第15楽章 ソロが吹きたい

ホルンパートの四谷よつやふき神楽坂かぐらざかのところへやってきた。不満があるのだという。

たつみくんばっかり。美味おいしいところもってっちゃう」

ふきはホルンのパートリーダーをやっているが、同じパートの久保山くぼやまたつみは副団長でもあり、ホルンの腕前うでまえもパートの中では確かに一番だと、神楽坂も思う。ふきの言う「美味しいところ」とは、ソロやファーストパートなど、合奏の中で目立ったり、一人だけで吹いたりすることができることを言っている。

「私はハモリや伴奏ばっかり。つまんない」

確かに、上手い人がソロを担当することは多い。が、高校の部活だしそこにこだわる必要はないかなとも神楽坂は思っている。とはいえ、技量ぎりょう以上の演奏をまかせると本番にプレッシャーがかかりすぎるということもある。それは神楽坂も今までいろんなパターンを見てきたので、慎重しんちょうにならざるを得ない。

四谷よつやさんは、ソロを吹きたいの?」

神楽坂がたずねると、ふきは「はい」と言いながらも少し不安そうな顔もする。その表情に、(そういう訳じゃないのかな?)と感じた神楽坂はさらに質問をする。

「どのソロを吹きたいとか、そういうのあるの?」

「ソロっていうか、課題曲のCのところ、あのメロディいいな、とは思ってる」

なるほど、と思いながら「じゃあ代わってもらう?」と聞くとふきはなんだか困ったような顔になる。「ん?」神楽坂が何気ないフリをしてふきの顔を覗き込むと、ふきは不貞腐れたような表情になる。

「わかってるんです。巽くんの方が上手いって。あのメロディだって、私よりも上手に表現できるって、わかってるんです。けど、みんなが当然巽が吹くって感じになるのも悔しいし! そんな風に、思っちゃう自分も、悔しいし……」

最後は少しトーンダウンして、一転泣きそうな顔になる。

「君には君の音がある。俺は好きだぞ、四谷さんの音。久保山くんのような華やかさのある音じゃないが、よく響く、あったかい音だ。あの旋律はそれぞれの色が出ると思っているから、僕は、どちらが吹いてもいいと思ってるけどね」

「ホント?」

ふきは潤んだひとみで神楽坂を見る。

「本当だ。ソロや旋律せんりつは、上手い人が吹くというのが一般的だが、その曲のことをより理解しているとか、その曲の世界感をより表現できる人が吹く方が、いい表現ができるとも思う。四谷さんはその自信あるかな?」

「よく、わかんないです」

「もしそれでも吹いてみたいと思うなら、オーディションでもなんでもやってあげるよ。久保山くんに『自分も吹きたい』と伝えてみるんだね。言いづらいなら僕から言ってもいい。久保山くんはそんなにファーストを吹くことにこだわってはいないと思う。四谷さんはどうしたい?」

ふきはほんの少しだけ迷ったが

「自分でたつみと話します!」と元気に宣言せんげんしてっていった。


今日のワーク----------------------------♪

パートわり、いつも同じになってませんか??

上手い人がファーストばかり、ということもあるよね。もちろんその方がうまくいくってこともあるけど、たまには違うパートを吹いてみたい……なんて思っている人もいるかも。

もちろん3年生や先輩がソロや旋律を担当することが多くなるのは仕方ないと思うけれど、パート割はその楽譜を1番うまく表現できるのは誰か?ということも考えて決めるといいかもね。

ソロを吹くのが得意な人。伴奏やハモるのが上手い人。リズムが得意な人。それぞれに得手えて不得手ふえてがあるし、自分の強みを活かせるパート割ができたら最強のパートになるんじゃないかな?

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