二発を二度の硝煙に僕は知らん振りをする

 死神は暗い顔をしていない。ふわっと浮き上がって浮き足立った私の首を薄ら笑みで狙っている。無味無臭で空虚で、けれど微かに香る死の匂いに鼻をつまんだ。

 終わりは悪い形をしていない。未来の放棄は、栄光への諦念であると同時に、落ちゆく恐怖への終止符である。ゆえに歩きゆく足のすぐ後ろを影がぴったりと追っている。眼前を月が輝いている。お前の輝きは自分のものではないだろうと悪態をついたら、ただ嗤う声が聞こえた。それでも己の歩みは止めない。止まらないわけではないが。

 生きることに意味はない。今何をしても、悪逆を尽くしても善行を粗方し尽くしても、結局骨になればそんなに関係はない。仮に地獄か天国があるなら後悔も幾許かあるだろうが、気にしていられるほど暇でもない。ただ生きているだけ。死が堪えがたい苦痛であると刷り込まれたから避けるように歩くだけ。明日死んでもなんとも思わない。ちょっとした後悔なんていつ死んでも残るから、逆説的に今死んだって構わない。頭上、月が煌々と輝いている。嗚呼、太陽の借り物を、我が物顔で偉そうに。

 誰も見ないから、ステップをひとつ、ふたつ。誰も見ていないから、踊るのをやめる。私だけが見ている世界は、誰も見ていないから、存在していないのと同じだ。後方、月の視線が突き刺さる。逃げるように物陰に逃げ込んで、日が昇るのを待っていた。

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