三つ目の村
魔導書 壱
葬儀会場から出ると、トボトボと歩みを進めた。足が重いが約束をしてしまったからには、行かないといけない。梅貝探偵事務所に・・・。
ドアをノックすると、中から”入っていいよぉ”と間延びした声が聞こえた。
「梅貝さん、こんにちは」
入ると椅子に座ってコーヒーを飲んでいる梅貝さんがいた。
「桜田君、葬式の後すぐなのにごめんねぇ」
「それで何の用ですか?」
梅貝さんは睦美の両親の依頼を遂行し、もう僕に用事はないと思うが。
「俺は朝霧睦美ちゃんの死をもっと詳しく調査したいと思ってるんだ、個人的にねぇ」
「・・・そうですか、好きにしたらいいじゃないですか」
「あんまり乗り気じゃない?」
「僕はもう疲れました」
睦美を殺した奴らを許すことなんてできない。けれど、それ以上に僕はもう何もしたくなかった。睦美がいない今、生きる気力を無くしてしまった。
「僕はさっきまで葬式に行ってきました。・・・僕だって悲しいのに、まるで犯人かのように疑われて冷たい目で見られて・・・」
ヒソヒソと聞こえてくる、僕への疑い。ご両親の睨みつけた表情。すべてが鮮明に思い出される。
「それは・・・辛いねぇ」
「梅貝さんに何が分かるんですか!!どうせ今日呼び出したのだって、僕を利用して調査しようってことでしょう!?」
「・・・」
梅貝さんは持っていたコーヒーカップを机に置き、僕の方は近づき目の前に立った。
僕の顔を覗き込み、じっと目を見つめて言った。
「そうだよ」
僕は怒りのあまり、梅貝さんの胸倉を左手で掴んだ。そして右手で顔面を殴ろうとしたが、あっさり梅貝さんに止められてしまった。
「”利用される”って悔しいでしょ?」
「・・・」
「それは朝霧睦美ちゃんも一緒だ」
「・・・!!」
掴んでいた胸倉を離すと、梅貝さんは一歩後ずさった。
「彼女は、サークルに人たちに”利用されて”殺されてしまった。でも、ただ利用されるだけで終わりたくなかった。だから君にメモを残したんでしょ!!」
睦美のメモを思い出した。僕の名前と電話番号が記載された、あのメモ。
「君の名前だけがハッキリと筆圧が残っていたおかげで、俺たちは真相に近づいた。それがどういう意味だか分かるか?彼女は君に助けて欲しかったんだよ。君の名前以外はすべて走り書きで書かれていた。時間がなかったんだと思う。でも君の名前だけは、もう二度と書けないと思ったから、丁寧に書いたんじゃないかな」
梅貝さんは僕の両肩を掴んだ。力強く温かい手が伝わってくる。
「梅貝さん・・・分かりました。僕も協力します」
僕の返答を聞いた梅貝さんは、少しだけ微笑んだ。
「しかし、オカルトサークルの人たち次はどこの村に行くんでしょうか?」
ソファに座りながら疑問を呟いた。梅貝さんが淹れてくれたコーヒーを啜ると、苦みが強かった。
「それはまだ分からないなぁ。あの二つの村の共通点を探してみるよ。何か法則性があるかもしれない。その間に桜田君に
調べてきて欲しいことがあるんだ」
「何でしょう?」
「大学内でオカルトサークルについて調べてきて欲しい。どんな人物がいて、どんな活動をしていたのか。最近変わったことがないか」
「分かりました。それぐらいなら僕もできますし」
「頼んだよ、探偵助手君」
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