パッと思いついた恋愛もののワンシーン
Nemo
一緒に料理するシーン
駐輪場に自転車を停め、スマホを取り出す。
下校中にピロンと音がしたのは聞こえたが、急ぎの連絡が送られるような心当たりがなかったので、後回しにしていた。
またキャンペーンの告知?
いや違った。
『先に着いたから夕飯作るね』
恋人からだった。
生徒会の仕事が早く済んだとのこと。珍しい。
『ごめん、今確認した。もう着いたから待ってて』
このマンションにエレベーターなんて便利なものはない。一段飛ばしで駆け上がる。
ガチャリ。
「ただいま」
言うが早いかキッチンを覗き込む。
「おかえりなさい」
花が咲くような笑顔で彼女が迎えてくれる。
だいぶ前から来ていたのか刻みネギの山がボウルに投入されていた。
「どうしたの?そんなに見つめて」
「あっ、その……見惚れてた」
「もうっ」
はにかみながらも包丁のリズムに乱れはない。
白いセーラー服にレモンイエローのエプロンが彼女の魅力を引き立てている。
思わず呆けてしまうのは仕方ないだろう。
慌てて鞄を部屋の隅に置き、エプロンを身に付けながらキッチンへ戻る。
「お待たせ、それ混ぜたらいいかな?」
「ありがと。あっ、待って」
また結び目がぐちゃぐちゃになっていたらしい。
さっと背後に回り込むと慣れた手つきで修正してくれた。
手の感触がこそばゆいのは、この歳で未だに蝶々結びができない恥ずかしさも原因だろうか。
「はいっ、これで大丈夫」
既に下準備の大半が済んでいたため、出来上がるのに時間は掛からなかった。
今日はネギ焼きだ。
白ゴマ入りのタレにつけてパクリといただく。
「あふっ」
麦茶がやや遠い。ハフハフと息をもらしながら急いで飲み込む。反省。
二切れ目は慎重に口に入れる。
カリッとした表面にモチモチした中身。ネギの甘みとタレのしょっぱさが調和している。
「おいしい」
「ほんと?なら、また一緒に作りましょ?」
「ああ、そうしよう」
左腕がわずかに動く。
彼女のことだ。バレないように机の下で小さくガッツポーズでもしたのだろう。
そんな仕草も可愛らしい。
気付かないフリをして食事を進める。
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