第2話 街②
ニオイに連られたのもあるが、この店は無理。肉・魚・野菜・卵・果物などと選び放題だが、全て高い。法外の金額ではないにしろ、今の自分では払えない額だ。
自分は所謂旅人だ。
定職に就いているわけではないため、定給という概念はない。街の紹介所に行って、短期間で働ける場所を聞き、賃金を貰い、生活費を稼ぐという手段で生き永らえている。
余った分は旅の資金源に回すこともあるが、それは稀だ。
殆どの場合、使い尽くしてしまう。
貯金は無い。
恥ずかしいと言えば、そうなのかもしれないが、旅生活をしている以上は無理な話だ。一定した所にいないのだから、お金を預けようがない。一生、裕福な生活は送れない身だ。
残念なことに、変える気が更々ないというのが、自分でも痛いと思ってしまうところなのだが、こればかりは仕方ない。
選んでしまった、やり遂げたいと思った、生き様なのだから。
(とは言うものの、だよねー)
先ほどから物欲しそうに見ては、店員に話しかけられ、料金を見て断りを入れるという始末、その繰り返し。
(働き口もそうだけど、お腹を満たさないことには何も始まらないか...)
「よぉ、旅の兄ちゃん。これなんてどうだい?」
声をかけてきたのは中年の男性。
財布を開けたり閉めたり、覗いては目を閉じたりしていた所為だ。
店頭に並んでいるのは、朝採れたであろう野菜や果物、どれも美味しそうに見える。
香りもいい。
しかし、高い。
肉魚に比べれば確かに安価だが、手が出ない。
買ってしまったら数日後、所持金は底をつく、そんな気がしてしまう。
「ん~~」
「ならこれは?」
「そうですねー」
「兄ちゃん、まさか冷やかしかい?」
「いやいや....えーとですね」
「ん?兄ちゃん、その白髪....地毛かい?」
「あ....そうですね、地毛です」
「旅の人は珍しいもんばっかだよ」
「そう....ですね」
そんな世間話もする中、ふと見つけたのは、あまり艶の良くない果物。
「この赤いのは何ですか?」
「それは....売りもんじゃねー」
詳しく聞けば、他の果物同様に店主が作っているものだが、集荷する前に枝から落ちたらしく、間食用にしている様子。
つまりは、リンも食べらなくはないということ。
「これを売ってくれませんか?」
「だから売りもんじゃ──たくよぅ、売ってもいいが、あんまり美味しくねぇぞ」
(お金を抑えられるから問題無いし、これで数日は生活できる。かなり儲け物だねこれは....)
幸先は悪くない。
そう思い一齧りした矢先、向こう側から、何やら賑やかな歓声が聴こえてきたのだった。
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