第11話 力の代償
◆
力を使いすぎたか……。
路地裏に足を踏み入れた瞬間、限界だった体が崩れるように倒れた。
「はぁ、はぁ……」
息を切らしながら、なんとか体勢を立て直す。
僕に宿る力――虚数。
それは、好き勝手に使えるような都合のいいものじゃない。
使えば使うほど、僕の“存在”は不確かになっていく。
そしてそれに比例して、身体能力は低下する。
「……これじゃ、普段の僕は、ますますただの最弱じゃん」
苦笑いを浮かべながら、壁にもたれて息をつく。
「でも……見捨てられないよ」
“仮面の執行者”として悪を裁くのは、正直、完全に僕の趣味だ。
でも、あいつらが危険な目に遭うのは、冗談じゃ済まない。
リリィも、ミナも、ジークも――《
だから、力を使う理由なんて、もうそれだけで十分だ。
「……さすがに、今回は無茶しすぎたなぁ」
地下に潜んでた異形の存在。
そして、押し寄せるモンスターの大軍――。
連戦なんて、僕みたいな“最弱”にはキツすぎるってば。
魔力はほぼスッカラカン、お腹もペコペコ。
……今「リリィのご飯が食べたい」とか言ったら、さすがに怒られるかな。
いや、ちょっとは心配してくれる……といいなあ。
「それよりさ、『……把握した』ってなんだよ! 何も把握できてなかったからね!? あれ!」
モンスターの数なんて、あんなん数えられるわけないし!
あれだけワラワラ出てきたらさ、「たくさん」でよくない? いいよね!
「ていうかさ! なんで僕、あそこでカッコつけて――『……雨が、来る』とか言っちゃったわけ!?」
晴れてたよ!? 空、ピッカピカだったからね!?
「うぅ……思い出しただけで恥ずかしい……」
もう、あの場面だけ切り取って燃やしたい。
みんなの記憶から消えてほしい……いや、できれば僕の記憶からも消えてほしい……。
「はぁ……穴があったら入りたいって、こういう時に使うんだな……」
言葉にしてから、ふっと息を漏らす。
ツッコミにも力が入らないのは、疲れてる証拠だ。
――ま、待ってよ?
あの時、雲を吹き飛ばしたの……僕だよね? 空を晴れさせたの、完全に僕のせいじゃん!?
ってことは――「……雨が、来る」とか言ったの、完全なる自爆じゃないか!!
「ぎゃあああああああああ!! ――いったぁ!!」
頭を抱えて悶えてたら、思いきり壁に手をぶつけて悶絶のダブルパンチ。
精神的にも物理的にも痛い。ほんと、やってられない。
……そういえば、あの地下。
あれ、なんだったんだろう。
モンスターの群れが現れる直前――確かに、そこにあったんだ。
冷たい石の祭壇。その中心に埋め込まれた、脈動するような“赤い魔核”。
そして――
「……あの瞳」
暗闇の中、確かに見た。
砕けた魔核の中から、構成されるようにして現れた――あの赤い瞳。
視線を合わせたわけじゃない。でも、確かに見られていた気がする。
生き物のものとは思えない、底知れない“意志”。
ゾッとするほど冷たい、けれどどこか悲しげな“赤い目”。
――何者なんだ、あれは……。
やば……考え事してたら眠くなってきた……。
もうダメだ、動く気力なんてこれっぽっちも残ってない。
……ま、いっか。ここ、誰も来ないし。
そう思いながら、僕はそっと目を閉じた。
◇
「リアン! リアン! 起きてよ……!」
……なんか、すごく落ち着く匂いがする。
「リアン……! 起きて!」
ぼんやりと目を開けると、目の前にリリィが心配そうに顔を覗かせていた。
「リリィ……?」
うつろな目でリリィを見上げると、彼女は焦ったように言った。
「なんでこんなところで寝てるの!? ほら、起きて!」
気づけば、僕はリリィの腕に抱きかかえられていた。
「おい、リアン、大丈夫か?」
顔を上げると、ジークが少し困ったように僕を見つめていた。
「え? あ、いや、ちょっと……」
「ちょっとって、なんだよ!」と、ジークが眉をひそめて突っ込む。
「お前、最弱なんだから黙って隠れてろよ!」
ジークが僕に向けた言葉は、いつものようにぶっきらぼうだけど、どこか心配してくれているのだろう。
「ねぇねぇ、ここでなにしてたの〜? 猫の餌でも漁ってたの〜?」
ミナに関しては相変わらずのメスガ……こほん、からかってくるが、その目にはほんの少しだけ、心配の色が見え隠れする。
意地悪そうな顔をしてるけど、どこかほっとしたような雰囲気が漂っていた。
「よかった……本当に、よかった……」
そう言って、リリィは僕をそっと抱きしめた。
顔を上げると、彼女は泣きそうな目で見つめてきて、ふうっと小さく息をついたあと、安心したように微笑んだ。
「……ごめん、心配かけたね」
僕がそう言うと、リリィは小さく首を振った。
「ううん……でも、本当に無事でよかった。あんな戦いのあと、どこにもいないから……」
その声は少し震えていて、胸がきゅっとなった。
「心配、したんだよ?」
「……うん。ありがとう。僕、ちょっと無理しすぎちゃったかも」
そう答えると、リリィはほっとしたように微笑んで、そっと僕の髪に手を伸ばした。
「次からは、無理しすぎないで。最弱だとしても……私にとっては、大事な仲間なんだから」
その言葉に、僕は静かに心に決めた――
どんなことがあっても、リリィを守り抜くって。
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