1-3 時計
──翌日。
毎月月末、王宮の一室に国王の友人たちが集まり、お茶会を開いていることは周知の事実となっていたが、中で一体何が行われているかは誰にも明かされる事はなかった。
必ず開かれる不気味なお茶会。
招待される客人は、明らかに異質な雰囲気を持つ者ばかり。
「カイエン様、今朝のセリスの様子は。」
横に並んで歩く、カイエンにそっと耳打ちをする。
「無理やり飯を食べさせた。しばらく休ませたほうがいいだろう。あのままじゃ、遅かれ早かれ、魔法をコントロールできなくなるか、飲み込まれて死ぬ。」
カイエンの表情は厳しく、ただ前を見据えているだけだった。大理石を敷き詰められた長い廊下に無機質な足音が響く。
「夕方、また伺っていいですか。」
不安より心配が勝っていた。あんな初歩的な魔法にかかるほどの状態を見てしまった以上、無視することはできなかった。
「構わない。アイツは俺の顔より、お前の方が喜ぶからな。」
どこか寂しそうで、どこか安心したような声色。剣技を極め抜いた剣聖である前に、一人の娘を心配する親としての姿がそこには確実にある。
「喜んでもらえるなら、なんでもしますよ。」
ふと時間が気になり、内ポケットに入れている懐中時計を見るが、竜頭を巻き忘れていたようで、時は止まっていた。冷たい感触のするプラチナ製の時計の裏には、
『Wen mögen Sie? (あなたは誰が好きなのですか)』
の文字が刻印してある。去年の誕生日にセリスが贈ってくれた時計の意味すら解らないアレックスは、その質問の答えばかりを探している。自分にとっての正しい答えはわかっている。ただその答えを否定されるのを、彼は恐れていた。
壊れるくらいなら曖昧なままでいい。
竜頭を巻くと時計は動き出したが、正確な時間は指していない。どれだけずれているのだろうかと少し心配にはなったが、内ポケットに戻した懐中時計は再び時を刻み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます