第4話 急展開?

右も左も分からない、真っ暗な中で、ただただふわふわと漂っている。


(…ここどこ?………私、どうなったんだろ?)


五感すべてを奪われ、虚無の中、唯一残された思考で梨華は今の状況について考えていた。


(なんだか、変な感覚…………。私、いつまでここにいるのかな。)




ーーーどれほど時間がたったのだろうか。かなり長い時が経ったような気もする。


暗闇の中で漂っているうちに、段々と自と他の境界線がなくなっていくような感覚が梨華の中にはあった。


自分だと思っているものが、暗闇の中に溶けだして……一体化していくような、感覚。


そんな感覚に、梨華は身を任せ、思考も溶けて、いよいよ無くなっていく…………そんな時。


突如、に引っ張られ、溶けだしていた意識が戻ってきた。そして、思考と同時に、奪われていた五感も自分の身体と共に元に戻ってくる。




気が付けば、梨華は一つの椅子に座っていた。


恐る恐る目を開けると、先程までの暗闇とは対照的な、真っ白な明るい空間が広がっており、梨華は眩しさから思わず目を細める。


「うぅ、まぶし……ってあれ、喋れる?っていうか、ここどこ?何にも無さすぎるでしょ。なんか落ち着かないな~」


辺りを見渡しても、ほんとに何にもない、ただただ真っ白な部屋。広さも相まって、普段部屋が散らかっている梨華はなんだかソワソワしてしまう。


……梨華の名誉のため補足すると、別に梨華の部屋はゴミがあちこち散乱しているというわけではない。

ただVR関連の機械が多く、また最低限の掃除をしてはすぐにソフィアに会うためにVR世界に潜っているからである。


そうしてしばらく梨華がソワソワしていると、不意に一つの足音が聞こえてきた。


「あら、起きたのね。間に合って良かった。」


「……えっと、貴方は………?」


「ふふっ、初めまして。私はアルテール。アルって呼んでね。」


梨華の目の前に現れたのは、大きく純白な二翼を背中に持つ、1人の女性。優しげな瞳に、たれ目が特徴的な、佳麗な女性だった。


それに、母性がすごい。見た目もそうだが、梨華の心が、底から安心してしまうような、そんな雰囲気が彼女にはあった。


「えーと、アル……様?は、はじめまして。私は……」


「そんな畏まらなくていいよ〜。それに、敬語もなしね。」


「え、そ、それは…………」


「………」


「えぇ………」


一歩も引かない目の前の彼女は、何故だか梨華のことを気に入っていて、また敬語を嫌がっているみたいだった。ただ、梨華からすれば、雰囲気から明らかに只者ではない、神々しさを感じるような相手に対して、そんなフランクな態度でいいのかな…と若干困惑していた。


「………(ジー)」


「…え、ええと…………わ、わかった。」


「うんうん、よろしくね。そしたら、何から話そうかな…………。梨華ちゃん、まず何か聞きたいことはある?」


「……じゃあ、とりあえず、此処がどこだか聞いてもいい?」


梨華としても聞きたいことが山積みで、また今の状況に頭が混乱しつつもあるが、とりあえず思いつくことから聞くことにした。



「そうね、ここは神域って言われる場所でね。色んな神様が仕事している場所だよ。」


「ていうことは、アル様も?」


「ええ、私もそうよ。まあ、神って沢山いるから、私はそのうちの1人に過ぎないけどね〜。」


背中に翼があるとか、ただならぬ雰囲気とかで、梨華はなんとなく予想はしていたが、直接聞くとやはり驚いてしまう。

…というか、神様なのに敬語とかいらないのかなと、梨華は若干不安になる。


ただ、敬語で話そうとすると、途端に悲しげな表情を浮かべるものだから、もはや敬語の方が失礼なのでは…と梨華は心の中で無理やり割り切ることにしていた。


「話したいこととか聞きたいことは沢山あるんだけど…、とりあえず梨華ちゃんのこれからの話をしないとね。あのも待ってるからね〜。」


「あの娘?……というか、そういえば私って、死んじゃったの…?」


「…ええ、残念だけれど、そうね。……あら、思っていたより落ち着いているのね。酷く落ち込んでしまったらどうしようって、心配だったのだけれど…。一応こんなのも用意してたし…。」


「まあ、ある程度覚悟はしてたから…。それに…なんだか此処にいると、心が落ち着く気がして。………………そのぬいぐるみは欲しいです。」


梨華がそう告げると、アルテールは少し目を見開いて…そして嬉しそうに微笑んだ。


「そっか。それならよかったわ。…このうさぎちゃんもあげるわね。似合うわね……じゃなかった。それでね、梨華ちゃんのこれからの事なんだけどね、梨華ちゃんには私の管理する別の世界に行って欲しいの。」


「もしかして、それって異世界転生ってやつ?」


「そうそう、地球で言うそれと大きな違いは無いわ。ただ別に、なにか使命があるとかっていうわけではないから、安心してね。別になにしてもいいわよ。」


神である私が認めるからね、とアルテールは言ってくれたが、それほどアクティブな性格ではない梨華にとっては、今の所、特別何かをするつもりはなかった。強いて言えば、のんびり暮らしたい…といった所だろうか。



ー出来ればそこに、ソフィアも居てくれたら…なんて不意に梨華は思った。


(ソフィアはどうしてるかな…って、別に何も変わりはしないか。ただの一プレイヤが来なくなっただけだし、そもそもNPCだし…。……………会いたいな。)


こんな時でもソフィアの事を想い、思わず抱えたぬいぐるみに力が入ってしまう。そんな梨華の心境を知ってか、目の前にいるアルテールは、梨華のことを優しく、それになんだか嬉しそうに見つめていた。


「やっぱり、梨華ちゃんは素敵な子ね。可愛くて、優しくて、強くて、一途で、愛が深くて、…………うんうん、やっぱりそうしましょう。早く会わせてあげないとね。」


「?…アル様、どうしたの?」


なにかポツポツと独り言を言っていたアルテールだったが、暫くして、梨華のことを見据えた。


その瞳は、相も変わらず優しい。


「梨華ちゃん、話したいことはいっぱいあったんだけど、やっぱりやめた。よし、今から転生させてあげるから、心の準備してね。」


「えっ急に?…あの、まだほとんど何も聞いてない気がするんだけど……それに心の準備って?なんだか嫌な予感が…………」


「大丈夫大丈夫!向こうに行ったら後でゆっくり説明してあげるから、安心して。よし、じゃあ行くよ!それじゃあ、いってらっしゃい~!」


まさかの急展開で梨華の頭が追い付かないうちに、アルテールの何故か遊園地のような掛け声と共に、突如現れた魔法陣が光を放つ。


「えっ、今から………ってそういうこと!?急展開すぎない!?」


「……そうそう、その魔法陣ってね、早く向こうへ行ける代わりに、とてつもない浮遊感を覚えるってものだから、頑張ってね!。地球でいうジェットコースター?に似てるって、私の補佐の子が言ってたから、地球に慣れてる梨華ちゃんなら大丈夫!きっと楽しめるよ!」


「待って待って、聞いてない……ってまって、ほんとに怖いこれ!どこが楽しめるのこれ!?日本にこんな速いの無いし、これただ自由落下してるだけだし、ただただ怖いよ!~~~っ!!アル様、後で覚えておいてねほんとに!!」


そうして混乱と恐怖の中、梨華はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめながら、眩い光と共に、魔法陣の中に飲み込まれていった。

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