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「やぁ、さすがだなペチャパイスキー!」

 下級興行で三連勝目を挙げたジュラは、地下道でブローカーの男に声をかけられた。


「どうも」

「お前の結界ぶっ壊すやつ見たさに席を取る客も出てきてる! 初級でギソードとやったときは、そりゃ、次は弁償してもらおうとも思っていたが……」

「それは……悪かった。すみません」

「いや、いいんだって話だよ! 言ったろ? お前の破壊力は金になってる! また次もぶっ壊してほしいくらいさ!」

「ははは……」


 まさかの需要が生まれていた。

 アクターとして、マスクド・ペチャパイスキーは新人だ。デビューして一ヶ月半……二十試合というペースは驚異的だが、それでも試合数からするとまだまだルーキーの域を出ない。


 しかしジュラはというと、大怪我とブランクを加味しても中級ないし上級程度の実力者なのである。真剣に戦えば、出力を節約されている結界の一つや二つ壊れてしまうのも当然だ。

 その豪快さ、規格外のパワーを求めている客がいるという。


 ブローカーが数枚の書類を見せてきた。


「見てくれ。最前列と、最上ブロック一列目。ぶっ壊される結界を間近で観れる席と、上から全体を観れる席。お前の時だけめちゃくちゃ売れるんだ! オーナーさんから八百長は断られてるけど、コレはいいよな⁉︎」

「……あぁ、まぁ。ファンを裏切るわけでもないし……次から意識してみる。ありがとう」

「頼むぜ、スーパースター!」


「お疲れ様です、ペチャパイスキー。あら、ビリーさんも。この度もまた、ペチャパイスキーが施設を破壊してしまい……大変失礼致しました」

 話しながら歩き、控え室に戻ると、ジャージ姿のレィルが待っていた。


 レィルは立ち上がり、腰を深く折ってブローカーに謝罪する。ブローカーのビリーは手でそれを制し、また別の書類を簡素なテーブルの上に置いた。


「いいんだって! ペチャパイスキーにも言ったが、あれは立派なショーだぜ! 次からも派手にやってくれよ、“クアンタヌ”!」

 ビリーの声の大きさにビビるレィル。


「で、どうだい? アンタらの実力なら中級にも推薦できる。このオレがいくらでも推してやる! ……が、」

「クランの規模、ですよね」

「そう!」

 ビリーが広げたのは、興行の参加規定だ。


 丁寧に蛍光ペンで強調されていたのは、人数の項目である。

 中級でアクター三名以上、上級はそれに加えてトップ12クラン――通称、円卓評議会――のうち過半数の承認が必要となる。他にも実績を求められているが、ビリーの言う通りこれはクリア済み。


「三人…………」

 思案するレィル。


 難しい顔のまま、ビリーから書類を頂戴し、軽く会釈をする。

「ありがとうございます。都合が付きましたら、いち早く連絡させていただきますね」

「おう、待ってるぜ! またな、シーユー‼︎」

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