十一日目 ソファを作ろう!

『おはようございます! デイリーボーナスが更新されました!

 実績解除まで:2/3

 新たな漂流物:2』

「ふぁ、声の人おはよう……」


いつものモーニングコールに目が覚めて、固まった体を伸ばしてうーんと唸る。

とりあえず周囲に【清潔クリーン】をかけて清潔を保ちつつ、隣で寝息を立てるシーラちゃんを起こさないように、慎重にベッドから起き上がる。


「漂流物ってなんだろ……外にあるのかな?」


実績解除の方は分かるんだけど、漂流物ってなんだろうね?

いつもの作業もあるし、いつものようにお家から外に出て、椰子の樹と綿花畑を確認する。


「椰子の木はいつも通りだし、今日も綿花がいっぱいだね……この綿花って、お水なくても大丈夫なのかな?」


お水ならいっぱいあるけどね。水平線までびっしり。

普通の植物なら枯れちゃう海水だけどね。


「……このまま一日放置したら、どうなるんだろうね?」


まぁ、すぐに収穫しちゃうから、放置していたらどうなるかなんて知る由もないんだけど。それに多分だけど、一日分の更新が無駄になるだけだと思う。


そして、いつもの海岸線に違和感を感じてそちらを見る。


「なんだろう、あれ……木の箱? と樽?」


そこにあったのは、船の積み荷でよく見る木箱と、封がされたままの樽だった。

多分どこかの船の積み荷だよね、これ?

ただ、船が到達できないってシーラちゃんが言っていた海域の島に、こういうのが流れ着いたって事は……。


「沈没した船の漂流物って事かな、これ……」


そう考えると悲しい気分になるけど、そういう意味では僕も漂流物みたいなものだしね。

申し訳ないけど、この木箱と樽は回収させてもらおう。


と思ったんだけど……。


「重くて動かない……」


波打ち際から木箱を引っ張ろうとしたんだけど、僕の力じゃピクリとも動かない。

それよりも小さい樽も押してみたんだけど、変な角度で砂に埋まっているせいか、こっちも全然動かない……。


「こ、困ったな……波に攫われる前に回収したいんだけど……」


どうしたものかと途方に暮れていたら、お家の入り口が開いて、シーラちゃんが欠伸をしつつ背伸びをして外に出てきた。


「ふぁ、おはよ……って、なにそれ?」

「どこかの船の漂流物みたいなんだけど……」

「あー、よくあるのよ、そういうの。ただこの島まで流れてくる事はほとんどないかな? この島って、渦からだいぶ離れてるから、その間にたいてい沈んじゃうのよね」


そう言いながら、木箱と樽を片手でひょいと持ち上げ、シーラちゃんが小屋の近くまで運んでくれる。


「この辺でいい?」

「僕じゃ全然動かなかったのに、同時にふたつ……」


男として負けた気分になるけど、シーラちゃんは力持ちなのは知ってるしね。

夜とか、シーラちゃんに組み敷かれると、反撃したくてもびくともしないし……。

まぁ、そういう時は擽ったりすれば、すぐふにゃってなるんだけどね。

え? どこを擽るのかって? ……ちょっと秘密です。


「何が入ってるんだろ?」

「浮いてる木箱なら、たいてい日用雑貨とか服が入ってるわよ? あたしが来てた服も木箱に入ってたの」

「ああ、その下着みたいな水着って、拾い物だったんだ……」

「おばばの所に行けば、もっと変なモノがいっぱいあるわよ?」


と言いつつ、べりっと木箱の蓋を軽々しく外すシーラちゃん。

そんな柔らかいモノじゃないと思うんだけどなぁ……まぁいいけど。


「なにかしら、これ?」


そして箱の中を見たシーラちゃんが、目をぱちくりさせてる。


「これは何かの書類と筆記用具かな? それと反物。うわこれ絹じゃないか!」

「きぬ?ってなぁに?」

「蚕って言う虫の糸から作った生地だよ」

「むしぃ!? な、なんか気持ち悪い!」


反物を手にして眺めていたシーラちゃんが、虫の糸と聞いて慌ててポイっと投げ捨てる。


「ああもったいない! その生地、明らかに高級品だよ? それに絹は手触りがいいから、服にすると着心地がいいよ?」

「えぇ……こんなのがぁ?」


勿体ないと言われて、投げ捨てた反物を胡散臭そうに見るシーラちゃん。


「なんだろうね? この書類っぽいのが読めたら分かったんだけど」


恐らくだけど、これはどこかの貴族へ送られる予定の品物だったんじゃないかな?

明らかに高級品だし、結構な数が収められているし。

ただ、書状っぽいものはインクが滲んで何も読めないし、反物も海水でぐちゃぐちゃだけど。


「勿体ないから、海水の成分を全部【抽出】で引っこ抜いて、生地に戻すよ?」


【浄化】でもなんとかなりそうだけど、僕の【浄化】は低レベルだからね。

あまり高級品には対応できてないんだよね。

こういうのを浄化したいなら、上位の【高洗浄】が必要だね。

僕には使えないから、【抽出】した方が早いし確実。


「こっちの樽には何が入ってるのかな?」

「ちょっと待ってね、ほいっと」


気軽な感じでパンチをして、樽の蓋を真っ二つにするシーラちゃん。

僕があんな事をしたら、拳が砕けると思う……。


「こっちは、なんかゴロゴロしたのがいっぱい入ってるわね」

「おー! お芋がいっぱい! これは有難いね!!」

「おいも?」

「食べ物だよ! しかも上手く行けば栽培できるかもしれない!」

「おー? このでこぼこした変なのって食べられるんだ?」

「もちろんだよ! しかもこんな一杯! しばらくお芋料理が追加できるよ!」

「美味しいの?」

「料理次第だけどね! お魚ばかりじゃ飽きるからとてもいいものだよ!」

「あたし、お魚焼いたの好きだけど……」

「もっと食事が豪華になるよ!」


はしゃぎ喜ぶ僕を見て、ごくりとつばを飲み込むシーラちゃん。


「……それじゃ、あとで料理してね? あ、それならお魚取って来ようか?」

「ううん、今日はまだ椰子の木も畑も手つかずだからいいよ。それにお芋料理を作るし! お魚は昨日のが残ってるから平気!」

「そう? それじゃ作業見てる!」

「うん! 待ってて!」


砂浜に座って、楽しそうに僕を見るシーラちゃん。

そのギャラリーに応えるように、ちゃちゃっと椰子の木と綿花の回収を終える。


「ホント、何度見ても不思議な光景ねぇ」

「ボクもそう思うよ。錬金術で取り込むと、フワフワ浮くのが不思議だよね」

「それもあるけど、こんな事が出来るアンタが不思議なのよねぇ」

「僕は普通の男の子だよ?」

「イワシ並みに弱っちい男の子だけどね!」

「イワシって「魚偏に弱い」……まぁ、うん。あってるけど……」


悪意のない言葉の刃に軽くダメージを受けつつ、お芋……ジャガイモをいくつか台所に持ち込んで、真水で洗ってから、【分解】で皮と芽を全部取っちゃう。


「れ、錬金術ってそんな事もできるの?」

「皮むきくらいなら出来るよ?」


お師匠様には「そんな錬金術師はいない!」って怒られてから、あまりやらないけどね。今は僕とシーラちゃんしかいないからいいよね。お師匠様、ごめんなさい。


皮を剥いたジャガイモを、綿花の種から搾った油を少し大目に引いたフライパンで揚げ焼く。味付けは塩だけだけど、魚介以外の食べ物なんて10日ぶりくらいだから、匂いだけでも涎が止まらないよ!


「な、なんかいい匂いが……ひとつ頂戴!」


なんか揚げ芋を指で摘まもうとしてたシーラちゃんの手から、慌ててフライパンを遠ざける。


「揚げてる途中だよ。熱いから駄目」

「ちぇー! けち!」

「もうちょっと待ってね。ちゃんと食べさせるから」


他にも鍋でお芋を茹でて、潰して味を調える。


「マッシュポテト擬きだけど、うん。結構おいしい」

「あー! あたしには食べさせないくせに、自分だけ食べて! ずるい!」

「こ、これは味見だから! ……わかったよ、あーん?」

「あーん! ぱくっ。うわ、なにこれ、美味しい!? もっと!」

「味見はおしまいー。お魚焼くからちょっと待ってね。あと汁物にもお芋を使おう」


ぶーぶー言うシーラちゃんの口に、追加でマッシュポテト擬きを放り込んで黙らせてから、ジャガイモとお魚のスープも作る。


「ミルクがあれば、冷製スープとか作れるんだけどねぇ」

「あたしは出ないわよ? そのうち出るようになるかもしれないけど」

「え!? それって、ぼ、母乳って事!?」

「ごめん! 言ったあたしが一番照れてるから、今のは無し!」

「う、うん……」


なんか茹で蟹みたいになっちゃったシーラちゃんが、僕の肩をばしばし叩きながら

なんか照れまくっちゃった。

僕も蒸し返そうとは思わないけど……それってそういう意味だよね?

毎晩してるから、あり得るとは思うけど……駄目だ、僕も恥ずかしくなってきたからこの話題はこれでおしまい!

というか肩の骨が折れそう。痛いです……。


ジャガイモ料理はシーラちゃんに大好評でした。

なんとか育成できるから試してみたいね。

ちなみに綿花の畑にジャガイモを植えようとしたら「畑の種類が違います」って言われて弾かれちゃった。やっぱ不思議な畑は専用の畑らしいよ。


「それじゃ、今日の目的をこなしちゃおうか!」

「目的? お芋料理じゃないの?」

「それは突発イベント! ソファを作ろうって話だよ!」

「あー……そういやそんな話だったわよね? 外で作るの?」

「それでもいいけど、重くて運べないよ?」

「なに言ってるのよ。あたしが運ぶわよ」

「ああ、そうだった。シーラちゃんは力持ちだったね……」


それじゃ心配する事もないか。外のが広いし、外で作っちゃおうか。


「せっかくだから絹の反物も使っちゃおうかな?」

「えぇ? そんな怪しいものを使うのぉ?」

「生地から作ったら、綿が足りないしね。あるモノは使わないと勿体ないよ!」


ただ、やたらと豪華で派手な生地だから、これをそのまま使うと、物凄く目立つソファになるけど……まぁ、僕たち以外に他に人の目が無いし、別にいいか。


「二人で座れるくらいのサイズにはしてよね! 一人用は駄目だからね!」

「うん。了解。入り繰りを通せるギリギリくらいにしておく。部屋は狭くなっちゃうけど」

「それでもいいから! お願いね!」


シーラちゃんの希望に合わせてサイズを調節して、それを土台にしてソファを組み立てていく。

閣下、ふんわりした物凄く派手なソファが出来上がったけど……目に悪いなぁ、これ。


「ちょっと色も調節しようか……何色がいいかな?」

「色を変えるの? どんな色にもできるの?」

「この記事に使っている色を混ぜるだけだけどね」

「それじゃ、あたしの髪の色みたいなのにして!」

「了解!」


シーラちゃんの希望通り、シーラちゃんの髪の色と同じ、緑のソファを作る。


「わぁ! 綺麗! 素敵!!」


それを見て、ものすごく喜ぶシーラちゃん。

そしてひょいって持ち上げて、鼻歌交じりで小屋の中に運んで行ったよ。


「ほんと力持ちだよね……ちょっと羨ましい」


そしてシーラちゃんがソファを設置したのが功を奏したのか。


『実績が解除されました! 「実績:家具の設置」 ボーナス報酬を選択してください!』


おぉ、きた! ボーナス!


なにが選べるのかなと思ってワクワクしていたら、こんな選択肢だった。


・畑の設置

・水場の設置


相変わらず、ずるい二択だなぁ……。

というか絶対これ、畑を選べって言ってるようなものじゃないか!

お芋が流れ着いたのにあわせたとかじゃないよね!?

まぁ、ありがたいけど。なんかもにょっとするなぁ。


「とりあえず畑!」

『選ばれなかった方は二度と設置できません、よろしいですか? Y/N』

「分かってるよ! Y!」


という事で、畑を選んだら……あれ、何も起きない?

と思ったら、こんな表示が出ていた。


『土地面積が足りません。住民を増やして土地を増やしてください』


えぇ!? 選び損になってない!?

でもこの感じだと、水場を選んでいたとしても同じ感じになりそう。


「住民って3人増やすんだっけ? 無理じゃないかな……」


まぁ、僕とシーラちゃんん子供が生まれたら増えるかもしれないけど、何時の話になるんだろう。

というか子供……シーラちゃんはそれでいいのかな?

嫌ならあんな夜にはならないと思うけど、若気の至りってのもあるし。

……どうしよう、なんだか不安になってきた。


とりあえず、外にいても何もできない事が分かったので、シーラちゃんを追ってお家に入ったら……いきなり手を引かれて、ソファに押し倒された。

僕の腕に絡みつきながら笑う、シーラちゃんの笑顔が眩しい。


「……おおう。思ったより座り心地がいいね」

「でしょー! あたしこのソファって言う椅子、気に入ったわ! 色も好き!」


ちょっと跳ねるような感じで、僕の身体を受け入れてくれたソファ君を、隣に座ったシーラちゃんが、愛おしそうに撫でる。


「それに、ベッドよりもフワフワだし! これならいろいろできるわよね!」


そう言いながら、僕のズボンに手をかけるシーラちゃん。


「ち、ちょっとシーラちゃん!? なにするの!?」

「なにって、ソファのを確かめないといけないじゃない?」


僕の前に移動して、僕の足の間に身体を割り込ませて、閉じられないようにするシーラちゃん。


「ま、待って!? まだお昼にもなってないよ!?」

「とか言いつつ、はもう、こんなになってるけど?」

「指で弾かないで!?」


駄目だ! なぜかシーラちゃんが、えっちなシーラちゃんモードになってる!


「丁度喉が渇いていたのよねぇ……いただきまーす! ぱくっ」

は飲み物じゃないよ!? はうっ!? シーラちゃん激しい!」

「はむ、ん、ちゅぶっ……ちゅーっ! はぁ、おいし……んんっ」


そしてその日は結局、日が暮れそうになるまで、二人でして過ごした。

ああ。椰子の実のジュースが美味しいなぁ……身体が水分を欲してるよ、あはは。

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