第11話 女子高生新妻? 半同棲生活がこれから始まる ACT1
「ほら、山田さん。早く行かないと遅くなっちゃうよ!」
繭が急かしてくるのは別に構わないが……この俺の恰好をなんとかしてもらわないと困るんだがな。実はまだ昨日のスーツ姿なのだ。
さすがに着替えたい。
「ちょっとまっててくれ」と言いながら俺はテーブルの上に置いてある煙草の箱を手にするとリビングを抜けてベランダに出たのである。
さすがのこの急展開に俺の思考はいささかバグりつつある。
落ち着かせるためにも一服が必要だ。
煙草をくわえ、火を点け煙を吸い込んで白い煙をふわーと吐き出す。
「あのさ、俺着替えたいんだけど少し待ってくれるか?」
「うん、大丈夫だよ。私も準備してくるね」
繭はベランダから自分の部屋へと戻っていった。
倒れていた仕切り版をベランダの壁に立てかけて。
「こうしておくか」
俺の部屋と繭の部屋はこうしてベランダで繋がった。と言うかなんと言うかまぁそんな状態である。
とりあえず、俺は一服し終わってから着替えを始めた。
しかしだ、一晩このスーツをまた着ることになるとは思ってもみなかったぞ……。
ああ、なんかスーツもしわになちまってるなぁ。……まっいいか。
これが男一人暮らしの妥協である。
着替え終わると玄関の呼び鈴が鳴った。
玄関のドアを開けるとリュックを背負った繭の姿があった。
「準備出来ましたか山田さん?」
「おお、出来たぞ」と俺は答えた。
「じゃ行きましょ!」
繭は特別着替えた様子もなく着ていたパーカーをはおい夜にコンビニに行った姿のままだ。
それにその恰好で寝ていたからな。着替えた方がいいんじゃねぇのかと言いたかったがまぁ飲み込んでスルーした。
にこにことした顔をしながら繭は俺の隣を歩いていく。
「あのね、山田さん。私さぁ、ここの土地勘まったく無いんだよねぇ。どこに何があるのか全くわかんないんだよ」
「ああ、そうか、引っ越したばかりだもんな」
「……うんそうなんだよねぇ」
繭はそういうと俺の腕にしがみ付いてきた。そして胸を押し付けてくるのである。
おいおい、ちょっとまてよ。なんか当たってるんですけど?
「お、おい! おめぇ何考えてんだ!」
慌てて俺はその腕を振りほどいた。
すると繭はまたシュンとしてしまったのである。
「……駄目なの?」
「いや……その……」
「私ね、山田さんと仲良くしたいなぁって思ってさ。だからこうしてアピールしてるんじゃない」
「いやいや、あのな。いきなり過ぎじゃねぇのか?」
「そんなことないよ。だって私たちもうお知り合いでしょ? お隣さんだし、それに……その……私と山田さんは……」
と言いかけたところで俺は繭の口をふさいだ。そして耳元でこう囁く。
「……それは言うな」
「う……うん……」
少し驚いたような顔をしたがすぐに笑顔になった。
「じゃあ、早くお店行こうね」と笑顔で言う繭である。
まぁいいか。
繭は抱きついた流れからごく自然に俺の手を握ってきた。
まぁ抱きつかれるよりはまだこっちの方が許せると言うか人目も気になるが……何とかなるんじゃねぇのかと言う気持ちが先行している。
3月の晴れ間。陽の光は心地よい温かさをこの体にしみこませてくれる。
よく見れば街路樹の桜の枝につくつぼみも膨らんでいるように見える。もうじきこのつぼみから桜の花が咲きいっぱいの華で満たされていくんだと思うと春と言う季節に心が和む。
それにしてもこの暖かさはあの夜の寒さとは真逆に感じる。ああ、あの夜の寒さは本当に身に染みたなぁと思い起してしまう。
「ねぇ何考えているの眉間にしわなんか寄せちゃって。怖いよ。人相悪いよ。もっと楽しい顔しなきゃこうして二人でお買い物なんだもの」
いやいや此奴はほんと能天気な奴だな。
まぁでもつれー思いしたのは俺の方だしな。なんか繭がこうしてにこやかにしているとちょっと嬉しい。
て、繭とは俺昨日の夜に知り合ったばかりなんだよな。
こんなに急展開でいいんだろうか? 急展開? 俺、この子とは付き合うとかそう言うことじゃねぇし……。押されまくってここまで来ちゃったけど本当にいいのか?
「ねぇ、何を考えてるの?」
と繭はまた聞いてきた。
「いや……なにも……」と答える俺だ。
するとにんまりとした笑顔を繭は見せたのである。
「あ、今エッチなこと考えてたでしょ」
「……アホか!」
いや、確かにそうかもしれないなぁとか思ったけどよ。そんなこと考えちゃいねぇよ! ああもう調子が狂うな、この娘と一緒だと。
そんなやり取りをしながら歩いているうちに駅前の大きなショッピングモールにやってきたのだ。
ここは2階から6階まで様々なショップが立ち並び、また映画館やボーリング場などもある場所である。
繭が言う必要なものって日用品とかなんだろうな。
「ねぇ山田さん、どこでお買い物するんですか?」
「そうだな……まずはお前の生活に必要なものを買わないとな。歯ブラシとかパジャマとか」
「あ! そうかぁ!」と繭は手を叩いて答えたのである。そして少し考えたようにして。
「歯ブラシも山田さんのところに用意しておけばいいのかぁ! なんか新婚さんみたいですね」
「ちょっと待て。それはなんか違うような気がするんだけど?」
「そうですかぁ―。いいじゃないですか歯ブラシくらい一緒に置いておいたって。どこで磨こうが歯磨きは一緒ですよ」
もう何も返す気力が失せた。
「でも、とりあえずは調理用品と食器関係ですね」
買うものが見定まった。まぁモール内をぶらぶらしに来ているわけでもないので、売り場へと向かう。
「山田さんある程度の食器買いそろえますね、でも必要最低限ですからね。予算もそんなにかけれませんからね」
「別にそんなに高い代物買う訳でもねぇだろ。俺が出してやるから必要なものあったら買ってもいいぞ」
「うん、ありがとう。じゃぁ食器はお揃いでいいかな? お揃いにしてあげるよ」
「まぁいいけど……」
なんか繭がえらく乗り気だな。食器買うだけでそんなにうきうきとできるものなのだろうか? そりゃまぁ俺と一緒に使うものだから嬉しいってこともあるだろうけど……そこまでは深く考えていないのだろう。俺もそれ以上深く考えないことにした。
「ねぇ、山田さんはどんなのがいいとかある?」
「……いや、特にこだわりはないから好きなのでいいぞ」
「そう、じゃぁ私好みで選ぶね!」
と繭は嬉しそうに言うのである。
「あ! これなんか超かわいいよねぇ。ほら、お揃いであるしこういうのにしちゃう?」
あのぉ、繭さんちょっと派手じゃ、と言うかハートの形の皿ってものすごく恥ずかしいんだけど。
俺は行ったことはねぇんだけど。本当にねぇんだけど! 何とか喫茶ていうところで使ってそうな皿だよな。それって。
オムライスなんかのけちゃって、ケチャップでハートマークなんか書いてさ。美味しくなぁーレ! なんておまじないを投げかけられたりするんだろうか?
家ではやめてくれよな……繭。なんかどっと疲れそうだ。
「ねぇメイド服着てオムライスこのお皿に乗ってけて作ってあげよっか」
おい! だからやめてくれ!
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