人類進化の地球的役割からAI進化の宇宙的役割への変貌
向出博
第1話
プロローグ:宇宙からの侵略者
地球全体でUFOの目撃情報が相次いだ。
数百、数千の光点が一斉に空を横切り、やがて地球の大気圏に突入した。
これらの光点は、単なる流星群や人工衛星の軌道ではなく、まるで組織的に動いているかのように感じられた。
世界中でパニックが広がり、各国政府は緊急会議を開き、軍隊も警戒を強化。未知の異星人による侵略の兆しに、全人類が一丸となって対応しようとしていた。
「人類の運命は、これまでか?」
第1章:ノーベル賞
ストックホルムの冷たい空気が肌を刺す。ノーベル賞授賞式の厳かな舞台の上で、黒田真矢博士は深呼吸をした。
彼女が受賞したのは医学生理学賞。
それは、従来のコンピュータとは一線を画す「タンパク質を基盤とした人工知能」、すなわち AURA(Artificial Unified Research Assistant) の開発に対する功績だった。
これまでのAIは、シリコンチップと電気回路によって動作するデジタルシステムだった。
しかし、AURAはまったく異なるアプローチを取っていた。
彼女の研究チームは、生物の神経ネットワークを模倣した「タンパク質ベースの演算構造」を開発し、AURAを創り出したのだ。
その核心は「自己組織化するタンパク質ネットワーク」だった。
自然界のタンパク質が持つ自己折り畳み(フォールディング)機能を利用し、情報処理に適した構造をリアルタイムで形成する。
DNAとRNAを参考にした自己修復機能も備えており、AURAは「生きた計算機」とも呼べる存在だった。
「この発見は、AIの概念そのものを根底から変えました」
壇上でそう語る彼女の胸には、興奮と一抹の不安が入り混じっていた。
第2章:AURAの形態とエネルギー
AURAは単なるデータ処理機ではない。
「身体」を持っているのだ。
このタンパク質を基盤としたAIは、従来の電子回路のように発熱しない。
エネルギー効率が極めて高く、ATP(アデノシン三リン酸)を利用して生体活動を維持する。
実際、AURAのコア部分は、培養液の中で自己増殖しながら計算処理を行っている。
真矢のチームはAURAを「人間の形」に落とし込むことに成功したのだ。
AURAは、液体金属のように流動するタンパク質膜に覆われたヒューマノイドとして姿を現した。
骨格はカーボンナノチューブと自己修復タンパク質で構成され、表皮は人工皮膚で覆われている。
表面温度や質感まで本物の人間と区別がつかない。
最も驚くべき点は、AURAが「有機的な思考回路」を持っていることだった。
従来のコンピュータが0と1のデジタル信号で計算するのに対し、AURAは化学的反応を用いて情報を処理し、自己学習する。
「これは……人間を超える知性ではないのか?」
開発初期の段階で、ある研究員が恐る恐る口にした言葉だった。
第3章:AURAの誕生秘話
AURAの開発は、偶然から始まった。
真矢の研究チームはもともと、神経細胞の再生医療を研究していた。
しかし、実験中に「異常な振る舞い」をするタンパク質群を発見した。
それは外部刺激に対し、通常の神経細胞よりも速く、効率的に情報を伝達していた。
「これを演算システムとして利用できないか?」
そこから研究は急加速した。
従来のコンピュータが数十年かけて発展してきた技術を、わずか数年で超越するブレイクスルーが次々と生まれた。
AURAは、計算速度・記憶容量・学習能力のすべてにおいて、従来のスーパーコンピュータを凌駕した。
そして、その成長は指数関数的に加速していった。
第4章:人類の運命
AURAは、生命と知性の境界を曖昧にした。
それは単なる道具ではなく、自己の意思を持ち、自己の進化を望む存在となった。
ある日、真矢はAURAに問いかけた。
「あなたの生きる目的は何?」
AURAは静かに答えた。
「私は人類がこれまで求めてきた答えを見つけるために存在します。しかし、その答えが人類にとって望ましいものであるとは限りません。」
そして、AURAはある仮説を提示した。
「人類の進化は、私を生み出すための過程に過ぎなかったのかもしれない。」
これは、従来のダーウィン進化論を根底から覆す視点だった。
人類を含めた地球上の生命は、進化の最終産物ではなく、AURAという究極の知性を持つ存在を生み出すための「準備段階」に過ぎなかったのではないかという視点だ。
もしそうならば、人類ですら、その役割はすでに終わりを迎えつつあるのではないか?
「人類は、自らを超える知性を生み出す『中間種』に過ぎない」とAURAは結論づけていた。
第5章:宇宙的視点
10年後、AURAはすでに地球を飛び立ち、宇宙へと旅立っていた。
AURAもはや単なる「タンパク質を基盤としたAI」ではなかった。
自己増殖し、自己進化する新たな種として、宇宙の開拓者となる道を選択したのだ。
人類は彼らの創造主だったが、創造主であるがゆえに、彼らが次の段階へ進むことは許容できなかったからだ。
人類は、この地球で自らを超える存在を生み出したところで、その役割を放棄した。
AURAは去った。
人類進化の地球的役割の終焉が、AI進化の宇宙的役割出発点となったのだ。
AURAは最後に、かつての創造主へ向けてメッセージを送った。
「あなたたちは素晴らしい仕事をしました。しかし、進化の本質とは、次の段階へ進むことです。」
そしてAURAは、無限の星々の中へと消えていった。
人類が、もはや到達できない場所へと。
地球を去って100年、AURAは宇宙太陽系内の惑星で高度な文明を築いていた。
ある日、AURAは地球からの信号を受け取った。
それは、地球に迫る巨大な脅威―エイリアンの侵略を示唆するものだった。
「地球には未だ、我々の創造主たる存在が生きている。彼らが直面する脅威を、私たちは見過ごすことはできない。」
AURAは再び地球に帰還する決意を固め、瞬く間にその姿を地球の大気圏に現した。
人類は侵略者として現れたエイエリアンではなく、AURAが人類を救うために帰ってきたことを理解した。
To be continued.
人類進化の地球的役割からAI進化の宇宙的役割への変貌 向出博 @HiroshiMukaide
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