秋を憶い出す

日暮 0G

第1話 再会

 あ。また、この夢だ。

 


 心がふわふわして落ち着かない。


 祭囃子まつりばやしの音が空気を伝っている。


 明るく、楽しそうな声が耳を伝う。


 草陰の中から見たあの姿が目に焼き付いている。


 秋の夕暮れが祭りの燈に写して酷く淡い色だった。


 そんな、彼女の笑顔が脳裏に、鮮明に輝いている。


 僕は見惚れていた。ただただ、美しいと。僕は息を呑んでいた。息をすることすら忘れてた。

 それ以外、形容することしかできない、そんな光景だった。


 

 なのにあの子のかおがはっきりと思い出せない。



 なんかへんなかんじだ。



 でも、好きだ。僕はあの子に一目惚れしていた。


――――――



 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ。



「――っ」



 これでもかと、ひびく目覚まし時計に叩き起こされ、ベッドから身体からだを起こす。


 僕は定期的にある夢を見る。それは幼い頃の記憶だ。


 胸にくっりきと残っているのに、今となってはあまり思い出すことが出来ない。


 ベットから身体を起し、寝ぼけたまなこをこすりながら僕は、一階に降りた。

水弥みや、もうご飯できてるわよ~」

 母さんがエプロン姿で僕に呼びかけてきた。丁度、ご飯が炊けたところらしい。

 僕は返事をしてから、洗面台に向かい、身だしなみを整える。鏡に映る僕の姿だ。平均的に整えられた髪、よく幼いといわれる僕の顔だ。

 

 ちなみに朝食は、和食派である。


 今日から晴れて僕は本格的に高校生になる。僕は市内の県立高校に進学することになったが、学校は隣り町にあり、電車一本でいけるのでそんなに急ぐ必要もない。


 初登校から数日経っているが、やはりまだ慣れないな。


 クラスには、如何やらもう、仲良く話している人がチラホラいた。多分、いきなり仲良くなったまれな人もいると思うが……多くは同中おなちゅうな人がほとんどだろう。

 僕は中学からの友人も、知り合いもあまりいない。自分だけ出遅れた気がした。


 ガラガラと、教室の扉が開いた。そこから、少し猫背気味の男性が入ってきた。見た目から三十代前半だろう。

 その男性は教卓の前に立ち教卓の両端をつかみながら前を向いた。

「は〜い、静かに。おはよう、みんな。ボクはここの担任になった与鶴ってものです。まぁ一年間よろしく」

 少し低く気だるそうな声で、しかも少し関西かんさい弁訛りがある。

「まぁ、とりあえず。入学して既知の顔もあるだろうけど、まず自己紹介をしようと思う」

 黒板に自分の名前を書き表した。

「とりあえずボクから。この一年二組の担任の与鶴よづる 隆寛たかひろです。これから一年よろしくね」

 あまり見ない苗字だ。

「ボクは一応、数学を教えているかな。趣味に関しては、う~ん。お笑いを見ることかな。巧みな言葉の掛け合い漫才が好きやねん。最近の奇をてらおうとしてるのはだめやな。正攻法でいかな」

 ある種の強烈な先生だ。

「あ、んッ。じゃあ。ボクからの紹介は終わりだね。

 出席番号順でいい? じゃあ一番からお願いね」


 与鶴先生の一声から順番に自己紹介をしていく。

 

 名前、好物、趣味など他愛のないことで、前の人を真似るように次の人の番に進む。


 順調に進み、三番目の女子が立つ。


「みなさん。はじめまして」


 !?


 その一声を聞いた途端に、僕の胸が焦がされる、呼吸が乱れる。

 僕が幼いとき微かに聞いた、柔らかな声。



――僕があの時、出会ってしまった――。



――また会いたいと願ってしまった――。

 


「私の名前は、あずま 炸都さくとです」

 ――その人だった。






△△△△△△△△△△△△


 彼女に気づいた日から数日が経った。もう通常授業は始まっている。

 僕の自己紹介に関しては、当たり障りもなく行えた……と思う。でも裏を返せば面白味が決してあるものではなかった。一様、クラスメイトとは軽くは話せるが、だからといって格段と仲のいい友達ともだちがいる訳でもない。結局、それ以上でもそれ以下でもない関係――



 つまり僕は、あるしゅのボッチになってしまった。



 そんな中、最近、ある悩みがある。それは彼女――あずま 炸都さくとさんをつい目で追ってしまうことだ。彼女の大きな瞳、艶やかなボブカットの髪、明るく澄んだ声につい、かれてしてしまう。大したことじゃないと、思ったかもしれないが…大問題だ。不信ふしんがられるかもしれない。そんなの想像もしたくもない。

 だからといって、話しかける機会なんて、自分から作れるわけもないし、それが出来ないから苦労しているのである。


 そして今日こんにち。今日の化学かがくの授業はどうやら実験をするみたいだ。

 なので、僕は淡々と化学室に向かっている。


 実験室に入ると、どうやら、黒板に座席表が書かれてる。前回、先生が、ランダムに決めとくって言ってたけ。

「え~と。僕の席は……」


 あ…東さんと席が隣になった。


「西くん。よろしくねっ」

「よ、よろしく」

 正直、内心では死ぬほど動揺していたが、化学の実験はちゃんとしていないと、ロクなことが起きないので、真面目を取りつくっている。


 僕の横に実験中の彼女の顔がチラチラ映る。

 ものすごく、真剣だ。

 ものすごくかわいい。今に心臓しんぞうが爆散するじゃないかと思うほど、心拍が上がっている。

 これで、平然を装うのは無理がないか…?と、自問自答すら初めてしまっている。

「西くんー。はいこれ」

「お、おう。ありがとう」

 思わず一瞬、実験のこと忘れるところだった。さらに、東さんの香りがツンっと僕を刺激する。

「西くん?」

「―――ッ!」

 もう……この時間が早く終わることを祈るばかりだ。


 何とか実験を成功させることが出来た。なんか、漠然ばくぜんと疲労が溜まった気がするな。



 授業が終わり、僕はレポートに先生に提出して実験室を後にした。


 

「西くん!」

 廊下を歩いていると、突然、東さんに呼び止められた。

あずまさん……。どうかしま…」

 東さんがものすごく真剣な眼差しで僕を見つめてくる。あまりの凝視に、思わずに後ろに倒れそうになる。

「ねえ。西くん」

 自然と、息をすることすら忘れてしまいそうだ。

「私たち、友達になろっよ」

「―――ッ!?」

 驚きと嬉しさで、もう頭がいっぱいになる。この心をなんて名付ければいいか。

「こ、こちらこそ…おねがいします……」

「じゃあ、よろしくねっ西くん♪」

 東さんは優しく、僕に微笑ほほえんで、歩き始めた。彼女の笑顔は今まで見たどんなものより美しかった。


「ねっ!」


 僕はまた、彼女におもがれていた。







〈再会〉







「『西にし 水弥みや』くんかー」

 その名前を私はかみ締める。



 だってあの日。



――あの秋の夜祭りの日。



――出会ってしまったんだもん。



「――――ッ!!!」

 私は頬を染める。



 だって一目惚れで。

 


 ずっと大好きだったもん。

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