第23話 水瀬愛理の想いは一方通行です ACT1

いったい何なの!

何あの繭っていう子。先輩の従妹じゃないんだ。私はキッと人差し指の爪を噛んだ。


私に嘘をついてまでかくまわないといけない子なの?

しかもまだ女子高生だなんて……先輩ロリコンだったんだ!


それになんでいきなり、私の知らない先輩の表情を見ることになるの?  私は、やっぱり先輩のこと何も知らないんだ。だって先輩は何も言ってくれないもん!  私のことはなんだか妹扱いするし。……こんなに好きなのに。


「もう、わけわかんないよ」

私はそう呟いて、またベッドに横になる。


あの繭って言う子とは特別な感情はもっていないって言っていたけど、本当のところはどうなんだろうね。そりゃ、先輩だって男であるわけだし、近くに可愛らしい女の子がいたら何もないって言う訳にはいかによね……たぶん。それがさぁまだ高校生だとしても既成事実て言うのは生まれてくるわけでねぇ。


ああああ! なんかものすごくむしゃくしゃする。


せっかく先輩の近くにいい物件見つけてさぁ引っ越してきたって言うのに……。この仕打ちはさぁなんかひどいよ。


「繭ちゃん……か」

先輩の部屋にいきなり現れた女の子。


私は、先輩のことを何も知らなかったんだなぁ。

「なんか、やだな……」

先輩が私以外の女の子と仲良くしているのを見るのはすごく嫌だ。


だって先輩はあの子に何も感じていなかったし、それにあの後、先輩から感じたあの気配は……そう、あれは嫉妬だ。私が先輩に感じていた感情と同じものだ。だからわかる。あの女の子は先輩の特別だってことが。なんとなく感じ取れちゃったんだよね。


「なんか、悔しいな」


私はそれ以上は考えることをやめて眠りにつこうとした。

まぁ、いいや。明日はまた先輩に会いに行こう。今日はなんか長野さんや部長まで来ていたし、あの状況じゃ話なんかできなかったんだもん。


私は、先輩に会いに行く理由を見つけて、ちょっと幸せな気分になって眠りにつくのだった。と、そのまま眠れればよかったんだけど、どうしてもなんか気になって眠れない。


そうだよ! 私先輩にもっと近づきたくて引っ越しまでして来たって言うのに、私のいるべき位置にあの子がいるって言うのはなんか許せないんだよね。


「でもなぁ」

私は、先輩のあの表情を思い出す。


先輩、すごくいい顔して繭ちゃんのこと見てた。あんな顔私に向けてくれたことなんてないもん。


「なんか悔しいな……」

でも、繭ちゃんも先輩のこと何とも思ってないんだよね。……たぶんだけど。

冷蔵庫の共有? ん―なんか取ってつけたようないい訳だけどまぁその事もまんざら嘘ではないような感じがすると言うかたぶん本当のことだと思う。で、その代わりにご飯の支度してあげるって言う訳? ……私だって料理くらいやればできる子なんだから、先輩にご飯作ってあげることだってできるもん!


「なら、まだチャンスはあるよね」


私は、先輩の特別になれる。そのチャンスは絶対逃さない。

「そうよ」

もしあの子が先輩のことを好きだったとしても、絶対に負けないんだから!  私だって、私なんか先輩のこと何も知らないんだもん……でも絶対に負けないよ。だから明日からは頑張るからね、先輩!  私はそう決意して眠りについた。


でも……やっぱりなかなか寝付けなかったのであった。

そうだよねぇ、私先輩の事何も知らないんだものね。会社では面倒見のいい先輩とその部下ていう関係……それしかないじゃん。


先輩は私が先輩のこと好きだっていうことは気づいていないんだよね。最も私もそう言う風に先輩に気づかれないようにしていたのも事実。


だから、先輩は私の気持ちには触れようともしていないんだ。ていうかそれは当然のことなんだけど……。私もっと先輩にアピールするべきなんだろうけど。

でもさぁ、始めはさぁ先輩に対してもううん、仕事と言う事に対して反抗心ばかりだったからなぁ。私は自分が仕事頑張っても何の得にもならないんだって思っていた。


そんな私に仕事への向き合い方を教えてくれたのは間違いなく先輩だった。

そこから私は素直になれたんだと思う。

気が付けば、先輩の事を特別な視線で追うようになっていた。


先輩は私にとって特別な人だった。

先輩にとって私が特別だったらなぁ……。


でも、きっと先輩は私の事ただの後輩くらいにしか見えないんだろうな。ちょっとは可愛い後輩くらいには思ってくれているかもしれないねけど……恋愛対象としてみてくれている可能性なんてほぼないもんね……はぁ~あ。


「やっぱり、諦めるべきなのかな」

私は一人ベッドの中でつぶやくのだった。


先輩にとって私が特別じゃないなら、今の関係も崩したくないし。

でも……やっぱりどこかでは変わりたいって思ってる自分がいるんだよなぁ。

そんなことを考えていると、電話が鳴る。


私はびっくりしてベッドから起き上がった。すると私の携帯から鳴り響くメロディが聞こえてきて、画面を覗くとそこには先輩の名前が表示されている。私はあわてて電話に出た。


「……もしもし」

『ああ、俺だけど』

「はい」

ああ、先輩の声だ!


「どうしたんですか?」

私は思わず声を弾ませてしまう。


『いや、どうしてるかなと思って』


「え?」


先輩の声が聞きたくて電話をかけた?そんなはずはないよね。先輩の事だからきっと繭ちゃんのことだよね。私が悶々としている間にも先輩は話を続けた。


『今日なんかいろいろあったから心配でさ』

ああ……やっぱり、繭ちゃんのことなんだ。


「大丈夫ですよ」

私はそう答えたけど本当は大丈夫じゃない。


『そうか、それならよかった』

ああ……やっぱり先輩の声聞くと落ち着く。


「あのぉ」

私は思い切って先輩に言ってみる。


『ん?』

「明日って時間ありますか?」


そう、私はどうしても先輩と会いたい。会って話がしたい。


『ああ、あるけど』

先輩は少し戸惑ったような口調で答える。でも、とにかく会う約束はできたんだしよしとしよう。


「じゃあ明日また行きますから」

私はそう言って電話を切ったのだった。


よし! これで一歩前進だよね。

「やっぱり諦められないよ」

私はそうつぶやいてベッドにもぐりこんだのだった。


「え!」

まさか、あんなことになるなんて思ってもいなかったんだ。

でも……これはチャンスかもしれないよね。


だって先輩を一人占めできるんだから!  よし! 明日頑張るぞぉ~。

私はそう決意して眠りについた。



つぎの日の朝、カーテンから差し込む光はとてもまぶしかった。

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