第9話 新天地へ
暖かな日差しの下をゴトゴトと荷台の上で揺られているといつの間にか眠りに落ちていた。
夢の中では異国情緒溢れる王宮に佇んでいた。
目の前の豪華な王座には不釣り合いな程の小柄で銀髪の少女が腰掛けていた。
その身なりは王族に相応しくシルクの薄手の衣服に宝石に彩られた金の装飾品を身に付けていた。
僕は夢の中とは知りながらもその少女の前まで進み出るとどうしたら良いものかと戸惑い立ち尽くしていた。
すると玉座からイキナリ声が掛けられてきた。
「なぁーんじゃ、妾と共に居ってまだ気が付かぬのかや?」
僕は精緻な夢だなぁと感心しつつ頷いて見せた。
「全く張り合いの無い。女性に逢うたら先ずは容姿を褒めるのが礼儀というものじゃぞ」
僕は小さな女の子を繁々と見詰めたが、何を褒めたものやら? と戸惑いを見せていた。
「えっと……髪! とっても綺麗な銀髪ですね」
女の子はウンウンと頷きながら答えた。
「やはり良い目をしているのう。妾の毛並みを褒めるとは合格点じゃ」
銀髪の少女は掌を舐めると、その華奢な指先で髪を剝き始めた。
(まるで猫みたいな仕草だな)
僕が心の中でそう思っていると、髪を剝く手を止めて言った。
「昨日から一緒に居るじゃろう? 妾の名は『ブバスティス』じゃ。主ならティスと呼んでも構わぬぞ。フフフフッ」
少女の深緑の瞳が愉悦に細められる。
変なタイミングで目が覚めた。
僕の胸の上には灰色の猫が乗っていた。
ちょうど十日が過ぎた頃になって荷馬車はようやくトルドの町を見下ろす峠に差し掛かった。
そこで老商人はこちらを見遣り声を掛けた。
「アランよ、乗車はここまでで良いかのう? お前さんを乗せたままじゃと荷の関税の他に運賃の課税も払わなきゃならんのでな」
僕は十日間の内に、この老商人とも仲良くお喋りなどしながら旅をしていた。
老商人も家族が居ないからか殊の外に僕のことを気に掛けてくれた。
会話の都合上、名前は本名を略してアランとしておいた。
(もしも異端審問の類が老商人に及んだら嫌だからな)
老商人は名残惜しそうに話した。
「月に一度はトルドの町に訪れる。困ったことが有ったら、いつでも儂のところに相談に来るのじゃぞ」
そう言うと右手を差し出した。
「ありがとうございます。困った時はよろしくお願いします」
僕も右手で老商人の手を取り握手をして別れた。
老商人の手は節張っていてゴワゴワしていたがとても暖かだった。
僕は荷馬車を降りると老商人とのお別れをして一路、城塞都市トルドに向かって歩を進めた。
城塞都市トルドの入り口には常設の検問がいくつも備えられており、街の住人用・商人の出入り用・旅人の通行用と分かれて設えていた。
僕は冒険者として旅人の通行用の検問に並んだ。
順番が回ってくると『冒険者・アラン・15歳』と記入して検問を通った。
これは老商人の知恵であった。
未成年であれば身分証の提示もいらない。
更に城塞都市トルドは交易の要衝地でも有るため地方からの出稼ぎに来る者は多い。
特に冒険者や商人を目指す者にとっては最初の目的地として多くの旅人が訪れるのだと言う。
街に入ると地図を頼りに、叔母さんの家に向かった。
【400PV感謝!】授かりし魔法はパラポンテ そうじ職人 @souji-syokunin
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