第19話 いざ出勤……ばれてねぇよな!ACT4
雨宮部長は優しく俺の頭を撫でながら言う。しかし俺はもう……。
「いや、あのですね」
もう限界だ。これ以上この人と一緒にいたらマジでやばい事になりそうだったし、何よりも反応しなかった俺自身に申し訳ないと思ったんだ。
ああ、だから俺は3次元の女性には興味がなくなったんだと今はっきりとわかった。
「あ! あ!」
俺は雨宮部長を強引に引き離した。そしてそのまま席から立ち上がり雨宮部長の目を直視して言ったのだ。
「すいません。俺はあなたの事を愛していないし、これからもそうなることもないです」
「そう……」と雨宮部長は寂しそうな顔をした。
そして続けて言うのだ。
「私じゃダメなのね……やっぱり若い子がいいのかしら?」
「いや、そうじゃなくてですね」
「いいわ山田君! もう何も言わなくても……ごめんね私が一方的にあなたに押し付けただけだから気にしないで!」
ああもうこうなりゃやけくそだ。正直に言ってやるよ。俺はそう思うのだった。
「あのですね、実は俺……今、2次元の女性に恋をしてるんです。だからですね俺は3次元の人を愛するつもりはないです」
「そう……」
雨宮部長は肩を落としたように見えた。そして続けて言うのだ。
「でも、私はあきらめないからね。絶対に山田君を落として見せるから覚悟しておいてね!」
と、言って雨宮部長は俺の唇に自分の唇を強引に押し付けてきたのだった。
ああもう! なんでこうなるんだよ! 俺は心の中で叫ぶのだった。
「ねぇ山田君。私ね、あなたの事ずっと見てきたって言ったでしょ。そしてね私はあなたのことを愛しているの」
「いや……そのそれはですね」と俺は言うも言葉が続かなかった。
何がいいんだこんな俺の事なんて。どこにでもいる普通の一般社員だって言うのに!
「私の気持ち分かってくれたでしょ」
「いや……だから」
潤んだ瞳から溢れ出す涙。感極まってだろうか……雨宮部長の瞳からは涙が流れ落ちていた。
「もうこの気持ちは止められないの……私の今の素直な気持ちよ。ねぇ、山田君……今すぐに私を受け入れてもらおうなんて思ってもいないわ。立場的にも年齢も……違う。でもね、この気持ちに嘘はないのよ」
女のしかも実際の涙と言うものはこれほどまで強い訴える力があるものなんだ。彼女の言う言葉に何ら疑う気持ちも持たなくなっている自分がいる。
「私の気持ちに答えてくれなくてもいいの。でも、あなたの事を愛しているこの気持ちだけはわかってほしい」
「雨宮部長……」
「だからお願い……私を愛してとは言わないわ。ただ、傍にいさせてほしいだけ。それだけでもダメ?」
「それは……」と俺が言うも彼女は俺の言葉を遮り言うのだ。
「ねぇ山田君。私ねあなたと一緒に仕事が出来てよかったと思っているのよ」
ううううううううっ! ここまで言われてなんか男が廃る様な気がするが……でもなんだこれは本当に俺の問題なんだろうが……踏み込めねぇんだよ!
何かが心の中でブレーキをかけている。
その時浮かび上がる友香のあの言葉。
「……さようなら。浩太」
胸が強く締め付けられる。息を吸うのも苦しい。
「どうしたの?」と雨宮部長は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「なんでも……ないです」
ああ! もうなんだよ、本当に俺はおかしいだろ? 今は友香の事なんて考えられないし思いだす事さえできないのに。なんで今、こんな時に友香の事を思い出さなければならないんだよ。
「ねぇ山田君。私ね、あなたの事ずっと見てきたって言ったでしょ。そしてね私はあなたのことを愛しているの」
「いや、だからそれは……」
「わかってるわ。でも私のこの気持ちはね、誰にも止められないの。だから山田君にしっかりと告白したわ」
雨宮部長は俺を見つめながら言った。
「ねぇ私の事愛している?」と。
俺はその問いに対して答えることが出来なかったのだ。
そして雨宮部長は俺に抱き着いてくるのだった……。
「もう! なんで私はこんないい女なのに誰も私に見向きもしてくれないのかしら!」
雨宮部長が突然言い出した言葉に俺は驚いた。
いや、だって自分でいい女って言っちゃうんだこの人? まぁ俺も結構雨宮部長はいい女だと思っているけど。
「私だってね。これから結婚するならあなたしかいないって思っていたのに……」
いやぁ……それはちょっとどうなんだろうか?
「でもあなたは2次元の女性にしか興味がないって言うじゃない」
まぁ……そうなんですけどね。
「じゃぁこうしてやる! もうあなたには見切りをつけて3次元の女の子にアプローチをしようって!」
「え? いや、それはちょっと」
「何よ! 私の事愛してくれるの? だったらいいじゃない。それとも何? 3次元には全く興味はないっていうの?」
いや、そうは言わないけど……でもさ。
「もうこうなったらね、私はこの会社であなたの事を狙っている女子社員に片っ端から声をかけていくから覚悟しておいてよね!」
と雨宮部長は言うのだった。そして続けて言うのだ。
「私ね、本当にいい女なんだからね!」と。
いやいや……そんな事を力説されても困るんだけどなぁ。
「なーんてね。これ以上山田君を虐めちゃ可哀そうだよね」
小悪魔のように笑う雨宮部長である。その顔がなんとも憎めないのは彼女の特権的なものなんだろうか。
「……虐めるって。嘘なんですか? 今までのこと」
「ん―、どうかなぁ。でもね、私山田君のこと好きなのは正直な気持ちよ。彼女にしてくれるのなら私は嬉しいんだけどね」
「いや……それは」
雨宮部長のその笑顔は反則だ。俺は顔を赤らめて下を向くと恥ずかしさで顔を手で覆ってしまうのだった。そして雨宮部長は俺の耳元に顔を近づけてきて言うのだ。
「よ・ろ・し・く・ね」
これが妙に恥ずかしい。
そして彼女はにっこりとほほ笑みながら会議室から出て行った。
一人会議室に残された俺は、ただ茫然と立ちすくんでいることしか出来なかった。
「フフフーん」
ああ、なんかすっきりしたなぁ。最近ストレス溜まってたからいいはけ口になったかも。でも、いけないわよねぇ。部下をこんなはけ口に使うなんてパワハラ? セクハラ? まぁどっちにしてもいい訳ないけど……ま、彼なら大丈夫。私が見込んだ男なんだから。……それにさ、何やらやっぱり面白い事やってそうだしね。
ん――――っ! 浩太ぁ! あなたはやっぱり最高よ。
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