第5話


「ミヤちゃん、いっしょにゲームしようよ!」


 幼馴染のルミの顔が浮かんだ。

 子どもの頃からずっと一緒にいた。どんな好きなものでも共有した。この頃の私はロールプレイングをやり込んでいたが、ルミは違った。彼女は格闘ゲームを愛していた。

 この『ベルシュタイナ』も、そんな思い出のひとつだった。


「いやよ、ルミ、強すぎるから」


「えー! いいじゃん、強くなろうよ」


「わたくし、格ゲーに興味ないから」


「これから好きになるって」


 勝負はいつも、ルミのワンサイドゲームで私は負けていた。私は負けるたびに悔しかった。ロールプレイングでは味わうことのない、負けの屈辱。プログラム相手ではない、生の敵だ。

 私は『ベルシュタイナ』を買い、ひたすらに練習した。ゲームシステム、キャラクターの特徴、コンボ練習、フレーム数の理解、果ては舞台設定まで——とにかく、ルミに勝ちたかった。

 そんな私が、初めてルミに勝った。ギリギリの勝負だった。


「ミヤちゃん、強くなったね」


 その一言が、忘れられないでいる。

 ルミが手を抜いたわけではない。彼女の強さに、私はようやく追いついた。


「あなたがコマンドミスしてくれたおかげですわ」


「はは、言うねぇ」


「ルミ、悔しいんでしょ?」


「もちろん」


「わたくしはそうやって強くなったのですわ」


 私たちはふたりで格ゲーにのめり込んだ。

 そうして、私は『ベルシュタイナ』を愛するようになった。

 愛は伝播する。そういうものだった。


 結局、私がルミに勝ったのは、その一戦だけだった。


(ルミ……)


 幼馴染のことを思い出し、懐かしくなる。

 その幼馴染とは――もう会えない。


 ルミは、交通事故で、亡くなってしまったのだから。

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