1-19 警告


「少し耳を貸せ。」



 耳を引っ張られた痛みより、彼女は遠くの方で、ヴィーチェがあの人の腕を掴み、楽しげに話し笑いあっている姿を見ると心が痛い。



 燃えるような『緋色』と『橙色』



 ふたりの髪の色が似ていることすら、不愉快だった。本人たちに悪気はないのに、あの日、バラのようだと褒めてくれたのは、夢だったのかと、頭を振った。




「アレをどう思う。」


 目の前で繰り広げられている景色の感想を求められたと勘違いし、露骨に嫌悪感を示す。



「何がだ。」



 瞳の色が光をうっすらと帯びていた。それは『返事によってはどうなるかわかっているな』という合図。それだけ、彼女にとっての心の中の『聖域』は『禁猟区』だった。



 誰もその場所で狩りをしてはならない。




「前にいるヴィーチェ・ド・チェンチ。」



 橙色の髪を金色の髪飾りで美しくまとめ上げた妖艶さは、彼女には微塵もないものだった。



「オマエの双子の姉だろう。」



 その事を疑問に思ったことはない。他人との距離がやたらと近くて、綺麗なものが大好きで、華やかな存在だが、肩書きは魔工学研究所所長という堅い仕事をしている、不思議な人間。それが彼女への印象だ。




「俺に姉はいない。いるのはのルードヴィヒ・ド・チェンチだけだ。あれはルーイが生み出した虚構の姿だ。」



 初めて聞く名前だが、レインが嘘を言っているとは思えなかった。




「意味がわか…。」



 突然の大きな音に、空気は震え、王宮内の窓が割れた。ガラスは無数の星のように煌めきながら、凶器と変わっていく。



「セリス。」



 強く抱きしめられ、レインの防御魔法がかけられた。深い海のような紺碧一色に包まれたが、その外には明らかにレインの魔法とは違う強烈な無数の小さな針のような光が軌跡を描いているのが見えた。



 Étoile filante流星雨



 レインの回復系聖属性魔法とは違い、攻撃に転じることのできる聖属性魔法。魔族を狩るシュテルンの聖職者だけが使う魔法が、降りかかるガラスを全て弾き飛ばしていた。その名の通り、流星雨のような煌めく技。



 そして、レインのメガネさえも弾き飛ばす。正確無比な彼が打ち漏らすことはないはずだ。



──これは警告ですよ。




 人を傷つける事を許さないシュテルンの掟を混乱に乗じて破る大胆さと、そのギリギリを攻めてくる狡猾さを持っている証拠。



 レインは彼の明確な挑戦を受ける事にした。



『それを破ることはあなたはできないのに、俺を敵視するとは。ワガママですね、教皇聖下。あなたの大切な人は、俺の腕の中にいますよ。俺はあなたとは違い自由ですから。どうします、シュテルンの御曹司。』



 レインの挑発的な視線に対し、アレックスの緋色の髪は揺らめく炎に見えた。

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