無双なんて望んでないのに、なぜか怖がられている!? 【いつの間にか魔王よりもヤバい旦那と言われていた件について】

大野半兵衛

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「なんだとーーーっ!?」


 荘厳な造りの部屋に、グライデン皇国皇帝の叫び声が響き渡った。

 皇帝はプルプルした手で書類を握りしめ、目を血走らせながらその内容を何度も読み返した。


「ま、誠なのか? 本当にこんなことが?」

「某もその報告を聞いた時には、耳を疑いました」

「全て誠のことなのだな?」

「はい。別途確認をしております」

「で、では……魔王が登城するのか?」

「今回は魔王の旦那のほうが登城し、報告するとのことです」

「魔王の、旦那ってこれであろう? この報告書にあるこの者であろう?」

「はい、その者にございます」

「……余は病気だ。この者との謁見はお主に任せる」

「そんなわけにはいきません。もし仮病だとバレたら、魔王が何をするか分かりませんぞ、陛下」

「何を言うか!? 魔王よりヤバいんだぞ、こいつ! 余はまだ死にたくない!」


 普段は威厳のある皇帝が、一切の威厳を感じさせない駄々っ子ぶりだ。


「そもそもゴーレムってなんだ? 太古の時代に失われた技術であろう!? それを造って邪神の化身を討伐した? 魔王より性質が悪いではないか!?」

「お会いしないと、本当に死ぬことになりますから、我儘を言わず、お会いしてください」

「嫌だ!」

「じゃあ、魔王がきますよ。私は止めましたからね。魔王の怒りのとばっちりはごめん被りますよ」

「そ、そんなこと言わずなんとかしてくれ」


 縋るような目で見る皇帝。


「ですから、普通にお会いし、普通に褒めて、普通に褒美を与え、お帰りいただきましょう。それが一番安全なことです」

「むむむ……分かった。だが、重臣らを全員呼んでおけ。もし欠席したら、その家を潰してくれるわ」

「八つ当たりは止めましょうよ」

「絶対に嫌だ!」

「子供ですか」

「うるさいわ」


 皇帝がここまで嫌がるのは、ひとえに魔王のせいである。魔王との因縁は二代前の皇帝、現皇帝の父の時代に遡る。

 ※前皇帝は兄だった。


 当時の皇帝が魔王の逆鱗に触れ、騎士や宮廷魔法使いが無力化され、城を破壊されたことがあった。その際に皇帝は魔王の呪いを受けたのである。

 その後、すぐに皇帝は退位して息子(現皇帝の兄)に皇帝の座を譲った。決して魔王を怒らせるなと、何度も何度もなーーーんども、口酸っぱく言い聞かせて。

 だが、前皇帝は魔王を軽視し、その婚約者を誘拐して魔王を従えようとし、魔王の逆鱗に触れてしまったのである。

 その前皇帝は即位後半年ほどで、現皇帝にその座を譲り渡すことになってしまった。


 前皇帝の暴挙の際に、城に乗り込んできた魔王は皇族全員と重臣全員に呪いをかけた。そのあまりの恐ろしさに、その時の当事者たちはどっと老け込んだほどだ。

 ちなみに、前皇帝は魔王の呪いによって、一〇〇日間苦しみ抜いて死んでいった。

 それほど恐ろしい魔王の旦那がやってくる。しかもその旦那のほうが魔王よりヤバいという報告書が、皇帝の手の中にある。

 どうヤバいかというと……。物理的に魔王でも討伐できなかった邪神の化身を討伐できるほどヤバいのだ。

 その邪神の化身討伐の報告をするために、魔王よりヤバい旦那が城に乗り込んでくるのである。皇帝は戦々恐々、ビビりまくっているのだった。


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