第16話 治療団

「中央治療院のコーヤです。治癒術と薬草に関して、モンデプスに師事しています」

 先程案内してくれたパドウが、最後に入ってきた俺達を空いているソファに着席させると、俺から順番に自己紹介するよう指示してきた。

 本当は、異世界から来たばかりだとか、治療師になって3年ちょっとで自信がないだとかを伝えたかった。

 だが、ここに来る前のローデンの部屋でのやり取りが思い出される。

 顔合わせに行く前にと、自己紹介で話す内容を尋ねられた。

「そんな自己紹介じゃ舐められるぞ」

 ローデンが言うには、

「王都3大治療院から選ばれし若者が集まって来ている。俺達の評価はそのまま所属する治療院への評判になる」

ということだった。

 何だそれは。

 自分や治療院の評判なんて、俺はどうでも良かった。俺より治癒術が上手にかけられて、俺より薬草の知識や新しい効く処方を知っているメンバーがいるのなら、患者が助かるだろう。

 評判より、治療を優先したいと思うのはおかしいことなんだろうか。

 馬車でのことを謝ろうと思っていたことも忘れて、ローデンに食ってかかった。

「そうじゃない。自信がない処方や術なんて、誰も受けたくないだろう?コーヤは自分を客観視すべきだ」

 何だか言いくるめられたようだが、その時はそういうものかと思い、顔合わせに向かった。


「中央のローデンだ。医師養成院で2年学んだ」

 隣のローデンが俺に続く。

 顔合わせのために用意された広い部屋には、ゆったりと円を囲むような配置でソファや椅子が置かれていた。

「東の治療院のマコーミックと、ダレスだ。2人とも薬草の研究に力を入れている。さっきぶり」

 顔見知りとなったマコーミックが、一同に同僚を紹介しながら、俺に親しげに目線を寄越す。

 俺も笑顔を返す。彼の隣には対照的な、痩せ型で神経質そうに脚を揺らす男が座っている。

 間に挟まるローデンが、少し身体を乗り出した。やる気がすごい。

 続いては紅一点、女性の治療師だ。

「マリアンです。西の治療院から参りました。多分1番年長ね。同性の利点を活かして、メイリーン様の病に向き合いたいわ。よろしく」

 その隣は、ローデンと似た服装の男だ。

「ネロだ。同じく西から。ローデンとは以前に養成院で面識があるな」

 隣で会釈のつもりか、微かに頷くのが見えた。

「皆さんに、私の方からの説明は簡単です」

 分散していた注目がパドウに集まる。

「それぞれ使者から、今回お集まりいただいた事情はお聞きになっていると思います」

 パドウが話し出すと場が一気に緊張した。

「この後、王宮の医師からの引き継ぎがありますが、実際には、引き継ぎ事項はあってないようなものと思って下さい。プライドのお有りになる医師たちが、メイリーン様の病の原因を突き止められなかったことにより、貴方がたお若い治療師に役目を譲ることをどう思っているか……お分かりになりますよね?」

 そんな……。今までの情報もなく、治療をしろと言うのか。その場にいる治療師全員が言葉を無くす。

「それと、貴方がたに与えられた治療期間ですが、来年の春、陛下の在位2年祭までとなります」

 追い討ちのように、次々とショックを与えられ、室内はしんと静まり返っていた。

「安心して下さい。王宮の医師でもできなかったことですから、病を治せなくても特にお咎めはないでしょう。

 質問はありませんか?それでは、医局に案内しますので、迷子にならずに付いてくるように」

 誰もが今の説明に困惑し口を聞けないでいる。このまま引き継ぎに向かうというが、だがそれで良いわけがない。

「待って下さい。医局へ行く前に、俺達だけで先に話をさせてください」

 思わず口から出た言葉だったが、周りを見渡すど、誰もが頷いている。

 危機感を持ち、真剣な表情で見つめる全員の瞳を眺めた後、パドウが予定変更を許可した。

「では、半刻後に迎えを寄越します」

 俺達は、ホッと息を吐いた。

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