小さい頃には神様がいる
小学生の頃、席替えでどうしても好きな子の隣になりたかった。
まるで合格祈願のように席を決めるクジに願いを込めていたのを覚えている。
その結果、本当に好きな子の隣になった。
小さい頃には神様がいる。
学生時代に数えきれないほどあった席替えで、そこまで誰かの隣を欲したのは後にも先にもその一回限りだった。
もちろん「仲の良い友達の近くがいいなぁ」ぐらいの漠然とした願望はあったけど、「絶対」という確固たる願いにおいては。
そのたった一回の願いが叶い、隣に好きな子が座っている期間は本当に夢のようだった。
その子は誰に対しても分け隔てなく接する優しい子で、毎日当たり前のように話かけてくれた。
僕が教科書を忘れた時は机をくっつけて見せてくれたりもした。
それだけに次の席替えが嫌で嫌でしょうがなかった。
しかし先生の気まぐれには逆らえないもので、夢の時間は一ヶ月を持って終了した。
席替えで席を移動する時、その子は「じゃあね」と言ってくれた。
その後も何度かその子と話す機会はあったけど、隣の席だった頃よりも会話は減り、いつしか恋心も薄れていった。
その子とは中学校で別々になり、再会したのは二十歳の成人式。
会場は立食形式で、丸いテーブルがまばらに置かれていた。
適当にテーブルを選んで近くに立っていると、隣にいたのがまさにその子だった。
お互い何年も会っていなかったし、他にも懐かしい友達がたくさんいたので軽く挨拶した程度だったけど、あの夢のようだった時間を思い出さずにはいられなかった。
小学生だった僕らは大人になり、もうそこには恋心も友情も無い。
それでも思い出の中で過ごした時間は確かにあって、それが美しいものだったということを神様が思い出させてくれたのかもしれない。
子供に切符のようなものがあるなら、その切符を切った最後の日がその日だったのだろう。
そんな不思議な出来事が人生ではたまに起こる。
小さい頃には神様がいるから。
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