第2話 特殊クエスト
「こんにちは、いつものお兄さん。今日は何かいいクエストある?」
「梨華様ですね。僕の名前はいつになったら覚えてくれるのでしょうか……」
ソフィアと別れた梨華は、その足でクエスト受注所へと向かっていた。そうして今日も何か依頼を受けようと、いつもの丸眼鏡NPCのお兄さんに声をかける。
「いや、覚えてるよ? ただ、何となく”お兄さん”の方がしっくりくるもので。」
「まあ、梨華様にはほぼ毎日お世話になっておりますし、その方がしっくりくるというのであれば構いませんが……」
「まあまあ、そんなわけで。今日はどんなクエストがあるの? …………チョコレートさん。」
目の前の彼は、ソフィアと同様にほぼ毎日会っているNPCの内の一人である。…………会う理由は、ソフィアのついでとも言えるのだけれど。
それでも、これだけ何年もほぼ毎日顔を合わせているので、梨華にとって彼は気の置けない親友的なポジションだった。
「だ・か・ら! 僕の名前はマーブルです! マー〇ルチョコに引っ張られないでください!」
……ただ、いつまでたっても梨華は彼の名前を覚えられないので、彼にある好感度ゲージは一向に変わらないのだけれど。
「…………はあ、まあいいです。このやり取りも何回やったか覚えてないですから。」
「ごめんね? 覚えようとはしてるんだけど…………。」
「……………。今日はこちらのクエストなんてどうでしょう。」
このやりとりもいつものことである。彼はげんなりした様子で、一枚の紙を梨華に差し出す。その紙を受け取って内容に目を向けると、梨華はたちまち驚きで目を丸めた。
渡された紙に書かれていたのは————
--------------------------------------
<宮殿クエスト> <難易度:超高難易度++> <ソロクエスト>
〇討伐対象:スケルトン・ロード(レイドボス仕様)
・制限時間は30分です。
・デスペナルティはありません。
・アイテムの使用は自由です。
*特殊クエスト(本クエストは特殊クエストになります。以下の効果が発動します。)
・
・移動速度上昇(15%)
・全ステータス10倍
--------------------------------------
「……何これ。なにかのミス? それとも運営が血迷ったの?」
書かれていたクエスト内容は、アーカディア・オンラインを初期からプレイしている梨華にとっても初めて見るものだった。
(超高難易度++のクエストは今までも何回かあったけど、レイドボス仕様のボスをソロで攻略させるなんて、聞いたことないし……。しかもなにこれ、最後の”全ステータス10倍”って。運営がふざけているとしか思えないような内容だよ……。)
このゲームには、四人一組の”パーティー”と、そのパーティーが四組集まって初めて戦うことの出来る"レイドボス"が存在する。レイドボスは通常ボスに比べてステータスや戦い方が大きく異なり、簡単に言えば”超強化”される。
そんな本来は十六人で戦うことが想定されたレイドボスを、なんとこのクエストでは一人で攻略させようとしているのである。
ちなみに梨華はこのゲームを始めて以来、一度もパーティーすら組んだことのないソロプレイヤーだった。梨華のこのゲームにおける第一の目標は、常にソフィアであったからである。
…………知らない誰かとパーティーを組むのが億劫だった、というのもある。梨華にとっては、かなり精緻に作られたNPCと話すので十分だった。
(レイドボスだからステータス10倍ってことだろうけど……。まあ、デスペナも無いし、やってみようかな。面白そうだし報酬も気になるしね。)
少し悩んだものの、レイドボスと”ステータス10倍”の珍しさに好奇心をくすぐられたリカはクエストを受けることにした。
「お兄さん、このクエスト受けるよ。」
「ほんとですか! ありがとうございます! このクエストは今日からのものなのですが、受けてくれる人が誰一人いなくてですね、困っていたんです。」
「……まあ、このクエストは無理だと思ったんだろうね。正直に言えば、私も自信は無いよ。」
「あら、梨華様がそんなこと言うなんて珍しいですね。明日は大雪でしょうか。」
「……システム的に降らないでしょ。それくらい可笑しなクエストだってことだよ。」
そうして梨華は、依頼書を折りたたんで≪
「じゃ、いってくるね。チョコレ…………じゃなかったよね。えっと………………マーベ〇さん。」
「それはアウトです! お気をつけて!!!」
***
「スケルトン・ロードなんて久しぶりな気がするなあ。レイドボス仕様になると、何が違うんだろう。……それにしてもステータス十倍っていうのは、なんだか変な感覚。」
宮殿を離れて目的のボスがいる洞窟にたどり着いた梨華は、十倍されたステータスに慣れるべく、道中の敵を軽く屠りながら進みつつ————数分後。目の前にあるのは、髑髏の彫刻がなされた五メートル以上ある大きな鉄扉。いかにも趣味が悪そうな見た目に、思わず苦笑いする。
(道中の敵である程度このステータスにも慣れたし、大丈夫そうかな。デスぺナも無いから、気楽にやろう。)
梨華は一呼吸してから、目の前の扉に軽く手のひらを当てる。ゴゴゴ…………という音と共に扉がゆっくりと開く。その先に現れたのは、道中の狭い洞窟とは一転して石造りの巨大な空間と、最奥にはこれまた趣味の悪そうな玉座が一つ。
そして、スケルトン・ロード(レイドボス仕様)は居た。
それを見た梨華は————
「…………ええ、デカすぎない? というかその玉座、座れなくない? もしかして設計ミス?」
「……オオオオオオオオオオ!!」
「おお、怒った。」
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