第20話 山田はこの修羅場をどう乗り切るのか? ACT1
繭との共同生活が始まってもう10日を過ぎようとしていた。
はじめは3日坊主で終わるのかと思っていた食事の用意もまめに毎日こなしている。繭も学校も始まりお互い忙しく日々を送っているが、繭の手料理は美味いのの一言に尽きる。しかも俺の身の世話、ワイシャツの替えも毎日用意してくれるし、部屋の掃除もしてくれている。まるで家政婦でも雇っているかのような感じさえしてくる。
そんな俺の生活の変化をこいつは見逃してはいなかった。
「なぁ山田、お前どうしたんだ?」
「はぁ、何がだ?」
「何がってさぁ、最近のお前なんか変わった感じがすんだよなぁ」
「変わったて、何も変わってはいないと思うんだけど」
「いやいや、十分に変わった感醸し出しているんだけど!」
久々に長野と軽く飲みに行った時の話である。
グイっとジョッキに入ったビールを煽り長野は意味ありげに言うのだ。
「まずさぁその恰好だよ」
「恰好って何か変か? いつものスーツなんだが」
「まったくなぁ、そうやってとぼけるんじゃないよ! 皺のないスーツに襟元にアイロンがピントかかったワイシャツ。これがさぁ毎日ていうところが今までのお前じゃ想像もつかないんだよ。単刀直入に言うが、山田、お前女でもできたか?」
「ば、馬鹿言うなよ。俺にそんな甲斐性なんてないて」
「本当かなぁ? まぁいいや、じゃあそのワイシャツの襟元のキスマークはなんだ?」
「はぁ? キスマークってなんだよ」
俺は長野の指摘に慌てて襟元を隠したが遅かった。
「おいおい、隠すなよ。別に隠さなくてもいいじゃないか。で、相手は誰なんだ? 社内の人か?」
「いや、これは違うんだよ。ちょっと虫に刺されただけで」
「虫ねぇ。まぁ山田にそんな甲斐性があるなら誰でもいいんじゃないか。俺は応援してやるぞ!」
「だから違うんだって! ちょっとその……な、なんだ」
「なんだよぉ、なんかあんのか? 隠し事は無しだぜなぁ山田」
「いや、なんだ隠し事って言う訳じゃねぇんだけど」
「なんだよ、もったいぶるなよ! 僕は山田に彼女が出来たことが嬉しんだよ」
「か、勝手に決めんなよ……だから彼女なんていうのはいねぇて」
「じゃぁなんなんだい? まさか母親と同居し始めた?」
うっ!
それは勘弁してほしいわな。
「隣の子が……そのぉなんだちょっと訳ありで」
「ほう、隣の子ねぇ。こりゃあ隣の子に恋をしたのかな?」
「ば、馬鹿言うんじゃねぇよ! 俺が恋なんかするかよ」
「いやはや、山田にもやっと春がやってきたか! 恋愛のことならなんでも相談してくれよな」
「だからそう言うんじゃねぇって。繭とは冷蔵庫の共有ていうか俺んちの冷蔵庫使わせる代わりに俺の飯の支度してくれるって言うことで……」
「ほほぉ、料理得意なのかその子。いいなぁ、料理得意で。僕の彼女は料理からっきし苦手だからなぁ。羨ましいよ手料理作ってもらえるのなんて」
「お前の彼女って噂の
「ええっと……その……中井さんとは今はそう言う関係じゃないんだよねぇ。まぁ彼女とはなんて言うか今はもういいかなぁって言う感じなんだ」
「じゃぁ今は別な彼女と付き合っているって言うのか?」
「まぁそうなんだけどね。ここだけの話、今は総務課の
ぶっ! 「な、なんだ社内男子社員人気ナンバーワンとか! しかも
「あはは、僕はそんなヘマはしないよ。それより繭さんて言うんだね山田の彼女」
「いや、彼女じゃねぇし」
「まぁまぁ、でさぁどんな感じの人なの? 写真とかある?」
「写真なんかねぇよ。それに繭はそんなんじゃねぇって!」
俺は慌てて否定したが、長野はニヤニヤとしながら言うのだ。
「いやぁいいねぇ青春だね。山田もやっと春が来たかぁ。もうれっきとした彼女じゃんか。そこまでやってくれて付き合っていないなんて言わせないぞ」
長野はニコニコしながらそう言うのだ。
そんな長野に俺はそれ以上何も言えなかった。
そして数日後のこと……。
「なぁ繭! お前俺のワイシャツ知らないか?」
「ワイシャツ? 何言ってるんですか。毎日きちんと洗濯してアイロンかけて、ワイシャツ全部きれいに畳んでしまってありますけど」
「いや、俺のワイシャツが一枚足りないんだよ」
「それだったら……あの、ちょっとその……出来心で……」
繭はそう言うと顔を赤くした。
そして俺はその繭の態度ですぐにわかったのだ。此奴何かしているなって。
「お前なぁ! 人のシャツに何してんだよ!」
「だって……だって山田さんのシャツいい匂いがしたんだもん。洗濯する時匂いを嗅いでいたらなんだかいやらしい気分になっちゃってつい……」
「ったくお前は! そんなに俺の匂いが良かったのかよ!」
「えへへ、ちょっと癖になりそうです」
そう言ってにヘラと繭は笑ったのだった。
そして俺はそんな繭の笑顔を見て思ったのだ。
ああ、俺こいつのこと好きなのかも知れないと。長野に茶化された影響か? 俺の思い過ごしか?
「なぁ、繭。お前さぁ、その……なんだ……俺と一緒に暮らしてて楽しいか?」
「どうしたんですか? 急にそんなこと聞いて」
「いやぁ、なんか俺ばかりが楽しくてお前を置いてけぼりにしてるんじゃないかって。だってお前には学校もあるし友達もいるんだろ?」
「まぁ……でも大丈夫ですよ! 毎日楽しいし、それに私山田さんのお世話をするのがなんだか嬉しいんです。だからもっと私にいろいろさせて下さい!」
「お前なぁ、いい子過ぎるだろ。俺はもっとお前にわがまま言ってもらいたいんだよ!」
俺がそう言うと繭は何を思ったのか急に俺の体に抱きついてきた。
そしてそのままシャツの中に手を入れて肌を撫で始めるのだ。
「お、おい! 何してんだ」
「えへへ、山田さんの匂い嗅いじゃいました」
そう言って繭はまた俺の体を触り始めたのだった。
そしてそんな繭の行為に……
「もう我慢出来ないです……」
我慢できないって何を……。
「その、山田さん私変な癖あるみたいなんです」
「変な癖ってなんだ?」
「私臭いフェチなのかも? なんか山田さんの臭いかいでるとこうムラムラときちゃうんです……。私変ですよね」
ちょっと待て、俺ってそんな臭い発しているのか? 風呂にだって毎日入っているのに匂うのか俺は?
「匂うのか?」
「うん、匂いますこうなんて言うかムラムラとした臭いが……」
そう言いながら繭は強く俺を抱きしめてくる。
女子高生に抱きしめられながら、欲情するのか俺はと思いきや、急にまたあの時のような息苦しさが襲ってきた。
生身の女性に対する拒否反応。やっぱり俺はダメなんだ。
額に汗がにじみ出てくる。苦しい、胃まで痛くなってきた。
俺は繭の体を強引に押しやるとそのままトイレへと駆け込んだ。
「だ、大丈夫ですか!」
「あ、あぁちょっと胃が痛いだけだ」
「もう水臭いですね! 病院行きますか?」
心配そうに眉は俺の顔を覗き込む。
「いや、大丈夫だ」
そして俺はまたあの息苦しさと戦っていたのだった。
そんな時だ。俺のスマホに着信が入った。相手は長野だった……。
「あ、山田今家にいる?」
「なんなんだよ。いるけど」
「良かった。じゃぁお邪魔するよ」
「はぁ?」
「もうお前の家の玄関前なんだ」と言いながら長野は呼び鈴を鳴らした。
その音に反応するかのように繭が玄関の戸を開けた。
その繭の姿を長野は一目見て。
「マジ?」と声を上げた。
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