02
「んー」
「どうしたの?」
「今日のご飯をどうしようかなって悩んでいてね」
「多分一人だからだと思う、ひよりさんかなゆさんがいてくれればすぐに出てくると思うな」
最近の彼女はすぐにあの二人の名前を出してきて困ってしまう。
そもそも自分がなにを食べたいのかどうかなのに人がいたからって――あ、それでも相手に合わせようとすればすぐに解決するか。
だからってなあ、そのために誘うのも違う気がして結局変わらないままだ。
「ちょっと散歩にでもいこうか、そこで気になったお店があったら外で食べてしまおう」
「えー」
「興味がないなら待っていればいいよ」
「その様子だと二人のところにはいかなそうだから待ってる」
「うん、いってくるね」
あれだ、休日なのもあって偶然遭遇するなんてことがない限りは無理なのだ。
結局は彼女にも考えられる脳があるからこそ起きることだった。
絶対なんてことはない。
「「あ」」
あ、一応言っておくとあの二人のどちらかとだけでも遭遇したわけではない。
ただ、顔を見たことがあるけど誰かは分からない、そんな感じだ。
向こうも反応したのにすぐに次の言葉を発しないのは似たような状態だからだろう。
「めめを返してっ」
「お、落ち着いて」
どうやら人間違いをしていたようだ、いや、なんなら人ではなかった。
あっという間に変身するとめめみたいに浮かび始めた彼……でいいのだろうか。
「え、あのとき本当は二人……でいたの?」
もういいか、人型なんだから一人と言ってしまえば。
「うん……めめが倒れちゃって慌てている間に君が連れていっちゃったから」
それより不味いことになった、そりゃ彼からしたら僕は悪い人間だ。
助けるためであったとしても会話ができなかったことと、そのまま返さずに預かったままだからこんなことになってしまった。
「そうなんだ? あのときはめめしか見えなかったんだ、ごめんね?」
「なんでめめだけ見えていたんだろう」
「分からないけどとにかく家にいこう、めめならそこにいるからね」
「うん」
お兄ちゃん……なのかな、めめよりも大きくて少し大人っぽい感じがするけど。
流石にお父さんとかだったら驚いて転んでしまうかもしれないから避けたいところだった。
「ただいま」
「おかえり、早かった――げっ」
「えっと、すぐそこで会ったんだ、めめは知っているよね?」
げってなにかしてしまったのだろうか。
「めめ、帰ってきてよ」
「……帰らない、私は玄太に助けてもらって恩返しをするって決めたの」
「この人が連れて帰らなかったら僕が大人を連れてきて家に帰れるはずだったんだ」
人の姿にもなれるみたいだから彼だけで運べそうなものなのに違うのだろうか、あの日の彼女もいまと同じで小さい状態だったのに謎だ。
別に僕が倒れてすぐに現れたわけではなさそうなのでそれこそ先程の力を使用すれば、うん。
「だけどそうしたら私はもっと弱っていたんだよ?」
「そうかもしれないけど結果は同じだよ、死んでしまうぐらいに弱っていたわけじゃないんだからね」
「さくの馬鹿!」
お兄ちゃんでも名前で呼ぶこともあるよね、それとも違う?
なんか恋に興味がないみたいなことを言っておいてあれだけど、正直これは仲がいい男女のそういう喧嘩にしか見えなかった、もう少し手前のところで止めるなら幼馴染同士の喧嘩、というところだろうか。
「これなら付いていっておけばよかった、やっぱり私は玄太といないと駄目だよ」
「えっとさ、彼はめめのなに?」
「……玄太からすればどっちも一緒に見えるだろうけどさ、小さい頃から一緒にいる男の子だよ」
「幼馴染ってやつか」
「うん、こっちの言葉に当てはめるならそうだと思う」
帰った方がいいのは確かなことだ。
だけどこれも筒抜けで、この考え事をしている間に二人から睨まれることになった。
「あー僕としてはちゃんと帰った方がいいと思っているよ、こればかりは睨まれても変わらないよ」
「だからそれは嫌だって――」
「めめ、これで終わりにしよう」
ただ一つ気になるのは数年が経過してから来たのはなんだったのかということ。
僕の顔は覚えていたみたいだからいくらでも接触する機会があったのに不思議だ。
「……さく、お父さん達はなんて言ってた?」
「それが……」
「うん? なんで君がそんな顔をするの?」
この子が直接ぶつかりに来たぐらいなのだ、ご両親となれば僕に怒っていることだろう。
だというのになんだろう、なんか凄く複雑な顔をしている。
「いやあの、別にめめの両親は娘であるめめのことが嫌いとかそういうことじゃないんだけど……あの二人は好きにやらせればいいとしか言わなくて……」
「私が楽しそうならそれでいいって?」
「うん、だってあっちからは見えていたわけだから近づかなかったのはそういうことだよ」
実際にいるのかそういうご両親が。
母が亡くなって流石の父も厳しく――いや、全くそんなことはなかった。
それどころか学生時代の内にやりたいことをやっておけと何度も言ってきていたぐらいで、冗談で〇〇がしたいと口にしたら本当に連れていってくれたり、道具を買おうとしたぐらいだ。
「あ、だけど君は不満だったんだよね? めめが帰ってきてくれないと嫌なんでしょ?」
「嫌……というか帰ってきてくれないと困ることがあるんだ、それは貸したゲームがまだ返ってきていないからなんだけど」
「「え」」
なんだその理由は、というかそっちのゲーム機というやつが気になる。
これが全く目新しくないこちらの世界の物だったらがっかりもいいところだ。
それと女の子のために一生懸命になってほしかった、流石の僕だってゲーム機のために知らない人間と衝突したりはしないぞ……。
「な、なんでめめも驚いているんだよ、お気に入りのゲーム機なんだから当たり前だろっ?」
「あっ、そういえば返さないまま持ってきちゃったんだっ。ちょっと待ってて、えっとー……これ、じゃない――あっ、これだよね?」
「そうそれだ! 僕はそれがあれば生きていけるんだ」
お気に入りらしいゲームが見つかってよかった、ではない!
「ちょちょ、めめを連れ帰ろうよっ」
「えー僕はめめじゃなくて他の子が好きだからいいよ、玄太にあげるよ」
「名前で呼んでくれるのはいいけど流石にその発言は――うん、逃げた方がいいよ」
「うん? あ、あれ? なんかどんどん大きくなってない?」
数秒後、何故か僕もぶっ飛ばされて床に無様に転がっていた。
一番酷い状態なのは彼で、いまも引き続きぼこぼこにされている。
「家に……帰さない、反省するまでずっとこのまま」
「げ、玄太、助け……」
僕には無理だから散乱していた物を片付けて温かい飲み物でも飲んでいることにした。
その間、自由にされている彼がいた。
「玄太ーこのお菓子ってもうない?」
「あるけど、いいの? めめのご両親はともかくさく君のご両親は心配しているんじゃ……」
「あー大丈夫大丈夫、どうせ帰っても真面目にしなさいとか言われるだけだから。あとこっちの時間と向こうの時間が違うんだよ、だからめめが帰ってこなくなってからまだ一年ぐらいしか経過していないんだ」
「い、一年でもだいぶ不味いと思うけど……」
「昨日も言ったけどめめの両親はとにかく気にしない人達だからね」
とりあえずはお菓子を渡し、依然として彼を踏んづけ続けている彼女に意識を向ける。
まあ、見方によっては相手をしてくれなくて、だけど素直に甘えられない年頃の少女に見える。
「あ、誰か来たよ、女の子だね」
「七戸さんかな、ちょっと出てくるよ」
玄関にいって扉を開けてみると「おはようございます」とどうやら出村さんが来たようだった。
あれ、だけど僕は家を教えたわけではない、出村さん的にも興味はないだろうからわざわざ聞いたと考えるのも少し微妙だ。
「ひよりさんっ」
「わっ、お、落ち着いてください」
「この子が酷いんですっ、助けてください!」
「なんで敬語なのか分かりませんがそういうことなら」
何故だ、何故僕は傘の先端を突き付けられているのか。
あと雨の予報すらなかったのに何故持ち歩いているのか、実は武器とかだったり……しないよね?
「あー勘違いじゃなければ僕が敵視されていない?」
「え、違うんですか? いま明らかに先輩の方を指さして――先輩」
「出村さん?」
「この子はなんなんですか!?」
ああ、興味を持つと思ったよ。
表情は変わらなくてもあれだけテンションを上げていた子だ、こうならないわけがないのだ。
「えっと、めめの幼馴染のさく君なんだ」
「可愛い!」
「君も可愛いと思うぞ」
「ぐはぁっ!?」
そりゃ可愛い存在から可愛いなんて褒めてもらえたら女の子は大体こうなる。
「あー玄太、さくってこういう男の子なんだよ。こう、可愛い女の子を見たらすぐに可愛いって言っちゃうの」
「当然、めめも言われたんだよね?」
「え、全然? 私には可愛げがないとかそういうことしか言ってこなかったよ。可愛げがないのはどっちなのかって話だよね」
「そうなんだ、めめは可愛いのに……素直になれないだけなのかな?」
「ううん、さくには本当に好きな女の子がいるの、だけどその子にだけは勇気を出せなくてなにも変わっていないの」
効かないのは僕から彼女に向けて言葉が放たれたときだけ、所詮僕はこんなものだ。
「それより出村さんはめめに用があったんだよね?」
そうとしか考えられないけど一応聞いておこうというやつだ。
例えば七戸さんが呼んでいるとかだったらめめがメインでもいかなければならないからそういうことになる。
「え? いえ、今日は七戸先輩とも約束をしていなかったので先輩に相手をしてもらおうと思って来たんです」
「ああ、遠慮をしていたのは出村さんって話だよね」
「遠慮していたら出会ったばかりの先輩のところにいかないと思いますけどね」
「めめが狙いなんだよねっ?」
こういう子がいままでいなかったわけではない、存在していて痛い失敗をしたから怖かった。
すぐに飽きて去っていくだけならいいけどそういう子ばかりではないから、男の子を使ってきたときは――これ以上はやめておこう。
「なに慌てているんですか? 落ち着いてください」
「はい……」
これだったら僕が後輩の方がよかったなと。
出村さんが元々誰に対しても敬語を使う子だったとしても僕が後輩なら話は変わってくる。
あとは敬語系の女の先輩というのもいいからだ、これは昔に起きたよかったことからずっとそうだった。
まあ、あの人が僕だから優しくしてくれていたわけではないことは分かっているけどね。
「それに私と仲良くしておけばいいことがありますよ、それは七戸先輩とも仲良くできることです。あんな感じでいて結構怖がりなところもあるのが七戸先輩ですからね」
「じゃあ怖さとかどうでもよくなるぐらいにはめめが可愛かったということか」
「んーそれもあると思いますけど優しい人ですから私に紹介したかったんだと思います」
「はは、いい先輩だね」
「ですね、大好きな人です」
おお、これは所謂百合、というやつだろうか。
「ひよりさん、玄太もそうなる可能性はある?」
「私からして、ですよね? これからも一緒にいて仲良くなれたらありえない話ではないと思います」
「おおっ」
これはめめだけど正直に言って意外だった。
少し前までなら「玄太には私がいればいいんだよ」と言っていたぐらいなのになにかが変わっている。
「でも、いいんですか? めめさんは先輩のことが大好きなんですよね?」
「私はね、確かに玄太のことが好きで受け入れてあげてもいいぐらいだけど玄太にとってはそれってとても虚しいことだと思うの。あとね、他の子と一緒にいて自信をつけてもらわないと困るんだ。だからなゆさんでもひよりさんでもいいから頑張ってほしいの」
んーこれも前々から言われ続けていることだけど自信を持てずに行動できなかったことなんてほとんどないけどね。
積極的にマイナス思考をするわけでもないし、彼女の見方が少し間違っている可能性がある。
こんなことを考えようものなら筒抜けの彼女は当然怖い顔をするものの、変える気はないから遠慮もしなかった。
「玄太、側にいるときのめめっていつもこんな感じ?」
「うん、最初からしっかりしていたよ」
「へーあっちではぐうたらしていたのに変わるもんなんだね」
そのめめは想像できないな。
一人暮らしみたいになっていて早めに起きることを意識している僕よりも先に起きているぐらいだから。
たまに大きくなって掃除なんかもしてくれているから助かっている。
「ちょっとそこっ、変なことを言わなくていいから!」
「それこそ僕なんかよりも色々言われていたのになあ」
「あれ、だけどご両親は自由にしなさいってスタンスなんだよね?」
「あ、めめの両親の代わりに僕のお母さんが頑張っていたんだよ」
そんなことも実際にあるのか。
よそはよそ、うちはうちと多少緩めの人を見てもああならないように気を付けようとするだけではないだろうか、まあ悪い方に捉える人がいるのならだけど。
だって余計なお世話だと言われかねない。
「それって凄く勇気がることですよね」
「うん、だけどそうしないと駄目な子になっちゃうからって心を鬼にして頑張っていたかな、僕はそんなことしなくていいのにってずっと思っていたけどね。めめがどうなるのかなんて誰にも分からないし、絶対に悪い存在になるとも限らないんだから。それにそういう二人だったからよかったけど普通なら怒られているところでしょ?」
「そうですね、過度に干渉すればそうなると思います、信用している相手だとしても何度も重なれば衝突は避けられないでしょうね」
「さくのそれは単純に私のことがどうでもいいからだよね?」
いや違う、もしそうならこんな真剣な顔で言わない。
「いや、今回のそれは全く関係ないよ」
この通り、本人もすぐに否定したぐらいだ。
「ど、どうしたの? 私のことなのにそんなに真剣な顔で……」
「本当に駄目なことをしたときに叱れる大人の存在は大事だよ、だけどそれはめめの両親がやるから僕のお母さんが頑張る必要はないんだ。それにぐうたらしていることは確かに多かったけどやらなければならないことはちゃんとやっていた、当たり前だと言われるかもしれないけどそれをちゃんとやれていためめなら大丈夫なんだよ」
「げ、玄太、さくがおかしいよ」
「めめ、今回はふざけたら駄目だよ」
「玄太まで……?」
責めたいわけではないから誤解しないでほしいけどね。
とにかく、ちゃんと彼女のことを考えている子だと分かっていい時間となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます