第2話


湊の部屋を出て、エレベーターに着くと、

"点検中"という文字が見えた。



桜來は仕方なく、

階段側から降りることにした。









ちなみに寮は上から、

高等部3年・2年・1年・高等部ラウンジ・食堂

中等部ラウンジ・3年・2年・1年・エントランス

となっている。







なので、湊の部屋は9階にある。








タンタンタンタン…







「夜の階段って初めて。なんだか怖い。」






桜來は、ゆっくりと階段を降りていく。











「………〜♪」







すると、突然どこからか声が聞こえてきた。









桜來はその声に、思わず足を止めた。









「…誰かいる?」














ふと、上を見上げると、

"中等部ラウンジ"と書かれた看板を見つけた。










「…〜♪」








桜來は、ゆっくりと、

声のする方へ近づいていく。









「…~♪~♪」





どんどん鮮明に聞こえてくる声。






少し鼻にかかった様な、独特な声質。

低くすぎず、高すぎず、安定した歌声。












「すごい…魅力的な歌声。」









桜來は、引き寄せられるように、

前へ前へと進んでいく。









すると、窓際に立つ、

一人の男の子が見えた。










外の街灯が、彼を優しく照らしている。













「…綺麗」











思わず口に出た言葉。







更に桜來は、彼へと向かって歩き出す。






「~♪~♪~♪~♪」






気がつくと、

彼のすぐ背後まで近づいていた。





何も知らない彼は、歌いながら、

ちょうどこちらに、身体の向きを変えた。





必然的に、彼と目が合う形になる。












サラサラとした彼の黒髪が揺れる。






白く透き通った肌。


スッと通った鼻筋。


切れ長な目が少しずつ開き、震える。





「っわあぁぁぁ!!!!!」






ドサッ









「ごめんなさい。大丈夫?」








「いってぇ…はい…てか誰…?」







しりもちをつきながら、身体を擦り、

こちらに問いかけてくる彼。




「私は桜來。高等部2年。

声が聞こえたから入ってきちゃった。

驚かせてごめんなさい。」






「あー…先輩だったんですね!

こちらこそすみません。

この時間は人が居ないから、

練習に最適なんです。

じゃあ俺、もう行きます!失礼します。」







「あ、待って。名前…名前教えて。」










この時、何故彼に、

名前を聞いたのかは分からない。









「琉生。北瀬琉生(きたせ るい)です!

中等部3年です。」








「琉生くんは歌手を目指してるの?」






「はい!歌が好きなので。」





「素敵な声。あなたの声すごく好き。」





「ありがとうございます!

てか…そんな真顔で言われると、

普通に照れるんですけど…」




下を向きながら、

恥ずかしそうに答える琉生。





「本当、原石って言葉がピッタリ。

あなたのためにある言葉みたいね。」






「へっ?俺がですか?!

さすがにそれは褒めすぎですよ!笑」







「私、あなたのファン1号になる。

だから絶対に夢を叶えてね。」






「ファンって…笑

でもそれ、めちゃくちゃ嬉しいです!

ありがとうございます!」





はにかむように笑う琉生。














"彼のことをもっと知りたい"









桜來が男性に対して、

こんなに興味を持つのは初めてだった。












「またここに来てもいい?」











「はい!いつでもどうぞ。」





「ありがとう。ルイルイ。」



「…ルイルイ?笑

そんなん呼ばれたことないですよ!笑」



「じゃあ私だけの呼び名だね。

またね。ルイルイ。」







桜來はラウンジを後にした。










「不思議な人だな〜笑

でもすごい美人だったけど…

芸能コース?なんかどっかで見たような…

どっかで…あっ。」





ふと、ラウンジ内にある、

本棚の雑誌が目に入った。




「樫木桜來…あの人だ。」



パラパラ…


「今をときめく高校生モデル…

えっ。めっちゃ笑ってる笑

さっきはあんな無だったのに笑

でも本当にー…」








本当に…彼女は、

息を飲むほど綺麗だった。


明るめの長い髪。大きな瞳に長い睫。


さすがはモデルと言わんばかりの

顔の小ささに、際立つスタイル。




でも、何よりも驚いたのは、

あのミステリアスな雰囲気。

  







「…やっぱり有名人は、

オーラが違うよな~俺も頑張んないと。」















これが二人の最初の出会いだった。

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