第24話【眠れないほど】ト【逆さま】

萌香は昼食を食べ終えてリビングから、私服に着替える為2階にある自室へ向かった。着替え終えるとベッドの上に転がり———。


萌香「少しだけ休憩したら……課題の残りしよう……」


夏季補習1日めにして出された課題の量が思っていた以上に多くあったようだ。その為時間が足りず終わらなかったので、宿題になってしまったのだ。

———数分後萌香は寝息をたて始め寝てしまった。


萌香がベッドの上で寝入ってから約5時間経った頃。部屋のドアをノックする音と共に母親が「ご飯ができたわよ」と呼びに来た。萌香はそれに返事をする。眠い目を擦りながら2階から1階に降りてリビングのドアを開けて入った。

リビングテーブルの上に母親が作った夕食が並べられている。今日の夕食は和食だ。萌香は椅子に座る。


萌香の父親「萌香。随分眠そうだな」


向かいの席に座る父親が話す。


萌香「……うん。あれ?今日パパ休みだっけ?」


萌香の父親「やだなぁ。パパ朝から居ただろう。気付いてなかったのかい?」


萌香「えっ??えぇ……っと」


萌香「(朝は、仕事に行くマミィと朝食を食べて、それから……最寄りの駅まで車で送ってくれて、その時パパはまだ……仕事で会社に、ん?家に居た?)」


萌香は、朝の出来事を思い出しながらパパの存在を脳内で探す。だが会っていない。頭の中はもうパニック状態だ。母親は混乱しきっている萌香の様子を見て困った顔で夫(萌香の父親)を諌めた。


萌香の母親「パパ、冗談はその辺にしてあげて」


萌香の父親「悪かったよ。久しぶりに家に帰って来れて、一緒に食事することなかったからつい。萌香、ごめん。本当はパパさっき帰ってきたばかりなんだ」


萌香「もぅ!!パパぁ〜!?」


父親の話が嘘だと知った萌香は幼い子供のように頬を膨らませた。幼い頃から父親は冗談ばかり言って困っている萌香の姿を見るのが楽しくて愛おしくてたまらないのである。


萌香の父親「お詫びに、面白い話をしてあげよう」


萌香「なになに?どんな話?」


萌香の父親「パパが中学生の時、電車のホームにある公衆電話で実際に起きた話を……って萌香どこに行くんだ!?」


萌香は手を合わせて「ごちそうさま」と言って席を立った。食べ終わった食器をキッチンの流し台へ持って行きリビングから出ようとしている。萌香はムッとした表情を父親に向け、


萌香「その話前に聞いた。怖いお話でしょ!萌香、自分の部屋に帰る!」


バタン!!と強くリビングのドアを閉めた。


萌香の父親「ありゃぁ。怒らせちゃった。もう高校生だから平気だと思ったんだけどなぁ」


萌香の母親「無理よ。萌香、お化けや怪談話すっごく苦手なままで変わらないわ。旦那あなたの所為で」


萌香の父親は都市伝説や怪談話が好きで会社の人や友人、時には家族にも話ていた。その所為で萌香は父親が苦手である。幼い頃に聞かされた怪談話で布団に入っても眠れないほど怯えたことがあった。

萌香は自分の部屋に戻るなりベッドの中に潜った。


萌香「パパの怪談話本当にヤダ。ちょっと思い出しっちゃたよぉ。明日も学校あるのに今日眠れるかな。……ん?学校!?あぁぁーーーっ!忘れてた〜!?」


萌香は宿題になった課題を思い出しベッドから慌てて起き上がり机に向かい、必死に宿題をするのだった。

____________________


 夏季補習2日め萌香は朝早くに教室に来ていた。昨日の課題が終わったのは深夜1時頃、それから今日の準備をしていたら寝る時間が深夜2時になってしまった。補習で遅刻するわけにもいかず1限目が始まるまで寝ていようと思ったのだ。しばらく机で寝ていると、チャイムの音が聞こえて来る。萌香は寝ぼけたまま鞄から携帯を取り出し時刻を確認する。液晶画面に9時50分と表示され、1限目はとうに終わっていた。寝過ごしたことにようやく気づいた萌香に隣の席にいる大神が小声で話しかけた。


大神「おはようさん。2限目始まったで」


大神萌香の好きな人の声が耳に入るに加え、声を掛けてもらい萌香は嬉しさのあまり大きな声で大神おおがみに挨拶してしまった。


萌香「お、おはよう!!早いねっ」


すると同じ教室に居た生徒が一斉に萌香に注目し、数名ほど笑っている。大神は萌香から顔を逸らしくすくすと笑いを堪えているつもりでいるが、堪えきれず笑いながら萌香にツッコミを入れる。


大神「ちゃう、ちゃう。早ないって((笑))。自分起きるん遅すぎやわ」


萌香は顔が真っ赤になり恥ずかしくなって、机に顔を伏せた。すると萌香の目の前に樺本かばもとがやって来た。


樺本「お早う。輪通わづつさん。随分気持ちよさそうに寝ていたわね。昨晩は何をしていたのかしら?」


樺本は笑顔を見せている。しかし、目が笑っていないので萌香の目には不気味に映り怖くて樺本から目を逸らし答えた。


萌香「き、昨日の課題の残りをしていました」


樺本「そう。終わっているの?」


萌香「は、はい」


樺本は萌香から課題を受け取ると本日の課題だと言って萌香に手渡した。


樺本「次からは1限目始まる前にアラームをかけなさい。明日も同じことしたら賄賂……いえ。ペナルティーだから」


萌香「は、はい」


萌香は、鞄から教科書を取り出して本日の課題プリントを進めていく。さっきからプリントの文字が逆さまに印刷されていることに気づく。これは誤字だろうか?萌香は大神に自分のプリントを見せて確かめてもらうことにした。


萌香「あの、えっと大神君。あたしの世界史の課題だけかな?文字が逆さまなんだけど……」


大神「ちゃう、ちゃう。輪通自分だけじゃないで俺も今、それやってるけどおんなじやから」


萌香「そうなんだ。あたしてっきり樺本先生の嫌がらせかと思っちゃった」


大神「どうやろうな……あの先生せんこう性格曲がっとるからやりかねんわ」


またしても目の前に樺本が現れた。今度は萌香と大神の間だ。樺本は大きな目で2人を睨む。


樺本「大神君、輪通さん。二人とも静かにしなさい。次、喋ったらペナルティーで課題増やすわよ」


大神と萌香は互いに『ごめん』と手や口パクで交わし、課題に集中するのだった。


24話End


お題【眠れないほど】24‘12/6


  【逆さま】24‘12/7

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