七話

 バカじゃ無いの?何でしたの? バカじゃ無いの?怖く無いの? バカじゃ無いの?何で出来るの?

 

 何で死にそうになってまで助けたの? 何でそんなご都合主義があり得るの?

 私はそう叫ぶ様に、眠るの顔を見る。


 『柊 真琴』


 遊園地で魔徒に襲われ、親友である子が倒れて。

 その子に渡された『血啜の武装スキルヴィング』を使って、魔徒を倒したぁ?

 あり得ない、って私は言いたくなった。

 あの平和ボケ巨乳女は死ななくて良かった、なんてほざいてるし。

 猫は相変わらずふざけてるし、目つき最悪女は何考えてるのか分からないし。

 この第三支部はバカばっか、まともなのは私しかいないじゃない。


「うるさい!! 僕をバカにするだけだったら、この部屋から出て行ってください!!」


 だから、そう怒鳴った彼を見て私は驚いた。

 ただの、何もいえないバカかと思った。

 そうじゃ無い彼に、私は惹かれたのかもしれない。


 私は子供の頃から、誰にも理解されなかった。

 お父さんは、家に滅多に帰ってこず。

 お母さんは、家に居なかった。

 特に深い意味もなく、それだけだった。


「バカね、もっと効率のいい勉強方法があるわ」


 声が先に出た、拒絶される恐怖に怯えながら私はこう言うことしかできなかった。

 私は相手をバカにすること以外で、人と関わる方法を知らないのだから。

 こうして真っ向から怒鳴ってくれる人でも、私はこうしてバカにすることでしか関われない。


 拒絶される、そう思った。

 だけど実際は拒絶をされるどころか、私の話をキッチリと聞いてくれた。

 聞いて、実践して。

 私と言葉を交わしながら、私のことを見てくれた。


 嬉しかった、少しだけ。

 いいや、とても。

 これ以上なく、嬉しかった。


 頑張って教えた、可愛かった。

 教えたら感謝され、嬉しかった。

 感謝されたら胸が温かくなって、楽しかった。


 恋、だと思った。

 初恋だった、これ以上なく嬉しかった。

 ベットに入って考えた、頭があの人一色で染められたような気分だ。

 ソレは感動だった、言葉にできない嬉しさだった。


 私は彼女柊 真琴に恋をした。


 任務中も、睡眠中も、食事中も。

 ずっと、ずっと考えていた。

 その癖、彼に逢いに行こうと思えば足が竦み上手く動かなくなる。

 あの日放った言葉が私の心を苛む、あの言葉で嫌われていないかと私は迷い戸惑った。


 彼女の、好きな物を知りたい。

 彼女の、好きな食べ物を知りたい。

 彼女の、好きな本を知りたい。

 彼女の、好きなアニメを知りたい。

 彼女の、好きなゲームを知りたい。

 彼女の、好きなモノを全て知りたい。


 聞いた、頑張って尋ねた。

 受験勉強よりも、テスト勉強よりも頑張った。

 私が成してきたあらゆる事以上に、私は努力を重ね。


 まずはご飯を作れるようになろうと、そう思い至った。

 私は恥ずかしながら、料理は苦手だ。

 実験は得意、調合も得意。

 だけど、料理は苦手だ。


 愛情を注がれたご飯、と言うのがイマイチ理解できない。

 同じように作った物なら、同じ味にしかならない。

 けど、他の人は違う。

 味は完璧でないものの、私の料理にない暖かさがあった。

 私はそんな、美味しい料理が作りたくて頑張って。


 その成果を見せる日は、案外近くで生まれた。


「パーティーの準備、ありがとうございます……。それと……、なんか色々申し訳ないです……」

「き、気にしないでください!! 古見路が悪いんです!! 私たちが頑張ってサプライズを企画しているのを知ってながら!!」

「にゃんにゃにゃにゃん、そうにゃそうにゃ!! あの冷徹メガネにはいつか制裁を下さなきゃにゃん!!」

「ふ、フン!! まぁ別にあんたの為だけにこんなモノ作ったわけじゃないけどね、勘違いしないでよ!! 別に残念だとか思ってもないんだから!!」


 突き放すように言う私を、猫山が酷く冷たい目で見てくる。

 その視線に少し狼狽えている内に、早速料理が運ばれてきた。

 私が作った料理、その他にも市販の料理や家庭的な料理も見られる。

 チラリと、古見路を見た。


「なんのようですか? 伊勢下官」

「アレは、あんたの?」

「まさか、彼女たちのですよ。私は料理はカップラーメンで十分と思える人間なので、質問はそれだけですか?」

「……そう、それだけ」


 そっか、他の人も作ってたんだ。


 その感想は、私の心を急速に冷やしていく。

 この笑顔は、私だけのものでないことに納得できない。

 もうすこし、私を見てほしい。


「どうしたんですか? 伊勢さん、元気……。元気、ないですよ?」

「うっさい!! バカは自分の心配でもしてなさい!!」


 そのポカンとした顔が憎たらしい、理由は分からないけどとても憎たらしい。

 憎たらしい、だから叫ぶようにしていじけた。

 

 バカ、バカバカバカ。


 気付いてほしいわけじゃない、けど気付いてほしい。

 察して、私に近寄ってくれるだけでいい。

 けど、そうはならない。

 わかっている、そんなことは分かっている。

 だけど、それでももう少し私の感情を知ってほしい。

 私の努力を知ってほしい、そんな矛盾が胸中に渦巻いている。


 私は、女の子に恋をしたのだ。

 

 多分、私にはそうとしか形容できない。

 これは恋だ、こんな胸が高鳴り彼女を思うという行為は恋でしかないだろう。

 私の脳内に存在するすべての言葉を使って、だけども恋という結論以外は出てこない。


 私は、きっと未来でこの思いを後悔する。

 けどその後悔があってもかまわない、私は彼女に惚れてしまった。

 あんな風に自分に怒鳴った、そんな彼女に恋心を抱いた。

 今ここには、それだけの事実がある。

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