第47話 帰還途中で
「なぁ、グーテン、今日どこ行くよ?」
「そりゃあ、三大美魔女がいる『
「お、出た。あそこの『リヴィエラ』ちゃんのことか? ……確かにな、あの透き通る声と仕草はヤバいよなぁ、ルーフェン?」
「おいおい、わかってねぇな。やっぱ『セフィーナ』ちゃんだろう。あの幼く見える外見に、あの妖艶さ! たまらねぇって! なぁ、ガラン?」
「……お前ら正気かよ。断然『アリサ』ちゃんだろ? あの気品と威厳、そしてあの笑顔。格が違うだろ!」
「「「ガラン! お前が一番ズレてるわ!」」」
「ひでぇ……」
「「「わははははっ!」」」
仲間たちの軽口に笑いが広がる。だが、そんな空気をバッサリ断ち切る声が響いた。
「おいおい、気を抜くんじゃねぇよ」
アベルが前を歩きながら振り返り、冷たい視線を向けてきた。
「外に出るまでが遠足……いや、冒険だ。むしろ、生きて帰れる保証もねぇのに、のんきに喋りやがって……ったく、お前ら、マジで学習しねぇな」
未だ帰り道の途中だというのに、戦いが終わった気でいる仲間たちを見て、アベルは深くため息をついた。
そんなアベルさんにオレは出立前に聞こうと思っていたことを聞いてみることにした。
「アベルさん、何でオレを指名したんですか?」
「何でって……オマエに興味があったからだな」
「興味? オレのどこにそんなものが? ただの荷物持ちですよ」
「ただの荷物持ちに、この前のクイーンは倒せないだろ。それに、今までこなした依頼の回数と生還率……興味を持たない方がおかしいくらいだ」
「………」
「そもそも最初に興味を持ったのは、オマエが荷物持ちとして噂になってた頃だな。知ってるか? オマエ、自分が思ってる以上に有名だったんだぜ」
「ええ……」
「そりゃ当然だろ。危険が迫れば、荷物持ちなんて真っ先に切り捨てられるのが普通だ。逃げるための囮にされることもある。そんな目に遭ったこと、なかったか?」
「………」
たしかに、あった気がする……
少しでも分が悪くなると、冒険者たちは速攻で逃げ出していた。オレを囮にしてでも。
「その顔を見る限り、図星だな。でも、普通の荷物持ちなら、その時点で終わりだ。それなのに、オマエは全ての依頼から生還してる。しかも荷物を捨てることもなくな」
「……確かに、荷物は捨ててませんね」
「だろ? ベテランだって、そんな芸当はそう簡単にできるもんじゃない」
アベルさんの言葉に、少し戸惑いながらも思い返してみた。
荷物を捨てなかった理由――それは、このグローブとシューズのおかげだ。
……そうだ、それがなければ、オレは……
アベルさんに指摘されて初めて、自分の特異さが分かった気がする。
「今まであまり意識してませんでしたが、確かに……」
「だろ? それで興味が湧かないわけがない。ま、「オマエには何かある」ってコトを知ったオレとしては今のところ十分納得してるけどな。ははは!」
アベルさんは冗談めかして笑ったが、その目には鋭い光が宿っていた。
「後は、その「何か」ってのを知りたいところだが……ま、それは話したくなった時でいいわ。まぁ、もし、ガレックに話したならオレにも話してくれよな。わはは」
「は、はい。分かりました」
オレはオレを気付かってくれるアベルさんやガレックさんには話してもいいと思い始めていた。
「でも、ガレックさんのことを良く知ってるんですね」
「ん? まぁ、昔よくつるんでいたからな」
「えっ!」
「あれ? ガレックから聞いたことないのか?」
「え……あ……ないです」
「知りたいか? その頃の話を」
「………」
正直……知りたいっ!
すごく気になるっ!
でも……
「凄く気になりますっ! だけど……前にリリスさんがガレックさんの昔の話をしようとして、嫌な顔をして止めたんです。それなのに、勝手に許可もなく知ろうとするのは、何か違う気がします……だから、知りたいけど、聞かないことにします」
そんなオレの言葉に、またアベルさんは笑いだした。
「あはは、キミはほんとに律儀だな。分かった。それじゃあ、オレも止めておくわ。ははは」
ひとしきり笑い終えると、先を歩き出した。
そんなやりとりの後、再び道を進む一行。数度の戦闘をこなし、着実に報酬を増やしながら出口を目指した。
「そろそろ、出口だな。ここまできたら、もう大丈夫だろう。お前ぇら、最後まで気ぃ抜くんじゃねぇぞっ!」
「「「おぅ!」」」
出口付近に到達すると、目に飛び込んできたのは、別のパーティーが揉め事を起こしている光景だった。
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