第19話

 殺生院は轟音とともに現実に起床する。あの頃と同じく、自分の身を壊血壊血竈≪エチエチカミノ≫が彼の顔面にさく裂したのだ。ずざざっと滑走する地面を見れば、摩擦によって擦り切れ、その跡から炎でも吹き荒れんとするほど、黒くその跡が伸びていく。数メートル先にその軌跡を伸ばすと、ようやく減速し停止する。爆発によるダメージの感覚が彼の中にもあるが、容量を拡張し蓄えられたアニマが漏出することで、見た目ほどのダメージは負っていない。漏れ出たアニマがいわゆるクッションの役割を果てしているのだ。


(...とはいっても、アニマは消耗品。無意識下で漏れ出せば浪費してしまう。それが防御力にもなるのはいいことかもしれないけれど、制御できない状態ではアニマの管理不足で魔術が不発になってしまうこともあるんだろう。その証拠に、我が天使からはアニマの浪費が全く見えない。流石はランカーってところか。)


 魔術を発動する際のタメ、隙は大きさや時間の差こそあれ、基本的に皆持っているものである。魔術の名前を叫ぶこと、その決められた構えの型をなぞること、目標に標準を合わせること、その他の異なる予備動作。この動作には魔術を構成する輪郭を補助する役目があるのは前述したとおり。その魔術が形を完全に表す際には、予備動作をした瞬間、その人間の漏れ出たアニマが見て取れるのだ。流動するアニマの如何によってその魔術の完成度が計り知れるというのが一般的である。


 その点に関して言えば、殺生院は魔術という鉄砲を最近持ち始めた新兵のようなもの。そんな状態で軍に長く在中した生き残りの上官や老兵などに太刀打ちできるだろうか。無論どんな人間であっても、心臓部近くに弾丸を打ち込むことが出来れば死に至らしめることは可能だ。しかし、通常そのような視線を潜り抜けてきた人間たちには、生半可な知識や奇をてらっただけの不意打ちなどではそのような状態には持っていけないことだろう。


 しかし、魔術はその想像力によっていかほどにでも姿を変えるのが特徴である。例えば、その新兵が持っている銃が3キロ離れた所からでも狙撃が可能なスナイパーライフルであったならば?もしもその小銃が上官諸君らの意識を一瞬でも奪えるオプションがあったならば?想像力を確固たるものとしていれば、荒唐無稽な魔術を形成できるのであるのだから、下剋上は夢物語では済まされない。


 殺生院は現在、現在の魔術発動時におけるアニマ漏出の激しさと、その他もう認識できていない魔術による副作用からアニマを多量に浪費している。長期的に見た場合、彼が星ヶ宮に勝利することなぞ夢のまた夢であった。それを見越して七海摩耶は来栖シュカのテストとして都合よくやってきた彼が適任であると判断したのだろう。そもそもランカーの星ヶ宮もいればことは足りるだろうし、万が一でも負けることはないと感じていたために。


 しかし、この時点において、七海摩耶にもある誤算が発生していた。


 ランカー星ヶ宮に対して、想定以上に殺生院が粘ること。魔術の洗練度は星ヶ宮に遠く及ばないものの、火力だけに着目すれば、その威力は目を覚ました赤子が持つにしてはかなりのものを誇る。ともすれば、星ヶ宮を超えることもあるかもしれないということ。さらに、彼の魔術は使用する指によって威力と範囲、速度などが変わる拡張性も持っている汎用的なものである。


 無論、長期的に見ればもうすぐに彼のアニマが枯れ果てる。そうなれば彼に完全に勝ち目がなくなることは明白である。しかし、この短期間だけ見れば彼はランカーの足元に及んでいることが見て取れた。その成長曲線は才人のそれであろう。そのからくりには彼の何が絡んでいたのか。これを読み解ききれなかったのだ。



 殺生院は 星ヶ宮の魔術の副作用による炎が残る顔面に触れる。手を当てたそこから、じんわりと柔らかい熱が広がっていく。それはまるであたたかな太陽の日差しの下、干された布団を目いっぱい抱きしめたときのようなぬくもりに陶然するかの如く。漏れ出たアニマによって熱が緩和してたからこその症状であり、それがなければ彼の顔や体は爛れて落ちていただろう。そんな死と隣り合わせとは反対に、彼の心持は真逆の方向を刺し占めす。


 炎を通して彼女の温かみに触れたと感じているのだ。それは妄信の類であると考えられても完全に否定することは出来ない。しかし――


 (これだけ攻撃を受けてもなお、衰えることのない恍惚とした愉悦!この血は、この炎は、この痛みは、我が天使からの愛とも言えよう!ああ、楽しみだ。僕が彼女を下し、ランキングに名前を連ねることが出来れば、未来機関からの絶対特権が授与される。其れさえあれば――)


 興奮と絶頂のイメージを忘れ形見に、魔術のレベルとさらに上げた。


「なかなか私の魔術の通りは悪いわね...。自信無くしてしまうわぁ」


「というより、星ヶ宮さんの魔術をあれだけ食らってなお動けるのって、ありえるんですか?魔術初心者の私見ですけど、かなり火力は高そうに思っていたんですけど、その割に彼ピンピンしてません?」


 合計6発以上の壊血壊血竈≪エチエチカミノ≫を食らってもなお膝を屈することなく向かってくる変質者に対して、魔術の先輩としての一種の尊敬心を片隅に、今回の事件の発起人に口を開いて確かめる。すると彼女は指を顎に当てて「うーん」よ可愛げにつぶやいた。細くて長く、綺麗な手に同じ女としての嫉妬心を覚えながら、彼女の言葉を待つ。


「そうね。腐っても私、火力だけはあるはずなんだけどねぇ。私の出力の問題もあるだろうけど...あ、体調とかメンタル的なあれね」


「そうなんですか?ランカーって...」


「未来都市のランキングね。それでもここまで耐えてくる人は初めてかもしれないわね...そもそものアニマの問題か、それとも別にからくりがあるのか...」


 そこまで口に出して、星ヶ宮は少し考える動作をする。うーんと腕を組むが、出てくる言は「わかんないわぁ~。妄想と妄執で魔術がへそを曲げたへ行ったとか?」と。


「へそを曲げるって?」


「さあ?」


「天使の加速装置≪キューティーハニー≫」


 星ヶ宮の戯言を横目に、空気を咲く稲妻が二人の間を通り過ぎる。魔術にはタメの動作や音を聞くことで、ある程度の予測がたつ。さらには想像力というリミッターが存在する以上、本来の光速の再現にも魔術の輪郭上の制限も設けられている。そのため、彼女たちは致命傷を負いには未だ至っていないものの――


(このままじゃあジリ貧で負けるわね。星ヶ宮さんはわからないけど、よちよち歩きの私が彼の想定以上の動きをしていないのも確か。)


 揺れる空気が髪を乱す。丁寧に櫛と手で髪をとく時間などあるはずもなし、そのため乙女の命をずさんに靡かせる。星ヶ宮を横目で見れば、穢れなど知らないといわんばかりの髪は今もさらさらと静電気をもとともせず悠々と風に揺られていた。


 「我が天使は兎も角、随分と余裕そうじゃないか。...名前も持たない少女新兵。君じゃあ僕には勝てないよ。何故だかわかるか?」


「...さあ?まだ勝負は終わってないからわからないわね。そも自分の敗因を最初から考えてるようじゃあ、あなたに勝てないことだけはわかるけれど。」


 くっくっくと笑みをこぼす。来栖シュカに向けられていた双眸はいつの間にか空を漂っている。続けて、「確かに」と歪に笑う殺生院は、ゆらりと手を左右に伸ばした。


「君と僕には決定的な差があるんだ。これは魔術云々の問題とかじゃあない。心の問題さ。...君は体に電撃を浴びるような激しい絶頂をしたことはあるかい?」


「「は?」」


 思わず口を半開きにして唖然。見れば星ヶ宮も片眉を顰めている。


 その間にも、殺生院は自身の燃える身体を両手で包み込みながら体を揺さぶる。くねくねとミミズが這うような、気色の悪い心象風景のメタファーに、思わず体に生理的嫌悪感から、思わず体に身震いが走る。


「絶頂とはアニマの咆哮。想起する純白の翼は想像力の一滴!魔術がアニマと想像力に密接なものであるなら、君と僕とでは存在する次元が違うんだよ。我が天使の魅せた煌きは、未だ衰えることを知らない!記憶の奥にそれがある限り、僕の魔術は進化する!この確固たる自愛と慈愛が、僕を突き動かしている!!」


 殺生院は吠える。魂に響く男のそれは、女学徒諸君らを足を一歩後ろに引き下げることは至極容易なことであった。その瞬間を殺生院は見逃さない。


「しま...」


「天使の加速装置≪キューティーハニー≫!」


 彼の手が二人を指し示し、人差し指の銃口から放たれた電撃弾は、魔術の防御を許さない。


「ぐぅ...ったぁ...!!」


「っ...」


 再度、久方ぶりに二人は電撃を受ける。床に来栖シュカの傷口から辛く鮮血が流れ、床に染み渡った。反転、星ヶ宮にはそのような大きなダメージ量は見受けられない。アニマのコントロールの優劣から受けた身体的ダメージには若干の差が出ている。


 その衝撃から、来栖シュカは軽く後ろに吹き飛ぶ。反対に、星ヶ宮は自ら下がっていった。彼女とのラインを合わせ、連携を可能にするために。その反応に、軽く殺生院は瞠目する。自分に絶対の美の自信を持つ彼女が、敗北の宣言ともいえる後退という行動したという事実。それがひどく自分の自尊心を満たす。右手に軽くついたシュカの血を眺めながら、ニマニマと気持ちの悪い笑みをこぼす。


 来栖シュカにいくら能力の才があったとしても、アニマや想像力、その他さまざまな要因が絡み合う状況の中で、とっさに反応できるか否かはくぐってきた修羅場の経験がものを言う。それはどの世界においても共通事項なのだ。


 

 生理的嫌悪という概念は、人間の想像よりも生理的欲求が勝ったことによる本能的なものを指す。魔術から意識を手放した刹那、人は魔術を使えない無防備な状態をさらけ出すことになる。想像という輪郭が破壊されているがために。


 刹那、瞬間的なアニマの展開が可能か否かという点が、アニマの技量に反映されている。自在に無駄なくアニマを使いことが出来るのは、ランカーである星ヶ宮の賜物である。そのため、二人のダメージに差が出ているのだ。天の才を持つ来栖とは言えども、見たことの考えたこともないものを、その場で展開することは不可能であるために。


「初めて当たったね。でもこれだけじゃあないんだ。我が天使のそばにいるために、さらに魔術強度を上げなくてはいけない。君みたいなのに付き合っている暇はないんだよ。」


 殺生院が一歩、また一歩と足を踏み出す。まるで平原でも歩くように行われるそれは、ここが戦場であるということを忘れさせる優美さを持っていた。日常の仕草とも会わらすことのできる、緊張を知らない足取りで、高らかに宣言する。


「ダメ押しだ。天使の加速...≪キューティー...≫」


 殺生院が指銃を形成する。しかし先ほどまでと異なるのは、その銃砲に使用する指の本数。


 先までは、殺生院の魔術による放銃に使われていたのは二本。高らかに上空に突き出された、親指はハンマーの模造品。さらに突き出された人差し指はスライドの部分を表す。残りの握られた指たちは、さながらフレームのフォルムである。


 銃そのものを想像し、作り出そうとするのであればこれらをイメージするのが手っ取り早く、かつ正確無比。しかし、魔術の拡張性は人間の想像力を輪郭として形成される。カスタム性が異常なのだ。その分、それ相応の想像力がなければリスクも存在するのだが。


 殺生院の魔術の根幹となっていたものは、子供のころ皆が輪ゴムを飛ばして遊んだ記憶のある、小指をトリガーとした輪ゴム銃である。つまり、彼の扱う魔術に銃そのものの構造などを鑑みていないものである。それ故に―――


「壊血壊血竈≪エチエチカミノ≫」


 彼の魔術の宣誓よりも先に、星ヶ宮が自分の魔術を発動させる。その爆発の爆心地となるのは、彼の右腕から先、および顔である。


 殺生院の魔術がかなり強力であったということを彼女はすでに学習している。しかし、強力な魔術にはそれ相応の想像力のフレームがいることを、自分自身が一番よくわかっている。だから、彼女の魔術はランカーとしてはかなりシンプルに2種類に絞っている。その分魔術の威力に分配するために。


 そんな彼女は、彼の魔術のルーティーンを崩すことに注力する。銃を根幹とする魔術と電気系統の魔術の併用という時点で、かなりの想像力を使っている。そのため、魔術の輪郭形成における様々な要素を潰していくことで、フレームを能動的に壊すことで、魔術の不発並びに自信の喪失である。


 そのために彼女は彼より早く、若干威力低めの先制攻撃を行う。その目的は2点。詠唱破棄の教養及び指銃の破壊である。


 魔術名の詠唱は、魔術を発動させるうえで最もポピュラーかつ重要な要素である。そのため、これを邪魔するということが魔術戦において有用な点になるということは間違いではない。


 さらに指銃の破壊という点。想像力を具現化する際に自分の現実の動きや理解というのものも同じく魔術の輪郭形成を助ける効果がある。何が起きているのかの因果関係の理解。そこまで理解していなくても「これを行えばこういう結果が起きる」という一種の学習心理学。経験によって変化した行動を結果とセットで経験していくことを一種のルーティーンとするのだ。


 そのため、殺生院が魔術を使う際に常に行っていた、指銃の形成を破壊すれば魔術がほどけるのではと星ヶ宮は洞察していた。そしてその判断も正しいものであると言える。


「ぎぃぐ...」


「くっ...!!」


 殺生院の魔術を彼女たちはその身で食らう。再び電撃が体を蝕む感覚が体を走る中、彼女たちは自身の体に発生した電撃が体に巻き付くような感覚を覚えた。先ほどと同じような電撃の軌跡から発生したのは、異なるのは魔術効果である。何が起きたか見当もつかない苦し徒は反対に、星ヶ宮は状況を判断するべく、魔術知識を脳裏に集める。


 軌跡を描きながら電撃が直撃した際、先ほどまではその衝撃に吹き飛ばす威力であり、速度重視のそれであった。それ以上の追加効果などはない。


 しかし、今回彼女たちがその身に浴びた魔術は先ほどまでとは明らかに異なっている点があったのだ。爆発の煙の中から微かに見えた電撃の軌跡。それの速度が遅くなっていたのだ。


 電場纏う彼の動きにも特段変わっていたものがなかった。さらに自身の魔術による魔術感覚の妨害。それによって彼の魔術が失敗。若しくは当たったとしても相応の威力しか生み出せないと考えていた彼女の読みは、結果として最悪を生む。


「魔術戦の常識に忠実だなぁ、我が天使は。すべての判断が正確無比だ。おかげでさらに余計なアニマを使って、かつ威力も落ちてしまった。本来であれば軽く気絶させるくらいの威力だったけど、こんなものか。...だけども、これからは僕のことをよく知って、よく見て、よく考えて僕を見てほしいね。もちろん、魔術抜きでも。」


 電撃が一本の線となりまとわりつくような嫌な感覚の中で、星ヶ宮は最後の光景を思い出す。爆発の寸前、殺生院は、彼の指銃は――


(魔術の詠唱の破棄が不発になっていた?......いや、余計なアニマを使ってかつ威力も落ちているなら、それは成功していたと考えるべきね。...だったら、あの時、彼の魔術の構えは...)


「あの構え自体に意味がないほどの魔術だったのかしら。だったら、少し読み違えてしまったわね。失敗だわ。」


 束縛を体に受けているときでも美しさを譲らない彼女は、異性から見ればさぞ扇情的に見えていたことだろう。其れの証明かという用に、殺生院は更に口角を上げた。


「それだけだと60点かな、我が天使。指銃を作ること自体は必要なんだよ。だけど、読み違えたのは指銃の形だ。」


 殺生院は、指を指銃の形にピンと二本の指を立てる。そして指降り数えるような仕草をして、伸ばす指の本数を増やしていく。


「指を開いても天使の加速装置≪キューティーハニー≫自体は発動する。違うのはその副次的な効果だ。指一本は普通の銃。他の指を開放していけば、それだけ速度を引き換えに威力を上げることが出来るんだ。」


 彼はそういうと指をすべて折りたたむ。拳を煌々と捧げると、最後に小指をぴょこんと突き出した。


「だけでも小指だけは異なる。それが我が天使を縛り付けている副次的効果を唯一持っている指。運命の赤い糸ってあるだろう?それを魔術で再現できれば、すごく素敵なことだと思わないかい?」


「だったら私だけを縛りなさいよ。シュカまでガチガチに縛って...浮気性ねえ。だから童貞なのよ。」


「我が天使らしくないなあ。そんなことしか言えな...ん...」


 何気ない彼女の煽りが脳裏に突き刺さる感覚を襲う。記憶という扉を不躾にまさぐられるような不愉快が彼をイラつかせる。


 人は経験したもの覚えたものを決して忘れないものである。それを思い出せないだけで。しかし、思い出せないという感覚さえ思い出せないのであれば、それは知らないも同義である。


 その点を鑑みれば、彼の魂には、彼女の鱗片が浮かんでいたのであろう。欲望や魔術が記憶の容量の阻害をするだけで。


 そう、彼は星ヶ宮との邂逅を通して、欲望や魔術に縛られている状態にあるのだ。それを媒介としてアニマの増幅、そして異常な魔術の成長。その分、体には負荷がかかっている。


 なれば彼を解き放つにはどうするか。それは記憶の容量を空けることの他ないだろう。そんな魔術の想像力で届かない、魔法のようなものがあれば。


(なんだ...今の...既視感?記憶?...そして、誰だ?)


 脳裏に浮かぶ、星ヶ宮と重なる少女の影。勝気な星ヶ宮の表情とは対照的に、今にも泣きだしそうな双眸。心配、恐怖、不安が入り混じ児るような、星ヶ宮には似つかわしくない表情がフラッシュバックするような感覚に立ち眩む。


「まあ、いい。せっかく二人きりに慣れたんだ。隣に立ち、愛を育もうじゃないか。ゆっくり、二人で、永遠に。」


 殺生院の指が星ヶ宮の髪に触れようとする刹那、一閃が走る。


「なん...」


「人のこと縛っておいて、忘れてるんじゃあないわよ。」


 呆然とする中、星ヶ宮を縛っていた彼の魔術がほどける。その瞬間をランカーである星ヶ宮は見逃さない。


「壊血壊血竈≪エチエチカミノ≫」


 その宣言とともに、殺生院が吹き飛ぶ。しかし、今回は先のような爆発は起こらない。それを不思議に考える暇もなく、殺生院は吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。


「がぁ...」


 言葉を漏らし、腹に残る鈍痛に身をよじる。何が起こっていたのか、星ヶ宮ともう一人以外はわかり得ないだろう。これは彼女の秘密の一つなのだから。


「いやー、一発しっかり入れてすっきり。ありがとうね、シュカ。やっぱり便利ね。その魔術。」


「すごいでしょう、私の魔術は。でも...」


 歴戦の戦士に賞賛の言葉を浴びていても、彼女の心は不思議と喜びが吹き荒れるということはなかった。せいぜい、背中が少し暑くなるくらいの喜び。其れよりも彼女の心には―――



 道半ば、考え込む少女の心を埋め込むは、ある日の憧憬。二人の少女のある日常。


 蛹が花開くまで、あと少し。


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