人勢なので何を答えても自己責任だから何でも答えるよ」
そう言って、よみのは少し肩の力を抜いた。
この先、どんな問いかけが待っているのか。
夜は、まだ始まったばかりだ。
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読み飛ばし可
昨日は、更新できませでした。すいません。
来週のいつかで2話投稿できたらと思います。
そして、タイトル表記についてで、配信回のタイトルには、《配信》と入れるようにしました。これで少しは分かりやすくなったかなと思います。
もし、少しでも面白いと思って頂けたら応援、コメント等宜しくお願いします。
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