191
Nora_
01
五百六十回目、と。
一円玉がどうしても出てきてしまうから毎日一円貯金を繰り返していた。
これを続けられなくなるということは死ぬということだからどこまでやれるのか興味があった。
「
「うん、いこうか」
めめ、この子は他の子には見えない不思議な存在だった。
どんなに頑張っても友達ができなくて妄想上の存在が見えるようになってしまったとかではない、なんか弱っていたところで家まで運んだ結果がこれなのだ。
助けたとは言えない、本当に連れ帰っただけだから何故まだいてくれているのかも分からない。
名前も僕が名付けたわけではなくて本人……彼女が教えてくれた。
「今日は体育があるけど前みたいに転んじゃ駄目だよ、玄太の血を見るとぞわっとするからね」
「はは、気を付けるよ」
「あとは……お昼にちゃんと相手をしてほしい」
「めめはずっと側にいるんだから心配しなくても大丈夫だよ」
いまは直接喋っているけどやろうと思えば彼女の方は僕にだけ聞こえるように話すことができるのだ。
だから友達と話していて延々に話しかけられずに終わるなんてことはない。
「さ、今日も頑張ろう」
「うん」
一人虚空に向かって話し続けるわけにもいかないから教室では静かにする。
早めを意識して登校していないから退屈な時間などはなかった、あっという間に始まって終わっていくのだ。
「どこで食べようかな」
「玄太と喋ることができる外がいい」
「え、いま寒いよ? 下手をしたら鼻水が出ちゃうよ?」
ああ、これは言うことを聞くしかなさそうだ。
変な言い方をしてしまえばご主人様なのに全く逆らえない情けない人間がいた。
「家に帰ったらすぐにこたつに入りたい寒さだね……」
「そうかな、全く寒くないけど」
「春夏秋冬苦手な季節がなくて羨ましいよ」
ただ今日はスーパーにいかなければならないからすぐに帰ることも叶わない。
めめは温かいけどべたべた触れるわけにもいかないから冷えていくばかりだ。
「あれ女の子がいるよ?」
「うん? あ、ほんとだ」
雑草をせっせせっせと抜いている女の子がいた。
なんでそんなことをしているのかは分からないけど近づいても怖がらせるだけだからささっと済ませてしまうことにした。
真面目に頑張っている子の近くでこんなことをしていいのかと勝手に引っかかってしまうからだ。
「よく噛まないと駄目だよ」
「きょ、今日は見逃して」
ちなみにめめは母親的存在になっていた。
もちろんそうであってほしいと願ったわけではない、僕が僕らしいところを見せていく度に不満が溜まっていたみたいで爆発した結果なのだ。
「ごちそうさまでした、よし帰ろうめめ」
「待って、あの子がこっちに来てる」
「え」
って、こっちからも帰ることができるから大袈裟に反応しすぎた。
その証拠に僕らの横まで来ても足を止めることも――止めてこちらを見てきた。
「その小さい子はなんで浮いているの?」
「え、あ、ゆ、幽霊とかが見えてしまう子なのかな?」
「ううん、だけどその子は見える」
めめ自身も指をさされて驚いているようだ。
「触ってみてもいい?」
「めめ、いい?」
「う、うん」
見えるだけではなくて触れることもできるのか。
ということは僕が把握できていなかっただけでこれまでもこういう子はいたのかもしれない、それでも怖くて言い出せなかっただけなのかもしれない。
目の前の子は物凄く優しく彼女に触れていた。
「ありがとう。それと私の友達にこういう可愛い子が大好きな子がいるから会ってあげてほしい」
これもめめに確認をしてみたら大丈夫とのことだったので付いていくことにした。
あ、雑草を抜いていたのはすぐにお弁当を食べ終えてしまって暇だったかららしい。
うんまあ、学校的にはありがたいことだ。
「あ、ひよりまだ食べていたの?」
「
彼女の友達は一年生で
「突然だけどこの子、見える?」
「はい? なにも見えませんが」
「あれ」
「まあ、七戸先輩が唐突に変なことを言うのはいまに始まったことではないのでいいですけどね」
「めめ、後輩が意地悪を言ってくる」
思いきり抱き締められて困って――いや、満更でもなさそうだ。
「それよりその男の人は誰なんですか?」
「めめのご主人様」
「えっと……つまりその人と七戸先輩には見えている子がいて、その子のご主人様ということですか? なんかやばい人なんですかね……」
人前で虚空に向かって喋らないようにしていてもやばい人になってしまった。
どうしたものか、ここで去ることは簡単だけど後輩の女の子にやべー奴認定されたままというのもどうなのか。
「あーめめ、どうにか出村さんに見せてあげられない?」
「んーちょっとやってみる」
「うわ」
あーどんどんと悪い方に……。
ただ、頼んでみたのがいい方向に働いたのか「え、滅茶苦茶可愛いですね」とすぐに変わっていった。
あとで彼女にはなにかお礼をしないといけないようだ。
「なるほど、そういうことだったんですね。もう七戸先輩、確かに私は可愛い子とか大好きですけどいきなり関係ない人を巻き込むのはやめてくださいよ。本当にすみませんでした」
「謝らなくていいよ、頼まれて付いていったのは僕だからね」
「ところでその……私でも触れますかね?」
「大丈夫だと思うよ?」
彼女は怖がっていたらすぐに離れていってしまうからいる場合は気にしなくていい。
あとは彼女自身も興味津々のようだった、好きなタイプ……とかなのだろうか?
「それでは失礼して――滅茶苦茶温かくて柔らかくて最高です!」
「そ、そう」
声量は大きいのに表情は全く変わっていないからその差があれだった。
「出村さん今日は元気だね」
「そうですか? 私なんていつもこんな感じだと思いますけど」
「あ、大好きな七戸先輩がいるからか」
「七戸先輩は基本的にはいい人なんですけど暴走するときがありますからね」
「でも、七戸先輩が来てくれたときは凄く嬉しそうな顔をしているよ?」
あ、黙ってしまった。
まあ、なにか言うべきところではないから挨拶をして教室に戻ることにした。
七戸さんと同じクラスでもなかったから多分、これまでとあんまり変わらないと思う。
これからもあの二人が二人だけで仲良くして進んでいくことだろう。
とはいえ、めめ的にはそれでいいのかと考えてしまうときがある。
僕はいい、基本的にこんな感じだから急に変わっても付いていけないし。
だけどめめは? もし誰かと強くいたがっていたら僕は邪魔な存在にしかならない。
最初の頃は好きに行動したらいいと何度も言っていたけど一回本気で悲しそうな顔をされてからできていないのが現実だった。
『玄太、私またあの二人と過ごしたい』
休み時間にではなく授業が始まってからすぐにそんなことを言われた。
僕の方は相手の脳内に直接~なんてことはできないからノートに遊びにいってきたらどうかと書いてみたんだけど……。
結局それについては受け入れてもらえずに待つことになってしまった。
「別に相手のところにいけばいいとか言っているんじゃないんだから自由に行動してくれていいのに」
「それは駄目だよ、玄太がいてくれないと嫌だもん」
「でも、めめだけでいった方が相手をしてくれる可能性が――痛い痛い、髪の毛を引っ張ったら駄目だよ」
どちらとも友達とは言えないけどまずは同級生の七戸さんを探すことに。
「あれ、もしかして探した?」
「うんごめん、めめが会いたいって言うから探させてもらったんだよ」
「そうなんだ、私もめめと一緒にいたいからありがたい」
話すのは最初だけであとはめめ達に任せておくことに。
同級生とはいえ教室内をじろじろ見ているわけにもいかないから違うところを見て待っていると「入らないんですか?」と出村さんの登場。
「あ、廊下にいるんですね」
「めめとお喋り中なんだ」
「でも、先輩が離れる必要はないかと、なに遠慮しているんですか?」
「遠慮に見える? 僕としては邪魔をしないようにしているだけだけど」
「それが正に遠慮ではないですか、いいからいきましょう」
おわ、腕を掴んだりするのか。
最初の反応を見るにやべー奴設定になっているかと思っていたのにこれは意外だ。
だけど勘違いはしない、七戸さんが近くにいるからだろう。
「心配しなくてもめめならちゃんと相手をしてくれるよ? 僕が少し離れていてもこっちに来たりはしないから大丈夫」
「言うと思いました、だけど私もそこまでめめさん重視で動いているわけではありませんから」
そうか、あくまでめめとは出会ったばかりだからそうなるか。
気に入って一気に距離を縮める人はいない、やるとしてもゆっくりやっていく。
「ひより、めめは可愛いよ」
「それは見れば分かります、だけどゆっくりにしてあげてくださいね。私にしたときみたいにしたらめめさんは怖がってしまいますよ」
「私の上に乗っているぐらいだけど」
「いまは怖くないからですよ」
大丈夫だ、多分一カ月ぐらいが経過すれば自分からいくようになる。
僕のところへはたまにだけでも帰ってきてくれればよかった。
「また玄太はそういうことを考えるんだから」
「そうか、そういえば僕が考えていることは分かるんだよね」
「一緒にいる時間が違うからね、気を付けないとまた髪の毛を引っ張るからね」
なんかこれだと一緒にいるだけで邪魔になってしまいそうだ。
ただ一緒にいっておかないと「いかない」とか言い出しかねないから困る。
「ちなみにどんなことを考えていたんですか?」
「私が自分だけで二人のとこにいくようになるって考えてた」
「あれ、先輩がいないと自由に移動できないんですか?」
全くそんなことはない、最初の方は回復してもらうために家で休んでもらっていたぐらいだ。
「移動できるけど玄太がいないと嫌だから」
「はは、先輩のことが好きなんですね」
「うん、命の恩人だから」
また大袈裟な、彼女はこういうところがある。
本当に家に連れていっただけ、しかも着いた途端に回復したからぽかんとしてしまった。
いやもちろん回復したのはいいことだけどね。
「スーパーにいかないといけないからそろそろ帰ろうか」
「そういうわけだからまたね」
「ばいばい」
「気を付けてくださいね」
変な拘りさえなければ不満を溜めることもないのになあ。
「それはなしだよ」
「やめてって言ったよね? 私は一生玄太のところにいるから」
「はは、一生とは言い切ったね」
「中途半端な気持ちじゃないってこと」
まあ、余程いい人が現れない限りは手放す気もないからとりあえずはこれでいいか。
そんなに大量に買うわけではないからスーパーに滞在していた時間は短かった。
「それに私はお母さん代わりなんだから」
三年前に亡くなって父と僕だけになった、そしてその父も普段は仕事で家を空けているから大きな家に僕一人だ。
別に繋がっているわけではないけどめめと出会ったのは母が亡くなってすぐのときで、当時は少し弱っていたのもあって色々吐いてしまったから僕が駄目にならないように頑張ってくれているのかもしれない。
でも、まさかここまで気にしてもらえるとは思わなかったから……。
「あれ、なゆさんがいる」
「本当だ、ここら辺に友達の家があるのかな」
別に僕の家の前にいるわけではないからそんな風に考えていた自分、ただ近づいて聞いてみると僕の家を探していたとのことだったから驚いた。
「なんとなく女の勘というやつでここら辺じゃないかと探していたけど合っていたみたい」
「惜しかったね、玄太の家は二軒隣だよ」
「知ることができたからいい、上がらせてもらう」
少しの間は外にいたということだし、冷えているうえにめめともいたいだろうから上がってもらうことになった。
「なゆさん、ひよりさんはしっかりしているね」
「そう、だけどたまにお母さんみたいに厳しくなるときがある、だから休んでもらいたくてめめを連れていったんだけどあんまり変わらなかった」
母親系女の子が沢山存在しすぎではないだろうか。
「それは出会ったばかりだからじゃないかな、出村さんも時間を重ねていければ変わっていくよ」
「あと、本当のところを言うとめめを独り占めしたかった、だけど年上としてできなかった結果が今日のそれ」
「それならひよりさんとはひよりさんと、なゆさんとはなゆさんと一緒にいればいい?」
「んーひよりといたいのは私もそうだから難しい」
謎の拘りで勝手に僕も参加することになるわけだからもっとそうなる。
じろりと見てきたから仲良くできるといいねと誤魔化しておいた。
「めめ、これまでで一番積極的だけどあの二人は違うの?」
ある程度のところで七戸さんが帰ったから聞いてみることにした。
これまでも友達は普通にいたのにこんなことはなかったから気になったのだ。
「うん、違うと思う」
「そっか、じゃあ――なに?」
腕を組んでから頑張ろうと言おうとしたのに顔に張り付かれて止まった。
彼女はすぐに「譲ろうとするのは駄目」と、なんか彼女の方がマイナス思考をしている気がする。
「そんなこと言おうとしていないよ。ほら、めめは僕がいないと嫌って言うし、僕もちゃんと仲良くならないとなって思ったんだ」
「それがいいよ、あと玄太にとっていい相手になると思う」
「いい相手って?」
「どっちかが彼女になってくれる――あ、ちゃんと聞いてよ」
馬鹿らしい、彼氏彼女なんて言葉は僕には無縁の言葉なのだ。
あとはどこにでも彼女が付いてくるからそういう子がいても、という話ではある。
それこそいまよりも厳しくなって常に言葉で刺されることになりそうだった。
「友達は欲しいけどめめがいてくれればいいよ」
「え、確かに玄太は助けてくれたし、優しくしてくれたからいいけど、私をそういう相手として見るのは周りからしたら、うん……」
「はい、勝手に妄想していないで休んでね」
「もう、馬鹿玄太」
馬鹿らしいから勉強でもしよう。
すぐにご飯を作る必要もないから大体はこうやって過ごしていた。
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