第43話 助け
息をのみ、じっと見つめていた草むらが2つに割れる。はっとしたが、現れた人物からは聞き覚えのある声がした。
「あれ?コーヤじゃないか、久しぶりだね!」
俺は、気が抜けて、地面にペタリと尻を着く。
「何で……エリックがここに?」
「何でって、俺はモンデプス院長に使いを頼まれて、薬草の種を仕入れに麓の村に。こんなところでコーヤに会えるなんて、ついてるな」
どう考えてもエリックに会えた俺の方がついてる。
用事が終わって帰ろうとしたら、山に珍しい果物がなると聞いて、土産にと取りにきたエリックを褒め讃えたい。
「コーヤこそ、何で?誰か怪我人?」
暫く会わない間にまた背の伸びたエリックが、ヒョイと俺の後ろを覗き込む。
「エリック、悪いんだけど、手伝って貰えないだろうか」
エリックと手分けして材料を調達する。
パドウ達が探しに来ない今、ここに長居は危険だ。
長い枝を2本と、上着や草の蔓を使い即席のタンカを作り、2人がかりで王様を乗せた。
頂上に向かってもパドウ達に会える保証はなく、王様の無事を優先するなら山を降りるしかない。
エリックには道すがら、王様のことは偉い貴族ということにして、自分を庇って崖から落ちたと説明した。王様だなんて聞いたら腰を抜かしてしまうという配慮だった。
幸いエリックは信じてくれ、少しの水や食べ物も持ち合わせていた。落ち込む気持ちも気の知れたエリックと話すことで忘れられる。
神様が願いを聞き入れてくれたんだと、感謝しつつ麓を目指していたが、試練はこれで終わりではなかった。
麓の村に着く頃には夜に近くなっていた。
村外れに空き家があったので、申し訳ないが一晩だけと言い訳をして入り込む。
井戸と
「じゃ、ちょっと行って聞いてくるね」
と、エリックは顔見知りの農家に話しを聞きに行った。
俺は魔法も併用して湯を沸かす。まだ意識が戻らない王様の体を綺麗に拭いてあげたかった。
「王様、服脱がしますね」
こんな状況じゃない時に、王様の肌に触れたかったな、と衣服を脱がしながら思う。
王様とのキスは、思い出すまいと思っても無理だった。胸がキュンとする。それほど良かった。
あの時は、流されまいと必死だった。今考えるとバカみたいだ。こんなことになるなら。
今は、男だからと拒んだことを後悔している。
好きなんだ、俺。王様のことがきっと。
自分の思いを自覚する。王様の意識が戻ったら、俺からキスしたいくらいだった。
でも。今は気持ちを切り替えて、看病しよう。
「早く起きないと、俺に、どこもかしこも見られちゃいますよ」
俺は手早く清拭を終えると、王様の威厳を保つように、着衣をしっかり整えた。
そうこうしているうちに、エリックが差し入れを手に、気まずそうに帰って来る。
期待はしていなかったが、この村には薬草や野菜を作る農家が数軒あるだけで治療院はなく、隣の村まではだいぶあるとのことだった。
治療師と合流したと伝えると、怪我人を診て欲しいと頼まれ、差し入れをくれたそうだ。
「代わりに少しばかりの銅貨をくれるって」
「そうか。困ってる人がいるなら行ってくるよ。でもお礼は受け取るつもりはないよ」
「だけど、王都に戻るのにも宿に泊まるにもお金を稼がなきゃ」
エリックの言う通りだった。
家族が他界した昨年から1人で生きなきゃならなかったエリックは、良い意味で現実的だった。目を覚ませられる。
俺は、王様を王宮まで送り届けなくてはならないのだ。護衛もいない状況で、どこに敵に連なる者がわからない中、王様だと吹聴して歩く訳にはいかなかった。
意識を取り戻した王様にひもじい思いはさせられない。
「エリック悪いけど、この……カルレ……カルロさんを、頼んだよ。目を離さないでね」
「わかったよ。いってらっしゃい」
ホッとして満面の笑みを浮かべるエリックは、まだあどけなく弟のようで可愛い。
「どうした?エリック。笑うところあった?」
「なんか新婚さんみたいだなって」
「ん?誰が?」
首を捻りながらも、魔法で灯した松明を手に夜道を急いだ。
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