2-2 理解
「では、お前ならどうする。」
アルヴィスは試すように、彼に問う。
「さっさと白旗上げて、伝説の騎士たちにお願いしますよ。人間の限界を超えた存在には同等以上の力が必要。私たち普通の人間には精々あの非常識な化け物に名前をつける仕事くらいしかできないでしょう。」
言葉の軽やかさとは裏腹に、そこには一切の希望も幻想もない。
ペイロールにとって“伝説の騎士”とは、崇拝の対象ではなく、人間の限界を嗤う鏡のような存在なのだ。
無力な者にできるのは、せいぜい敵に名前をつけ、騎士を神話のように語ることだけ。
それがどれほど滑稽で、悲しい現実か──。
彼は誰よりも理解していた。
化物はバケモノで制する。12騎士の力はどこから来て、それが何なのか、わからないまま自分たちの脅威と戦っている。
ディオニウスシステムと同じ正体不明の人類の剣。
「己の力量を分かっているのは、分別のついた利口な人間だよ。一方的な盤面は面白くないな。ペイロール、先ずは無能な指令を出す輩を排除せよ。」
その評価に、彼はは何も言わず、ただ軽く頷き、部屋を後にした。
自らの“賢さ”を誇るつもりも、“冷徹さ”を見せびらかす気もない。
彼の興味は、もはや勝敗ではなく、この世界がどう終わるか──。その結末を見届けることだけに向けられている。
静寂が部屋を支配していた。緊急事態の中でも、指導者としての威厳を保つアルヴィスは、あえてその沈黙を破るように問いを投げかけた。
「そして…ディオニシウスに問う。あの化け物の侵攻を止め、時間をかせぐ最良の騎士を選べ。」
人工音声が無機質に答えを返す。けれどその内容に、一部の者たちは目を見開き、ある者は言葉を飲み込んだ。
『わかりました。騎士3位アレクサンドル・カーディナル、6位ラインハルト・ド・チェンチ、7位シオン・ナナイ。以上3人の騎士を向かわせるのが最善策であると演算しました。』
「ディオニシウス、なぜ私を使わない。」
その答えに、セリスは無意識に一歩前へ出た。顔を上げ、薄い唇が震えた。
『提示された問いは時間を稼ぐことです。』
淡々と、まるで人間の葛藤など一切理解しないかのような口調。それが一層セリスの胸を冷たく締め付けた。
そんな彼女をあざ笑うように、アルヴィスが嘲るような笑みを浮かべる。
「4位、過信するな。ひとりでどう戦うというのかね。あの一度の攻撃で都市を吹き飛ばした化け物をどう屠る。あれほどの化け物を、力量が判らぬうちに突っ込んで返り討ちにあったらどうする。自爆するのか、暴走でもするというのか。忘れるな、お前はジョーカーだ。敵にも味方にもなる。」
その言葉は、彼女の中の炎に火を灯すのではなく、『大好きな人が笑って暮らせる世界を守りたい』たったひとつの願いさえも砕いていこうとしていた。
「たまには誰かを頼るのも悪くないですよ。」
バラに包まれた大聖堂の傍に暮らして、すっかり身についてしまった、柔らかいバラの香りの大きな手が、彼女の肩を軽く叩く。
「アレックス…。」
彼女が自分の名を呼ぶ声に、後ろ手を軽く振りながら答えを返す。
「お茶でも飲んでいて待っていてください。それでは、行ってきます。」
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