魔王のお手伝い
食堂の端。
今そこに、魔王とサーナはいた。
魔王は肩から、自分の背丈にしては少し大きめのエプロンをかけて。
「お嬢…。お嬢ちゃん。まずはお嬢ちゃんの名前、教えてもらってもいいかい?」
サーナの言葉に、魔王は胸を張って自信満々に返す。
「いいのじゃ!!今日の妾の名前はモーアなのじゃ!!」
「今日は…?」
「そう、今日はモーアなのじゃ!!むふーつ!!」
魔王は鼻から大きく息を吐き捨てた。
「はぁ…。あのバカ…っ!!」
二人のやりとりを見てたアイラは、ため息をつき、ないはずの痛みこらえるように手で頭を押さえた。
そしてすぐ、アイラはサーナと目が合った。
しょうがなさそうに、アイラは二人の元へと向かった。
「サーナさん、この子、少し訳わりなの。だからこの子のこと、今日はモーアって呼んでもらっていい?」
「いいけど…。でも、店にやっかいごとだけは持ち込まないでくれよ?」
「うん、そこは大丈夫…だと思う…」
「そうかい。ならいいんだけど…」
「うん…」
話終わった後、サーナは自分の目線を、膝を折ってから魔王と同じ高さにした。
「じゃーモーアちゃん、今日はよろしく頼むよ?」
「分かったのじゃ!!」
優しく言ったサーナの言葉に、魔王は元気よくそう答えた。
それに、サーナは頬を緩ませた。
「良い元気だね。やっぱり子供は元気が一番だよ!!」
「そうなのじゃ?」
「そうだよ!!」
サーナは女性にしてはたくましい笑い声をあげた。
「じゃーサーナさん、この子のこと、よろしくね。」
「うん、任せな。」
サーナの言葉を聞いて大丈夫そうだと思ったアイラは、さっきまでいた自分の席に戻る。
だからまた、その場にはサーナと魔王だけになった。
「じゃーまずは何をしてもらおうかな。ん-そうだね。じゃー、まずは洗い物でもしてもらおうかね!!」
「洗い物…?なのじゃ?」
「そう洗い物だよ!!付いてきな。」
「おう、なのじゃ!!」
二人は少し大きめの台所へとたどり着いた。
そこは普通の家庭と比べる少し広い。
一般家庭の台所を二つから三つ、くっつけたくらいだろうか。
壁は少し脆くなってきているが、机の上、地面などはしっかりと清掃されている。
そしてそこには、お昼の準備をしているサーナの旦那もいた。
「あんた!!今日はこの子が手伝ってくれることになったよ!!私がいないときは、面倒を頼むよ!!」
サーナの声に、サーナの旦那は頷きで返した。
それを確認したサーナは、また魔王へと話しかける。
「じゃー、モーアちゃん。分かんないことがあったらあいつに聞ききな。どんなことでもね。」
「むふーっ!!分かったのじゃ!!逆に、妾があやつの面倒を見てやるのじゃ!!」
「ふははは!!いいね!!その意気だよ!!やっぱり、子供は元気が一番だね!!」
「ぬわっ!?妾、子供じゃないのじゃ!!立派なレディなのじゃ!!」
「そうなのかい?じゃー、立派なレディなとこ、ちゃんと見せてもらおうかね。」
「ぬふーっ!!任せるのじゃ!!」
魔王は自信満々にそう宣言する。
そのあとすぐ、サーナはたくさんの食器が積まれたシンクへと魔王を案内した。
「じゃー、モーアちゃん、これ、よろしく頼むね?」
「んっとー、どうしたらいいのじゃ?」
サーナはかけていた布巾を取り、魔王に手渡す。
「これで、さらについた汚れをきれいに落とすのさ。そうさね、まずは私がやってみるから、モーアちゃんは横で…」
サーナは魔王を見る。
だけど、見下ろす形になった。
「モーアちゃんの背じゃ見えないね。えっと…」
「ぬっ…!!見えるのじゃ!!ちゃんと見えるのじゃ!!」
「そうかい?でも、食器を洗うには不便だろ?だから少し待ってな。」
サーナはその場から少し離れる。
だけどすぐ、手に台を持って帰ってきた。
「じゃーモーアちゃん、この上に乗んな?」
「ぬっ!!そんなの無くても、妾…」
「いいんだよ。そんな強がらなくても…」
「ぬわっ!?妾、強がってないのじゃ!!全然、強がってなんかないのじゃ!!」
「そうなのかい?私はいいけど…。でも、ちゃんと仕事をしないと、ご飯をごちそうするのもなしだからね?」
「ぬわっ!?」
魔王は衝撃を受けたかのように目を見開かせた。
でももうサーナはそんなことには気にも留めずに、シンクにかさばった洗い物の山に目を向けていた。
サーナは一枚の汚れた皿を手に取る。
「まずは、こんな感じで汚れがついているだろ?それを…」
サーナが説明していく。
だけど、魔王には見えなかった。
(ぐぬぬ…。気に食わない。気に食わないのじゃ!!こんなものに乗るのなんて…!!でもじゃ、ちゃんとできないいとご馳走は抜き。それは嫌のじゃ!!絶対に嫌なのじゃ!!ぬぬぬ…!!!)
魔王はそーと、台の上に乗る。
それにすぐ気づいたサーナは、顔に頬笑みを浮かべた。
「これ、ここに汚れが付いてるだろ?」
「ついてるのじゃ!!」
「だからこれ…」
シンクのすぐ奥には壁があり、そこにはとある機械…
魔道具が取り付けられていた。
その魔道具の突起…ボタンのようなものを、サーナは押す。
そしたらすぐ、サーナが布巾を構えたところに、泡のようなものが魔道具から発射された。
「おぉ~っ!!なんじゃ!!今のは何のじゃ!!!」
見たこともない光景に、魔王は興奮しだす。
その姿に、サーナはまた笑みを浮かべた。
「はははっ。モーアちゃんはこれ、知らないんだね。これはね、泡噴出機。そのまんまの意味で、洗い物とか汚れを落とす洗剤を勝手に作って、ここ…、ボタンを押すと発射してくれる装置だよ。」
「お~お~お~っ!!すごい、すごいのじゃ!!」
「フフッ、そうかい?」
「そうなのじゃ!!すごいのじゃ!!」
「そうかもしれないね。」
サーナは、魔王に向かって微笑みを向けた。
「でね、この泡は食器に付いた汚れとかをのけてくれるんだよ。見てな。」
布巾を少し擦って泡を泡立たせ、サーナは汚れた食器をゴシゴシと擦る。
一回、二回と、数回…
そしてそのあとすぐ、水で泡を洗い流した。
「どうだい?きれいになっただろ?」
サーナの言葉通り、皿はきれいになっていた。
「お~っ!すごいのじゃ!!きれいになってるのじゃ!!ぴかぴかなのじゃ!!」
「そうだろ、そうだろ?じゃ…
「でもじゃ、これ…、えっと、あわ…だったのじゃ?」
魔王は、布巾に付いた泡を指さす。
「そう、泡だね。それがどうかしたのかい?」
「えっとなのじゃ、泡をつけなかったら、これ、きれいにならないのじゃ?」
「あー、じゃーモーアちゃん。泡をつけずに一度やってみな。」
「えっ…、わ、分かったのじゃ…」
サーナはシンクの正面から外れ、そこに台に乗った魔王が立った。
「えっとなのじゃ…。まずはこれで…」
一度泡を洗い流した布巾で、魔王が皿を擦る。
ゴシゴシと、何度も。
だけど、汚れはのかなかった。
「ぬぅぅぅ…!!のかない…!!のかないのじゃ!!」
「そうだろ?じゃー、泡をつけてみな。」
「分かったのじゃ!!えっと、確か…」
魔王はもたつきながらも、魔道具のボタンを押す。
そしたらサーナの時と同様、ぷしゅ~と発射口から泡が噴き出た。
「お~っ!!やっぱりすごいのじゃ!!」
「フフフ、かもしれないね。」
「のじゃ!!」
魔王は泡の付いた布巾で皿を擦っていく。
ゴシゴシと必死に力を籠めて。
終わったら水で泡を洗い流す。
そしたら、皿についてた汚れはきれいさっぱり落ちていた。
「おぉ~っ!!きれいになってるのじゃ!!すごくすごくきれいになってるのじゃ!!」
「だろ?じゃー、洗い終わったのは、落ちないようここに置いていってね?」
サーナは、食器棚に置くよう指示した。
「分かったのじゃ!!」
「私は他のことをしてくるから、分からないことがあったり、終わったりしたら、私か…もしくは旦那に言っておくれよ?」
「うむ、わかったのじゃ!!」
元気の良い魔王の返事を聞くと、サーナはどこかへと去って行った。
そんなサーナの後姿を見送った魔王は、言われた通り洗い物を始めた。
ゴシゴシ…
ゴシゴシ…
シャー。
「うん、いい感じなのじゃ!!」
ゴシゴシ…
ゴシゴシ…
シャー。
「ふふ~ん!!ごっちそう♪ごっちそう♪ごっちそうはなんじゃろな~♪」
一人洗い物をしながら、魔王は鼻歌…ではなく、歌のようなのもを歌い始めた。
「ピッザ♪ピッザ♪ピッザが食べたいのじゃ~♪」
一時間後…
サーナが返ってきた。
「どうだい?洗い物は終わったかい?」
「もうちょい、なのじゃ!!」
「そうかい。」
サーナは洗い終わった食器たちをチラッと見た。
「うん、いい感じだね。」
「当然なのじゃ!!だって、妾がやってるのじゃからな!!」
「うふふ、そうなのかい?じゃ―もう少し、頑張ってくれよ?」
「分かってるのじゃ!!」
10分後…
「ぬふ~!!終わった。やっと終わったのじゃ~!!」
「おっ、終わったのかい?」
「うぬ、ようやく終わったのじゃ!!」
サーナはシンクの中、次は食器棚を確認した。
「うん、ちゃんと終わってるね。それに、きれいに洗えてるし。」
「はっ、そんなの当たり前なのじゃ!!妾がやったのじゃ!!だから当然なのじゃ!!」
「はははっ、そうなのかい?」
「そうなのじゃ!!」
「じゃーその意気で、次は…
「ま、まだなんかあるのじゃ…!?」
サーナが次をと言ったのに、魔王は大きく驚いた。
「当り前だよ。まだまだやることはたくさんあるからね。」
「ぬわ!?ぬぬ…。ぬぬぬ…。もう疲れた!!もうもう疲れたのじゃ!!妾、もうやりたくないのじゃ!!」
「ん-そうなのかい?」
「そうなのじゃ!!」
「そうかい。それは残念だね。」
サーナはシュンとした顔になった。
「モーアちゃん、すごくきれいに仕事できるから、もう少し手伝ってくれたら、おばさんたち、すごく助かるんだけどねー。」
「そ、そうなのじゃ…?」
魔王は褒められたのが嬉しくて、少しニヤニヤとした始めた。
「そうなんだよ。モーアちゃんがすごく仕事できるからね。だから、もう少し手伝ってくれたら、おばさん、すごく助かるのになー。」
「しょしょしょ、しょうがないのじゃ。もう少し、もう少しだけ、妾が手伝ってやるのじゃ!!」
「そうかい?じゃ―…」
魔王を連れて、サーナは食堂までやってきた。
「じゃ―次は、机を拭いてもらおうかね。」
「机を拭くのじゃ?」
「そうだよ。ご飯の後は、どうしても机が汚れちゃうからね。だからモーアちゃんには、今から机を拭いて欲しんだよ。どうだい?できるかい?」
サーナが尋ねる。
そんなサーナへ、魔王は腰に手を当て胸を張り、自信満々に言葉を返す。
「当然、なのじゃ!!そんなの、妾にかかれば簡単!!すご~く、簡単なのじゃ!!」
「そうかい?そうだよね。モーアちゃんはきれいに仕事してくれるもんね。だから簡単わよね。」
「そうなのじゃ!!当たり前なのじゃ!!」
「じゃー、よろしくね?」
サーナはさっきとはまた別の布巾を魔王へと手渡した。
「ぬふふふ、妾に任せるのじゃっ!!」
「じゃ―頼むね。」
サーナは台所へと去っていた。
それを見送った後、魔王は机拭きに取りかかる。
足りない身長を補うため、椅子に膝で乗りながら。
ゴシゴシ…
ゴシゴシ…
「妾は仕事ができる!!仕事ができるのじゃ!!ぬふふふふーんっ!!!」
魔王は上機嫌で、机を拭いていく。
「仕事ができる!!仕事ができる…!!ぬふふふ…」
一つ、二つと拭いていき、魔王はアイラが座っていた机までやってきた。
「お~、おなご、まだいたのじゃ?」
「えぇいたわよ。今日は一応、アンタの保護者…みたいなもんだからね。」
「保護者…?なんなのじゃ?それ…」
「保護者っていうのは…」
アイラは説明しようとする。
だけど寸前で、説明したらめんどくさくなるだろうことに気づいた。
「うんん、なんでもないわ。でアンタ、ちゃんとやってるの?」
「ぬふふ…。当然なのじゃ!!なんたって妾、仕事ができるのじゃ!!すごくすごく仕事ができるのじゃ!!だから簡単なのじゃ!!」
「そ、そうなんだ…」
「そうなのじゃ!!だからおなご、今から掃除するからそこをのくのじゃ!!」
「あっ、うん…」
アイラは立ち上がって、席から少し離れる。
そのあとすぐ、魔王は机の掃除を始めた。
「へー、ちゃんとやってるのね。」
「当り前のなじゃ!!妾は仕事ができるレディなのじゃ!!こんなの簡単なのじゃ!!」
「そ、そっか…」
「当たり前なのじゃ!!」
アイラは少し困惑しながら魔王を見つめる。
だけど魔王はアイラのことは気にせず、ゴシゴシと机を拭いていく。
「妾は仕事ができる~。すっごい、すっごいのじゃ~!!。ぬふふふふ…」
魔王がそんなひとり言を口にする。
その光景を、アイラはずっと苦笑いで見ることしかできなかった。
そこから15分後、机を拭くという仕事を魔王は終わらせた。
それを報告するため、魔王はサーナの元にいた。
「終わったのじゃ!!すごくすごくきれいにしたのじゃ!!」
「お~、もう終わったのかい?」
「そうなのじゃ!!」
「じゃー、少し見に行こうかね。」
「行くのじゃ!!行って、見てみるのじゃ!!」
「ふふっ、分かったよ。」
魔王とサーナは食堂へと向かった。
そしてサーナが机をざっと確認していく。
その横を、魔王は自信をこもった笑みを浮かべながらいた。
「うん!!ちゃんときれいになってるね!!」
「当たり前なのじゃ!!なんたって、仕事ができるレディである妾がやったのじゃからなっ!!」
「ふふふっ…。そうだね、モーアちゃんは立派なレディだね?」
「そうなのじゃ!!ほんとそうなのじゃ!!と、当然なのじゃ!!」
いつものように、魔王が自信満々の時にする、腰に手を当てたポーズを取る。
その姿を見て、サーナは微笑みを浮かべていた。
そしてチラッと、サーナは時計の方を見た。
「あら、もういい時間だね。じゃーモーアちゃん、お手伝い、ありがとね。」
「もう終わりなのじゃ?」
「そうだよ。もう少しでお昼の時間だからね。」
「おっ、お昼っ!?もうお昼なのじゃ!?」
「もう少ししたらね。だから、もうアイラちゃんのとこに戻って、ゆっくり休んどきな?約束通り、おばちゃんがお昼ごちそうしてあげるからさ。」
「ごちそうっ!?そうじゃ!!ごちそうなのじゃ!!」
「そうだよ。ちゃんとごちそうしてあげるよ?」
「分かったのじゃ!!待ってるのじゃ!!ごちそう、待ってるのじゃ!!」
「ん?うん。待っててね。」
「おうなのじゃ!!」
サーナは一瞬だけ気がかりなことがあったが、気のせいだと思ってすっと流した。
そして会話が終わり、魔王はアイラのいあるテーブルへと戻った。
「ん?お手伝い、終わったの?」
「ぬふふ…。終わったのじゃ!!」
「そ、お疲れ様。」
「うんなのじゃ!!でおなご、おなごは今まで何してたのじゃ?」
「ん?あー…」
アイラは手に持っていた、わら半紙でできた本を、魔王に見えるよう少し持ち上げた。
「本読んでたの。」
「本…、なのじゃ?」
「そう、本よ。」
「本…、それはいったい何なのじゃ?」
「んーっとね、本には物語とか知識が書いてあって、これは物語の方ね。人と人とのお話が書いてあるの。」
「ふ~ん、そうなのじゃ…」
「そうなのよ。」
魔王はアイラの持っている本を見つめていた。
「じゃーつまり、お主は遊んでたってことじゃな?」
「まー、そういうことになるかな。」
アイラの返事に、魔王はニヤッとした笑みを浮かべた。
「じゃ―お主、お主は妾はより下なのじゃ!!」
「はっ…!?」
「だってなのじゃ、妾は今まで一生懸命お手伝いしてきたのじゃ!!なのにおなご、お主はずっと遊んでただけっ。遊んでただけなのじゃ!!つまりは、妾より下なのじゃ!!ずっとずっと下なのじゃ!!」
「なにこいつ…。くっそ腹立つんだけど…!!」
「ぬふふふふ…。それに今から、妾の方に、妾の方にだけ御馳走が出てくるのじゃ!!すっごいすっごい御馳走が出てくるのじゃ!!どうじゃおなご…、うららましいじゃろ?」
いつものように、魔王は言葉を間違えていた…
「うらやましい、ね。」
「んじゃ?ちゃんと言ってるのじゃ!!うららましい…。ほら言えて…
「言えてないからね。アンタは、うららましいって…
「あーもうそんなことはどうでもいいのじゃ!!どうでもどうでもいいのじゃ!!それよりもじゃっ!!」
「良くはないでしょ…」
アイラは冷静に返すが、魔王は気にしない。
「今から妾にだけ御馳走が出てくるのじゃ!!すっごいすっごい御馳走が出てくるのじゃ!!それをお主は見てるだけなのじゃ!!見てることしかできないのじゃ!!」
「アンタ…」
「ぬふふ…。欲しいって言ってもあげないのじゃ!!絶対にあげるないのじゃーー!!」
魔王はニマニマとしながらそう言い放つ。
でもアイラは、そんな魔王を可哀相なものを見るかのように見つめていた。
「はい二人とも、おまたせー。」
そこから少しして、ご飯が運ばれてきた。
「ごっちそうっ、ごっちそうっ♪」
魔王はルンルンとしながら、それが自分の目の前に置かれるのを待つ。
そんな魔王に微笑みながら、サーラは魔王とアイラの目の前に料理を置いた。
普通のサンドイッチを…
「のじゃ…」
ルンルンで、ブラブラさせていた魔王の足が止まる。
いや、魔王自体の時が止まった。
運ばれてきたサンドイッチの種類は二種類。
片方は野菜がたんまり挟まれ、一緒にチーズも挟まれたもの。
もう片方は小刻みにされたチキンをトマトソースで味付けされたもの。
アイラの方には計3つ、魔王の方には計4つ乗っていた。
「こ、これが御馳走…?なのじゃ?」
運ばれてきたものに、魔王は驚きを隠せなかった。
「さぁモーアちゃん。約束通り、これはおばちゃんのおごりだからね?」
「おごり、なのじゃ…?」
「そうおごりだよ。ちゃんと手伝ってくれたからね。じゃー、ごっゆくりね。」
そう言い残して、サーナは去って行った。
魔王はただぼけーっと、目の前にあるサンドイッチを見つめる。
5秒…、もしかすると10秒、いやもっとかもしれない。
そんな魔王に、アイラは何も言えずいた。
「なぁ、おなご…」
「な、何よ…」
「これはどういうことなのじゃ?妾、全く意味が分からないのじゃ…」
魔王はまじまじと目の前にあるサンドイッチを見つめながら尋ねる。
その問いにアイラは、少し困惑しながら言葉を返す。
「あー、あのね、アンタは勘違いしてたみたいだけど、サーナさんが言ったごちそうって、ご飯を奢ってあげるって意味だったの。だけどそれをアンタは勘違いして、御馳走…。すごい料理をサーナさんが出してくれるって勝手に勘違いしてたの…」
「…つまりは何のじゃ?」
「アンタの勘違いよ…」
「勘違い…、妾の勘違い…。のじゃーーーっ!!!!ぬわっーーつ!!!!」
「何?どうしたの?」
「なんでじゃ!!なんでなのじゃ!!」
魔王が騒ぎだした。
「ぬぬぬ…。妾、頑張ったのに…。なのに、ぬわーーーーっ!!」
躍起になったかのように、魔王はバクバクとサンドイッチを口に詰め込みだした。
「う゛ばい…!!うばいのじゃ!!!」
「そ、そう…」
「ぐぬぬぬ…。もうしないのじゃ!!絶対に、お手伝いなどしないのじゃーーーっ!!!」
「そ、そっか…」
こうして、魔王のお手伝いは終わりを…
30分後…
サーナが食器を取りに来た。
「モーアちゃん、どう?サンドイッチ、おいしかったの?」
「おいしかったのじゃ!!」
すごい勢いで、魔王はそう言い放った。
「そう?それは良かったわ。で、それからなんだけど。モーアちゃん、お昼からもお手伝い、してみない?」
「ぬわっ…!?絶対に…
「モーアちゃん、すごく仕事できるから、手伝ってくれるとおばさん、すごく助かるなーって。」
ピタっと、魔王が止まった。
そして、顔からニヤニヤが浮き上がってくる。
「妾、すごいのじゃ?」
「すごいね。もうほんとに仕事できるよ!!」
「そ、そうなのじゃ?」
「そうだよ!!」
魔王の鼻が高く伸び始めた。
「ま、まぁ当然なのじゃ!!なんたって、妾はすごいのじゃ!!だから当たり前なのじゃ!!」
「よっ、モーアちゃんはすごい!!」
「ぬふふふ…。任せるのじゃ!!お手伝いなど、妾に任せるのじゃ!!!」
こうして、魔王はお昼からもお手伝いすることになったとさ。
「アンタ…」
魔王がサーナにをおだてられるのを、アイラは可哀相なものを見るかのように見ていた。
魔王を倒したはずの勇者の、ほのぼの生活 @yuu001214
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