ⅩⅦ.一世一代の告白①

めぐみは音羽を自宅に招き、たこ焼きパーティーを行っていた。


たこ焼き器に並んだ丸いたこ焼きをピックで返しながら、音羽が持参してきてくれたシャンメリーを飲む。

ホワイトのシャンメリーで、マスカットのすっきりとした味は、飲みやすい。


子どもの頃は飲んでいるだけで大人になれた気持ちになったが、今は子ども心を思い出す味だった。本物のシャンパンとはまた違ったおいしさがある。



最近観たドラマの話で盛り上がりながら、焼いたたこ焼きをパクパクと食べすすめた。


「めぐちゃんって流行りものは一通り通ってるよね」


「そうかも」


「私は苦手かもってジャンルのドラマは、見るのためらっちゃうな」


「周りが面白いってこと、逃したら損じゃん」


「知らないだけで、好きかもしれないもんね」


「そうだよ。ホントは苦手じゃないかもしれないよ」



たこがなくなったところで、ホットケーキミックスを使い、ベビーカステラを作った。

チョコやマシュマロを入れてみたが、食べてみたらとても美味しくて、音羽と目を合わせて微笑んだ。



「めぐちゃん」


「何?」


「あそこに立ててあるのって、アルバム?」


音羽の視線をたどると、机の上に並ぶ教科書や参考書に行きつく。それらに混じって並ぶ、背の高い背表紙が3冊を指していると分かる。


「うん。卒業アルバムだよ」


「見たい!」


音羽は目を輝かせ、好奇心をむき出しにしている。

無下に断れない雰囲気があった。


元々律騎が見たいというから、引っ越しの際に実家から持ってきたが、見ることもないまま、ほこりを被るだけになっていた。

懐かしんで見ればいいのだが、当時の気持ちが蘇るのが怖くて、持ってきてから一度も見ていない。


「……いいよ」


断られるとは微塵も思っていない純粋な目に逆らえず、めぐみは許可をした。



「小中高?」


「うん」


取ってきた3冊を、ものをなくしたテーブルに並べる。


「じゃあ、小学校から」


音羽はわくわくとして、1冊を開いた。


めぐみとしては、知らない人ばかりのアルバムを見て、何が楽しいのだろうと思うが、音羽が楽しそうなので、そのうちどうでもよくなった。



「めぐちゃん、変わらないね。でも、幼くて可愛い」


久しぶりに見る写真の中の自分は、カメラを意識していないものが多かった。綺麗に撮られたいという欲が全く見えない。


中学生の写真を見れば、決まらない前髪に悩まされたことを思い出した。律騎に変に思われたくないと必死だった。


「あ、これ、美濱くんと速瀬くんだ。ホントにずっと一緒なんだね」


高校生のアルバムを見ているとき、音羽は何気なくそう言った。


どのアルバムも、めぐみは律騎と陽生に挟まれた写真が載っていた。

どれだけずっと一緒にいたか分かる。それに、2人が隣にいるときのめぐみは、とてもいい笑顔をしていた。



日が暮れ始めた頃、インターホンのチャイムが鳴った。

小走りで玄関に向かい、ドアスコープを覗けば、見知った顔が目に入る。


めぐみは慌ててドアを開けた。


「りつ、どうしたの? 今友達来てるから無理だよ」


律騎は足元や部屋の奥に目を走らせ、嘘ではないと理解したようだ。


「手嶋さんだっけ?」


後ろから遠慮がちに顔を覗かせていた音羽は、こくりと頷く。


「めぐちゃん、私なら大丈夫。もうそろそろ帰るよ」


「おとちゃん」


帰らなくていいと言う前に、律騎は「マジで? じゃ、お邪魔しま〜す」と陽気に入室してくる。


「ちょっとっ」


律騎はこうなったら聞かない。無遠慮で困った人だ。


めぐみの横をすり抜けていくから、めぐみはため息を吐くしかなかった。


「たこパしてたんだ?」


「うん」


たこ焼き器はテーブルの下に置いているままだ。


「まだ残ってるので、よかったら美濱くんも食べてください」


「マジで? 食いたい」


律騎は胸を躍らせている。

これはしばらく居座るつもりだ。


音羽の方を見つめると、音羽はこくりと頷いた。

言葉がなくても悟ってくれるのはありがたいが、申し訳なかった。



めぐみは玄関まで音羽を見送る。


「ごめんね。急かすようなことになっちゃって」


「ううん」


ショートブーツを履き終えた音羽は、じっとめぐみの顔を凝視する。


「……ん?」


「間違ってたらごめんね」


音羽はめぐみが返事をする前に、かかとを上げて、めぐみの耳に口を寄せる。


「美濱くんがめぐちゃんの好きな人?」


「……え?」


驚きで目を見開いて音羽を見れば、音羽は舌を出して悪戯に笑う。


「違った? アルバム見てるとき、恋してる顔してたから」


めぐみは呆気に取られて、口を薄くしたまま、固まってしまった。


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