2. 守りたいだけなんです
「どうするのよおおおおおおお――ッ!」
バァーン! と両の拳で机をぶっ叩くオリビアに、私は冷や汗かきつつまあまあと両手を立てます。王都の外周、革命軍もとい『蒼炎の騎士団』……今にして思えば割と恥ずかしいですねこの名前。キメざるを得ない状況だったとはいえ。ともあれ今は我が配下となった軍勢の、司令部とされた貴族邸宅にて、主要な者たちが顔を突き合わせます。
さて、落ち着きがてらにお茶でも淹れようかと思ったら、オリビアの一撃によりポットも何も全てひっくり返っていました。意外にも力持ちなんですね、感服です。
「呑気に言ってる場合!? どうして、何で、わざわざ煽ったの!?」
「いえホラあの、オリビアさん、本気の魔法貴族と戦いたいかなあと思って……」
「数日前の私に言って――ッ! もうアリシア様に蹂躙されたのでこりごりなのよ――ッ!」
わあああああ、と両手で頭を掻きむしって仰け反ってブンブンと振って、後に顔を覆って俯いてしまった彼女にアハハと苦笑しつつ、私は腕を組んでむむむと首を傾げます。
「とはいっても、この状況だとコレが最適解ですからねえ。革命騒動を穏便に収めつつ私の生誕祭を終結させ、かつオリビアさんたちに責を問われないようにするには」
「アリシア様は、本当に……」
問い詰めるような視線がオリビアから向けられますが、すぐ諦めたようでまた肩を落とし項垂れてしまいました。一度、長い溜め息を吐き出すと、覚悟を決めた面持ちを上げて、
「勝算は、あるの。負ければ悪戯に王都を混乱させた過激集団扱いよ」
「私の指示ということですので、生誕祭のイベントとして通せますよ。それに、もちろん勝つつもりでいます。オリビアさんも、そのつもりで仕掛けたのですよね?」
問えば、オリビアはうぐと呻きつつ、額に右手を当て、
「魔法貴族は、連携と戦術の概念が無いに等しいわ。だから一人ずつ釣り出して、各個撃破」
「よく見ていますね、その通りです。彼らは常に少数精鋭、個人が相応の実力者でありますから、下手に連携などせず個々に突貫、なんとなく制圧するのが最も手っ取り早いんです」
私たちが、革命軍の拠点を制圧した時と同じですね。後ろでは、カリンはじめ近衛たちがうんうんと頷いています。アレも基本としては、一人一人の長所を活かした突撃を適宜制御しながら押し通していっただけで、魔法貴族の戦術とそう変わりありません。
「今回はその逆をすればいいわけです。つまり……王家四皇を含む少数の貴族による単独突撃、その全てを片端から潰していけば、自ずと勝利は見えてきます」
「「「また簡単に無茶を言うよこのお姫様は……」」」
全方位から呆れの息が落とされますが、コレしかない以上は通すしかないのです。私はこの場の最後の一人、ジェムスへと目を向け、
「ジェムス。軍の中に魔法の使い手は何人いますか?」
「三人です。いずれも、下位貴族と同じかそれ以下の能力しか持ちません」
「十分です。ベル、あなたを中心に連携と後方支援の用意を。普段は通信を任せていますが、今回は戦場全域へ高速の物資補給を行なってもらいます。すぐにお願いします」
「分かった。一日で仕上げる」
「レン、ルーシィ。二人は個々に遊撃として動いてください。主に一部上位貴族の足止めを行なってもらいます。全域を駆け回ることになるので、装備は身軽に」
「ウス!」
「無茶振り~。斧は置いてった方がいいかな?」
「カリンは……」
「ユリウス様を、迎え撃ちます」
「お願いします。恐らく、最後まで出てこないでしょう。十分に休息を取ってください」
カリンは頷き、三人に続いて部屋を出ます。残ったのは、私とオリビア、ジェムスの三人だけです。
さてと、両手を打って気を取り直しまして、私は改めてオリビアに向き合い、
「オリビアさん。あなたが要です。何をお願いしたいか、分かりますね?」
「……急いで、全軍用の武装を揃えます。それと、アリシア様から提案されたような装備も。異能の中から引き出せるのか、やってみないと分かりませんが」
「元よりこの世界へ危機をもたらすものです。多少の無茶は押し通せましょう。何せ相手はあの王家四皇、五家純血統の最上位貴族です。確実に、無力化しなければ」
「何でよりにもよって、貴女が一番異能の活用に乗り気なのよー……」
シクシクとむせび泣くオリビアを他所に、戦略図の思索に耽る私。
ジェムスが、何とも言い難い微妙な表情で、首を横に振っておりました。
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