物語のない本屋さん

ととと とい

物語のない本屋さん

物語のない本屋さん


森の奥にただ静かに佇む巨木の中にある


そこには丸メガネをしたきつね顔の店主が管理する不思議な本がある


本には何も書かれていない


その本は表紙に書かれた名前の人物が持つと過去現在未来がわかる


自分の人生に呆れて未来の夢を見る人が訪れる


〜〜〜〜


俺は会社で失敗して妻ともうまく行かなくてそんな時に森の本屋の話を聞いた


そこの本には自分の未来が書かれていて好きなように書き換えることができるらしい


せっかくの休日だが家にいるのも気まずい気がしてその本屋に行ってみることにした


とある山の奥底へ進んでいくと遠くからでもわかるほどの巨木が生えていた


ここが本屋だと信じて入ってみると


「いらっしゃいませ。お客様。自分の未来をお探しですか?」


本屋に入っていくとメガネをかけた変な気を纏った人が訪ねてきた


「はっはい。自分の未来を変えたくて。」


「なるほど。それではこちらに手をかざしてください。」


暗く霧のかかった宝石のような物を取り出して自分の方に近づけてくる


宝石に手をかざすと本屋全体が軋みだし遥か上空の本棚から一冊の本が落ちてきた


「その本があなたがお探しのものです。未来を読むも読まぬも書くも書かずもどうぞお好きに。ただしお気をつけて。」


浮かんでいる本を掴み、表紙を見ると確かに自分の名前が書かれていた


確かに自分の本のようだ


さらに開いていくと自分の誕生から今のことまでが書かれていた


これから先は家で読もうと本を閉じる


「お代は結構。それはもともとあなたのものですから。」


家に帰り自室で本を開き未来のページを開ける細かい文字は無視していくとたまに大きな字で書かれている物を感じた


どうやら印象に残ったものほど大きな文字になるそうだ


大きな文字を追っていくとどうやら俺はこれから妻と離婚して仕事も首になり転落人生を送るようだ


さっそく文字を消して理想の未来を書こうとすると文字が勝手に消えて自分の考えていた文字が浮かび出した


目の前が明るくなり目を覚ますといつも通りの部屋の机に座っていた


俺の願った未来はいい仕事について妻と慎ましく暮らすこと


確かにこの願いは叶った


あの本屋に行ってよかった


この幸せを踏み締めて生きていこう


〜〜〜〜


男を吸い込んだ本は浮かびながら外に出ていく


「おやおや。どうやらいい人生を送れているようですね。」


本が店主の手に乗り男のことを伝える


店主が自分の持っている木箱に本を入れる


木箱から巨木の本棚に入れると巨木が育ち背が高くなる


「これで天国にまた近づいた。あと⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎人。いつ向こうへ行けるだろうか。」

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