LASTTAKE︰だって、声優ですから!★(CV︰鈴名宝)

 私だけの【レイン】を演じるようになってから──。

 そして、星桃学園中等部声優科に入学してから、少し経った。

 順調に声優のアフレコ収録のお仕事をこなしつつ、たまに、雑誌の取材が依頼されることもあった。

 そこで語るのはもちろん、ママのこと──ではない。

 【伝説の声優・鈴名葵の娘】ではなく、【声優・鈴名宝】としての──私自身のことだ。

 ある日の、夜────。

 私は、幸せな夢を見ていた。

 死んじゃった、私のお母さん──天国にいるはずのママが、また私の夢に出てきてくれたんだ。

『宝ちゃん。あなたは私の誇りよ』

 そう、あの優しい声で私に言ってくれた。

 でも、ママの声は、少しずつ少しずつ、どんどん小さくなっていって……。

 そのうち、フッ、と消えてしまった。

 その場面と入れ替わるように、「えーんえーん」と、誰かの泣き声が、少しずつ大きくなって聴こえてくる。

 んもー! うるさいなぁ。せっかくママと話していたのに──。

 でも、あんまりにもつらそうに泣くものだから、なんだか放っておけず、私はその声の主にかけよった。

 ──まだ年端もいかない小さな女の子が、一人でうずくまって泣いている。

 いくら私があやしても、泣きやんでくれない。

 途方にくれて、しばらくしてから──はっとした。

 この小さな女の子は──テレビのアニメから流れるママの声が恋しくて泣いていた──昔の私だ。

 そのことに気がつくと、その女の子──昔の私は、『もう大丈夫だよ』という風ににこりほほえむと、ママと同じように、フッ、と消えた。

 そして今度は、大人になった私が、とつぜん目の前にあらわれる。

 今の私である、少女の私と、大人の姿の私が、立ったまま、向かい合って話す。

「あなたは、どうしてそんなに演技が上手なんですか?」

 自分でも、なにをきいているのかわからない。

「決まっているじゃない」

 大人の私がふふ、と笑う。

「だって、私は、伝説の声優の娘──」

 大人になった私が、まるでママのようにふわりとほほえむと、少女の私にこう言った。

「だって私は、声優ですから!★」

 ──私立星桃学園中等部声優科。

 ──ここが、夢への第一歩。

 

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だって、声優ですから!★ 守宮シイナ @ronronkuron

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