ひとまず11話までを踏まえた感想となります。
数多の優しい言葉に綴られた世界、丁寧に配置された伏線、そして息をもつかせぬ夜毎のチェイス――どこまでも心地好く、時間を忘れて読み進める事ができそうです。
主人公・佳穂のおしゃれに対するコンプレックスであったり、その流れで紆余曲折を経た挙げ句、半ばヤケになっておかしな契約を結んでしまうところなど、ある種風刺的とも言える序盤の展開に、思わず共感してしまう方も多いのではないでしょうか。
実際、今この感想を書いている私自身にも身に覚えのある事が少なくなく、誰も頼れない中で一歩踏み出す勇気と慎重な判断を併せ持つ事など、特に十代の引っ込み思案な女の子にはことさら難しいだろうな、と同情してしまいます。
ですが、コウモリと呼ばれた少女はきっかけを手にします。
それがチャンスなのかピンチなのかと問われれば恐らく両方なのですが、どうあれ突如巻き込まれた祭礼を通じて、既にいくつもの気付きを得ながら自身の在りようを顧みています。
まだ最初の夜を終えたところまでしか読めておりませんが、きっとそう遠くなく羽ばたき、そして挫折も味わいながら、なお成長していくのではないかと期待せずにはいられません、
同じ年頃の子らは自己投影しながら、大人達は見守るように、この物語をきっと楽しめる事でしょう。
はてさて、読ませていただきました!
『イソップハントで捕まえて』
今作は内気故に『コウモリ女』の異名を持つ少女『月澄佳穂(つきすみ かほ)』がおばあちゃんのお願いで、慣れないおしゃれに挑戦しようとしたけど、紆余曲折あって、どういう訳か仕立て屋コルボの契約書にサイン、そして本当にコウモリの獣人となってしまい、少し特殊なオニゴッコに参加する羽目に。
同じようにオニゴッコに参加する獣人のオニ役の人たちから逃げ、時には協力してくれる人もいる、そんなお話です。
今作の魅力はなんと言っても三つもある!
一つは描写のわかりやすさ。
程よい文章の長さ、情景と心理描写の丁寧さのお陰で、短く、かといって完結ではないという、小説において完璧とも言える文章が描かれています。
二つは主人公の視点。
今作はほぼずっと主人公の視点で続く為、主人公の心理描写が丁寧に描かれていて、「あぁ、今主人公はこう思っているのか」というのがわかりやすく伝わり、主人公に好感が持てます。
主人公の好感度って、長編の小説において凄く重要だと思っているんですよね。
三つはオニゴッコの疾走感。
最後はオニゴッコ、それの疾走感です。
主人公はオニから逃げる役目のため、上二つの魅力が最大限に発揮されています。
分かりやすく、丁寧な描写と主人公の心理描写、それのお陰で、風さえ感じるほどの臨場感と疾走感。
読む手が止まりません!
イソップハントで捕まえて、是非、小説を始めて見るよ。小説はめっちゃ読むよ。どちらの人にもお勧めできる、個人的に完璧とも言える作品だと思っております!